小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

5話――色んな人がいます。

公開日時: 2020年11月14日(土) 17:24
文字数:4,423




「あー、どうしてこうなったんだ……」


 鬱蒼と茂った森の中を、夏雪ことミルクは探り探り進んでいく。


 ここがゲームの中であると信じられないくらい、リアリティのある森林だ。

 風に揺られる木々の音、

 草木と泥の匂い、

 冷んやりと広がる静けさまで。


 現実の森としか思えなかった。


 ――まぁ、ホンモノの森なんて見たことないんだけども。


 内心で自分にツッコミを入れながら、夏雪はひとりで森に放り出されることになった経緯を思い返す。





 風の匂いを感じる。

 久しく味わっていなかった感覚だ。


 夏雪は草原を駆けて、犬型モンスターのグレーンフットに短剣の切っ先を向けた。


 夏雪の接近に気付いたグレーンフットが、身を低くし応戦モードに入る。


「グルルルゥゥ……ッ」


 鋭い牙をむき出しにするグレーンフットに構いもせず、夏雪は正面から衝突する――――


 ――かと思わせて、目の前で飛び上がり、身を宙に投げた。

 クルリと一回転して、草地に着いて、グレーンフットの背後を取る。


 そのあまりの速さと無駄のない動きに、グレーンフットは彼の姿を見失う。


 夏雪は腰を落とすと、グレーンフットの脊髄くびすじに短剣を貫いた。


 ―――critical!!


 パリィンッとガラスが砕け散るような音が響いて、グレーンフットは弾け飛ぶ。


 ―――EXP:16


「……ふぅ、すごいな。ボーナスポイントってやつを振ったら、一気に動きやすくなった」


「すごいですよ先輩! やっぱり先輩はVRゲームの才能があります!」


 タタッとれんかが駆け寄って、尊敬すら混じってそうな面差しで、ギュッと拳を握って夏雪を見る。


 確実に身長差二十センチはある後輩少女《男》に見下げられて、夏雪(|女ミルク)は複雑な気持ちだった。


 が、頰を紅潮させて、興奮しているれんかに手放しに褒められ、嬉しくないといえば嘘になる。


「どうですかっ? 楽しいでしょっ?」


「まぁ、……そうだな」


「ふふっ」


 この上なく嬉しそうなれんか。


「なんだよ」


 少し恥ずかしげな夏雪。


「ふふ、いーえっ、なんでもありませんっ」


 れんかは声を弾ませながら「さてさてそれではっ」と、パンと手を叩く。


「先輩もそこそこ慣れてきたようなので、森に行ってみましょうっ」


「森……?」


「はい、フェアリスの森です。実はそこで先輩にやってもらいたいことがあるんですよ」





「えー、と。なに? これは」


 れんかにつられてやって来たフェアリスの森という場所。

 現実の森と寸分違わぬその有り様に、夏雪は驚いた。

 そのまま、彼女につられていくまま進んでいき、途中で現れた敵は、れんかにサポートをもらいながらも夏雪が全て倒した。

 お陰でレベルもいくつか上がった。

 

 そしてようやくたどり着いたのが――、


「はい、これは、通称『鬼畜のサービスエリア』です」


「は?」


「あぁ、あの植物たちはサービストラップって呼ばれてるんですよ。本当は『イビルプラント』って言うんですけど」


「…………?」


 いまいち意味が分からず、首を傾げる夏雪。


 二人の前に広がっていたのは、明らかに他とは雰囲気が異なる直径百メートルほどのサークルエリアだった。

 その円形の開けた場所には、ツルのような枝を多数生やした樹木が点々と生えている。


 そしてサークルの中央。

 そこには巨大な花が咲いていた。その花弁の中央に、何か光り輝くものがうかがえる。


「アレは?」


 夏雪が指差すと、れんかが答えた。


「あれは『ジュエメール』という花で、真ん中で光ってるのは『花玉かぎょく』っていうレアアイテムです。みんなが欲しがる代物ですよっ」


「レアアイテムって、あんな堂々と置いてあるけど?」


 あれなら、誰でも容易に取ることができそうだ。

 

「チッチッチ、これが違うんです先輩」


 得意げな口調で指を振るれんか。


「この場所はですね――」


 そう、れんかが説明しかけた時だった。


 ガサガサっと、音がした。


「ん?」


「よーしっ!! 今日こそは攻略してやるわ!」


 そんな声が静かな森に響いて、一人の少女がそのサークルエリア――『鬼畜のサービスエリア』に飛び込んで行く様子が見えた。


 夏雪たちがいる地点から少し離れた場所から、急に飛び出してきたその少女。

 彼女は、興奮のあまりか紅潮した表情で、中央に光り輝く『花玉』を目掛けて突っ込んでいく。


「『花玉』だっけ、なんかあの子に取られそうだけど?」


「心配しなくても大事です。そうそう簡単にあれを取れる人はいませんよ」


「?」


 金色の長髪に、切れ長の碧眼。整った眉。その面立ちだけを見れば、クールでかっこいい美少女だ。

 そんな少女は、エリア内に点在するイビルプラントから限界まで距離を取って中央を目指す。


 そして、彼女が十数メートルほど進んだその時だった。


 最も近くにあったイビルプラントの長くてしなやかな枝々が、凄まじいスピードで彼女に襲いかかったのだ。


「くっ、きたわね!」


 身体を捻るようにして、なんとかそれを躱す少女。


 その瞬間をキッカケに、周囲にあった他のイビルプラントもどんどん動き始める。


 多数無数のまるで触手(・・)のようにうごめく枝たちが、彼女の逃げ場をなくしていく。


「あー、なるほど、ああいう風になってるのか」


 つまりこのイビルプラントが、花玉を護る守護者なのだろう。ここを突破するのが難しいから、レアアイテムという訳だ。


「ここはですね、プレイヤーのレベルだけが高くてもどうにもならないんですよ。AGI機動力とDEX《器用さ》、そして何よりPSプレイヤースキルが備わっていないと、突破できないのです!」


「ふむふむ」


 れんかの説明を聞きながら、夏雪はイビルプラントたちがどれほどのスピードで、どのような動き方をしているのか観察する。


「――くぅっ……っ」


「あ」


「捕まっちゃいましたね」


 中々健闘していたようだが、ついに少女はイビルプラントの枝に捕縛される。

 記録は三十メートルと言ったところか。


 が、捕縛されただけで終わるはずもない。それだけで済むなら、何度でもトライしようとする者が大勢いる。


 枝でグルグル巻きにされた少女には、どんどん他の枝が群がってくる。


「うぅ……くっ、わ、わたしは、またこの緑の悪魔に蹂躙されてしまうのね……っ」


 イビルプラント――通称『サービストラップ』の木枝は、触手のようにうねりながら、次々に彼女の手足や首にまで巻き付いていき、そして――――、


「あぁっ、だめっ、そこはだめなのぉ……っ」


 ついには衣服の中にまで侵入し始める触手(枝)。

 スカートの裾がめくれて、真っ白で瑞々しい太ももに遠慮なく絡みついていく。


「こ、こんなことで、わたしが……っんっ、諦めると……っ、思うの? い、いいわっ、何度でも挑戦してあげ……きゃぁあっ」


 服の裾から、枝が出たり入ったり。

 何故だか興奮して頰をさらに紅潮させている彼女のことも相まって、とても子供には見せられない場面シーンが展開されている。


「くっ、いいわっ、わたしを殺したければ殺しなさいっ。でも、こんな辱めを受けたくらいじゃ、わたしの心までは殺せないわよっ、……んっ。

 そ、そんなっ、簡単には殺さないというのっ? 

 こっ、この変態植物! どこまでわたしを……っ、え? ちょ、きゃっ、わわっ」


 そんな様子を見ていた夏雪は、若干顔を赤くしながらも、ポツリとこぼす。


「……なんかあの子、楽しんでない?」


 よくよく見ると、枝の蹂躙に抵抗しながらも、微妙に頰がにやけているのが見えた。


「なぁ、レン――」


 と、夏雪がれんかに声をかけようとする。

 が、そこで夏雪は、れんかが食い入るようにあの少女を見ていることに気付いた。


「くふふ……、さすがサービストラップ、いい仕事しますね……っ。しかも中々私のタイプの娘です。

 あぁっ、スクショしたいっ。でも勝手に撮るのはマナー違反だし……」


「あぁっ、わたしはこのまま変態植物にいいようにされてしまうのね……っ。はぁ……っ、はぁ……ッ! っ、ふふ、ふふっ、うへへ」


「えへ、あぁっ、すごくいい感じですっ。ふ、ふふっ、うへへ」


 ――な、なんだこいつら……っ。


「先輩っ! ちょっとあの娘のとこまで行って、スクショの許可貰ってきてください! この場面は写真に収めないと私一生後悔します!」


「スクショってなに? ていうか、あれっ、助けなくていいのっ?」


「助けなくていいです!」


「断言!?」


「助けないでください!」


「えっ!? なんかあっちからも返事が……えっ……気のせいだよなっ?」


 気のせいではない。


「でも、スクショはしたいので許可を取りたいです……。あ、というより、普通に声届きそうですね」

 

 思い付いたように、れんかはすうっと息を吸って、大きな声を出した。


「すみませーんっ! あなたのことスクショしていいですかっ!?」


「な、なに……っ? あっ、あなたたち、この私を更に辱めようというのっ? いいわっ、やりなさいっ。そんなことにわたしは屈しないんだから……っ!!

 ――いいですよっ!!」


「わーっ! ありがとうございますっ!」


 スチャッと、どこからかカメラを取り出すれんか。その顔はとても嬉しそうだ。


「……うへへ」


 パシャパシャと高速でシャッターを切るれんか。


 もうこれはだめだな、と。

 夏雪は二人の少女を見ながらそう思った。


 そして遂に、パリィンっと音を立てて、少女のアバターが砕け散った。


「あっ、」


「あー……っ」


「え、なにあれ、どうなったの?」


「HPが尽きたんですよ」


「なんで消えたの?」


「この世界では、HPが無くなると強制的にリスポーン地点に飛ばされるんですよ。

 リスポーン地点っていうのは、その際にゲームを再開する場所で、任意に変更が可能なのです」


「スクショって?」


「スクリーンショットの略称です。まぁ、簡単に言うと写真を撮ることですね。この世界でスクショは、このカメラで撮れます。メニューの真ん中あたりにあるので、簡単に使えますよ」


「へぇ」


 夏雪は『鬼畜のサービスエリア』の方へ目をやった。

 謎の少女が消えたことで、何事もなかったようにイビルプラントは大人しくなっている。


「ところで、レンは僕にこれをやって欲しかったんだよね」


「その通りですね。あ、でも勘違いしないでくださいよ? 私は先輩だったら本当に突破できると思って連れてきたのです。あの花玉、本当にレアなやつですから」


 「ですけど」と、れんかは付け加える。


「かよわいミルクちゃんが、緑の触手たちにいいように蹂躙されてしまうのを、見たくない訳じゃないですけど……っ」


 「うへへ」と、だらしない笑みを浮かべるれんか。


「あ、でも、やっぱり私のミルクちゃんがいいようにされてしまうのも嫌かな……。あぁ、でも、触手に捕まるミルクちゃんも見たい……っ。はっ! まさかこれがNTR寝取られの気持ち……っ! 

 ねぇっ、先輩先輩っ!」


「…………どうしたの」


 できれば無視したかったが、れんかの視線に負けて夏雪が訊ねる。


「なにか目覚めそう! 私やばいです!」


 赤らんだ頬を抑え、嬉々として言うれんかに、夏雪は「頭大丈夫?」と問い返した。


「大丈夫ですっ!」


「はぁ、それで、僕はあの花玉を取ってくればいいの?」


「やってくれるんですか?」


「うん、何とかなりそうだから。たぶんだけど」

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