小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

2話――さぁ準備をしましょう。

公開日時: 2020年11月9日(月) 15:40
文字数:3,757





『じゃあ先輩っ、また明日ウチに来てくださいね。明日は土曜日なので、思う存分ゲームができますよっ』


 別れ際、ワクワクした声でれんかは夏雪にそう言った。


 そして、その翌日。

 大した私服の持ち合わせもない夏雪は、何を着て行こうか悩んだ挙句、結局いつも通りの制服で彼女の家を訪れていた。


 昨日、帰宅するときにも思ったが、まさに豪邸である。

 傍目にも目立ちすぎるこの家の存在は、以前より知っていたが、まさか一条院のものとは知らなかった。


 それにしても、と、夏雪は頭の包帯に触れながら思う。


 夏雪は昨日れんかの兄に、ケガの治療をしてもらった。

 そこで驚いたのが、この豪邸の中に医療の設備が完全に整っていたことだった。

 さすがにレントゲンを取ると言われた時は衝撃だった。

 そのお陰で、夏雪のケガが大したものではないと分かったわけだが。


「なんていうか、さすが一条院って感じだな……」


 一目ではとても見渡せない豪邸と敷地。

 夏雪は、見上げるほどの巨大な門を前にして、立ち尽くす。


 ――で、これを押したらいいのか……?


 インターホンと思しきボタンを見る。

 本当に、これを押してしまっていいのだろうか。

 押した途端、警備員に囲まれて連行されたりしないだろうか。


 ――まぁ、招待されてる訳だし……。大丈夫だよね。たぶん。


 ついに夏雪は決心して、ボタンを押す。


 数秒後、スピーカーから声がした。


『はい、どちら様ですか?』


 妙に聴き心地の良い渋い声だった。


「え、あー、あの、僕は、れんかさんに言われて……あっ、立花夏雪って言います」


 焦る夏雪。

 対する返答は、どこまでも落ち着いていた。


『伺っております。申し訳ありませんが、少々お待ちください』


 通信が切れる。


「あー、なんで後輩の家に来るのにこんな緊張しなきゃいけないの……、……ん?」


 そこで夏雪はとんでもないことに気づいた。


 ――もしかして、僕が女の子の家に遊びに行くのってこれが初めてじゃないか……?


 衝撃的である。

 まさか女子のお宅訪問の初めてが、このような形になろうとは。

「なんか別の意味で緊張してきた……」


 その時、目の前の門がひとりで動き始めた。

 夏雪は盛大にビビる。


「うおっ、!」


 静かに開いて行く門を、初めて見る生物を観察するような目で見る夏雪。


 そうして、中から小柄な少女が飛び出してきた。


「せんぱーいっ、いらっしゃいです! ちゃんと来てくれたんですね、安心しましたっ」


 タッと足をついて、夏雪の目の前に立つれんか。

 後ろ手を組んで嬉しそうに笑う彼女に、夏雪は首の後ろを掻きながら答える。


「まぁ、ちゃんと約束したから……」


「ところで、頭の方は大丈夫ですか?」


「うん、丁寧に治療もしてもらったし、今はもうほとんど痛まない」


「それはそれは、良かったです。それではっ、さっそく私と遊んでもらいますね」


 いうや否や、れんかは夏雪を強引に引っ張って行く。


 れんかに引っ張られながら、夏雪は敷地内を見渡す。

 昨日も同じことを思ったが、一般市民の夏雪からすれば、考えられないような広さである。

 まさに暮らす次元の違う、そんな所のお嬢様と、夏雪は今こうして関わっている。


 妙な巡り合わせもあるものだと思いながら、目的地に着くまで、夏雪は常にテンションの高いれんかの相手をしていた。






 『Fantastic World』――通称、FW。


 それは、去年の春にサービスを開始してから人気を博し続け、VRMMORPGと呼ばれる完全没入フルダイブ型のゲームである。


 本格ファンタジー世界――フィルグラムを舞台に、プレイヤーは冒険者としてこの広大な世界フィールド開拓ぼうけんしていく。


 彼らを待ち受けるのは、凶暴未知のモンスター、目を見張る宝物、想像を超える神秘ミステリー、血が湧き、肉踊る大冒険だ。


 プレイヤーは、種族、職業としてのアドバンテージ、無限に広がるスキル、魔法を極め、自分だけの戦術を創り出し、それらに立ち向かう。

 もちろん、鍛治師や調合師、商人や魔術研究者としてサポートに徹するのも良いだろう。


 楽しみ方は無限大。

 自分だけのプレイスタイルを見つけ、この雄大で謎多き世界を生きて行こう。


 第二の現実セカンドリアルがここにある。


 ――次の冒険者は君だ!






 仮想世界に接続するためのVR専用コネクトハードウェア――コネクターは、発売から一年以上経過した今でも、価格は良心的でない。

 要するにとても高価なのだ。

 

 その上、一つのコネクターにつき、設定できるアカウントは一つだけである。

 ただし、アカウントを一度消去して新しく作ることや、別の人物が同じアカウントを使うことは不可能でない。

 すなわち、成長したり体型が変わったとしても、変わらず同じアカウントを使い続けることができる(定期的な更新は必要)。


 ただしアカウントの消去は、サーバーに負担をかけるため、あまり推奨はされておらず、連続で行うとペナルティーもあり得る。



 れんかは、サブアカウントを持っている。


 つまり彼女はコネクターを二つ所有しているのである。

 コネクターは高価であるため、サブアカウントを持つことにあまりメリットはない。

 にもかかわらず、二つのアカウントを所持している彼女は、やはり一条院家のお嬢様と言うべきだろうか。



 それは以前のことである。

 れんかはサブアカウントで希少な種族を当てたことがあった。

 FWに置いて、プレイヤーは自分の種族を選択することが可能である。

 例えば、人間ヒューマン獣人ビーストマン海精人セイレーン森精人エルフ妖精フェアリーなどと他にも、その種類は多数に及ぶ。


 しかし、少数の希少な種族に関しては、最初の種族選択でランダムを選び、運に任せるしかないのだ。


 故に、レア種族を引いたれんかは喜んだ。


 が、FWは完全没入フルダイブ型。プレイヤーの技量スキルに左右される割合がとても高い。

 だからこそのVRと言ってもいい。


 つまりFWには、操作しやすい種族、職業と、そうでないものが存在する。



 れんかが引いた種族は、おおよそFWの中で最も扱いにくいと言われている中の一つだったのだ。


 そしてれんかは、現実においても仮想世界においても、運動神経がポンコツの不器用少女であった。





「でも、せっかく当てたのに消しちゃうのはもったいじゃないですかっ? だから、運動神経が良くて、私と一緒にFWをやってくれそうな人をずっと探してたんですよ。

 それで、その最強種族を使ってもらって、私のFWライフをサポートしてもらうんです!」


「君の目から見て、僕は一緒にゲームをやってくれそうなのか……」


「はいっ!」


 とても元気のいい声が返ってくる。


 何故、面識もなのに、そのように思われているのか。疑問だ。

 第一、夏雪は始めは断ったはずである。


 結局こうして、彼女のお願いに付き合う形になっているのだから、案外間違ってもないのかもしれないが。


「それで? 僕は何したらいいの?」


「はい。まずはこれをつけてください」


「これがコネクターってやつ?」


 大きめのゴーグルのような形だった。水泳ではなく、スキーの際に使用する方のゴーグルだ。


「そうですね。私のサブ垢がはいってます。これで、仮想世界に接続することができるんですよ!

 とりあえず、先輩の身体データに適用しなきゃなので、そこに立ってもらえますか?」


「これでいい?」


 れんかに促された通り、夏雪は部屋の中央に立つ。

 

「おっけーです」


 するとれんかはコネクターをカチャカチャと操作してから、薄く広がるような光を出した。


「ジッとしててくださいね」


 スッと光を夏雪に当て、スキャンを完了させる。


「これで登録は完了です」


 満足そうに息をついて、れんかはコネクターを夏雪に手渡した。


「え、もう?」


「これで十分です。先輩の身体データは、これで全部登録されました」


「身体データって、体重とかも?」


「はいっ。びっくりしましたか?」


 ふふっと、なぜか誇らしげに笑うれんか。

 大きく胸を反らせるが、虚しさが強調されるだけであった。なお、本人は気にしていない様子。


「本当にすごいな……、ちょっと信じられない。これなら、学校の身体測定とかもこんな風にしたらいいのに」


「その辺りには色々事情があるんです。まぁこんなのが一般に広まるのも、時間の問題でしょうけどね。

 先輩、ニュースとかあんまり見ない人ですか?」


「そうだな……、この一年くらいはずっとそんな感じかも」


「じゃあ、きっとセカンドリアルを見たら、先輩はすっごく驚くと思いますよ?

 さぁさぁ時間がもったいないです。早速始めちゃいましょうっ」


 れんかに急かされるまま、夏雪はコネクターを装着して、やけにしっとりとした妙なベッドに寝かされる。

 

「はい、それでは先輩。『コネクト・オン』って言ったら起動しますので。

 次に気付いたら、真っ白な空間にいると思います。そこに『Fantastic World』ってアイコンがあるはずなので、それに触ってください。そしたら、私に会えますからっ!」


 れんかは「待ってますからねーっ」と言い残して、その部屋を出て行った。


「……」


 明るく賑やかな雰囲気を持つれんかがいなくなると、その場が妙に静かに感じられた。


「……まさか、こんな風にゲームをやるなんて思ってもなかったな」


 沈黙を打ち消すように独りつぶやいて、夏雪は「よしっ」と言った。


 ――さて、それでは始めるとしよう。


 本音を言ってしまえば、VRというものに興味がないわけではないのだ。


「えー、『コネクト・オン』」


 そう唱えた次の瞬間、夏雪の意識は仮想世界へと向かったのだった。

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