小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

3話――これがセカンドリアルです!

公開日時: 2020年11月10日(火) 11:00
文字数:2,775



 ふと気付くと、夏雪は真っ白な世界にいた。


「……え? なんだこりゃ……」


 驚きの白さに、夏雪はポカンと口を開ける。

 身体を見下ろすと、そこには真っ白な服を着た自分がいた。


「ここはもうゲームの中なのか……?」


 夏雪は信じられない気持ちで、自分の身体を動かしてみる。

 何ら不自由なく動く。むしろ現実よりも身体が軽い。今なら何でもできそうな気分だ。


「すごいな、これ……」


 まさか、ここまでとは思わなかった。


 タンタンと夏雪は軽く地面を蹴って、足の調子を確かめる。


「……普通に動くんだな。なるほど、『セカンドリアル』ね……」


 れんかの言っていたその言葉の意味が、ようやく理解できた気がした。


 ふと、その時、夏雪の視界に『白』以外の何かがチラつく。


 『Fantastic World』と、イタリック体で描かれた明るいアイコンが浮かんでいた。


「そういや、これに触れるんだっけ」


 恐る恐る触ってみると、「ポーン」と軽い音がした。


『――Fantastic World――を起動しますか?』


 と、聴き取りやすい合成音声が聞こえた。


 『はい』 『いいえ』


 二種類の選択が目の前に現れたので、夏雪は『はい』をタッチする。


 するとまた声が聞こえた。


『――Fantastic World――を起動します――

……Now loading


――身体データ更新確認、異常ありません


――適応済みです


――ロード70%


――ロード96%



――――完了しました


 ――コネクトシステムオールグリーン――


 ――それではシステムを開始します――


――健康に十分配慮してお楽しみください』


 準備が整うまで、およそ三十秒もかからなかったようだ。


 そして夏雪の意識は、この場にやって来た時と同じように、今度は『Fantastic World』の世界――フィルグラムへと誘われる。





 夏雪は、強烈な違和感に襲われていた。


「……え、……ごめん、……え、ちょっと待って、なに、これ、え?」


 口から出てくるのは、可愛らしいソプラノボイス。

 

 明らかに自分の背が縮んでいることに、夏雪は焦る。

 何かが明らかにおかしかった。


 そこは、街の中央通りのような場所だった。

 様々な道が交差して、中央に巨大な噴水が置かれるような形になっている。


 現実の人間と何も見分けのつかない人たちが、思い思いに行動している。

 喧騒と熱気。

 本当にここはゲームの中かと疑いたくなる。

 けれど、明らかに現実と違う点がいくつかあった。


 まず、人の頭の上に名前が浮かんでいる。

 名前が浮かんでいる人と、そうでない人がいるが、違いは何なのだろう。

 次に、頭から獣の耳が生えた人や、耳の長い人、ヒレや鱗が付いていたり、羽が生えている者もいる。

 もしやあれが、れんかの説明していた『非純人種』という奴だろうか。


 なるほど、確かにここはゲームの中なのだ。


 自分の身に起きた異変も一瞬忘れて、夏雪はその幻想的な光景に目を奪われた。


 目の前を、ピコピコと猫のような耳を震わせながら、一人の女性が通り過ぎていく。


 何気なく、夏雪は自分の頭に手を伸ばした。


 そして、遂に自覚する。


 自分の頭部に、もっふもふの獣耳が生えていることに。


「……」


 一周回って冷静になり、夏雪は落ち着いて、噴水の水面に自分の身体を映した。


 そこに映っていたのは、紛うことなき犬耳美少女の姿であった。


「なんじゃこりゃぁぁぁあああああ!!」


 絶叫である。


 訳が分からずに、ペタペタと自分の身体を確かめる夏雪を、周囲の人々が注目する。


「どうした? なんか困ったことでもあったか?」


 話しかけて来たのは、背丈が二メートルに届きそうな強面こわもての大男。背中に大剣を背負っていた。


 突然話しかけられ、夏雪は飛び上がる。

 目線の高さが違いすぎる。


 夏雪はほとんど見上げるように、大男を確認。頭上には、『ブレイグ』と名前が表示されていた。


「え、え、あ、あの、僕は……その、僕は……す、すみませんでしたぁぁ!」


 夏雪は逃走した。

 まるで風のようなスピードでその場から消え去った夏雪に、残された男ブレイグは、目を丸くしていた。





「もーっ夏雪先輩、探しましたよ? 何で勝手に噴水から離れちゃうんですか!」


 街の中央である噴水から相当離れた場所で、夏雪は一人の青年に捕まっていた。


 長身細身で、少し長めの黒髪が目立つ温和そうな青年だった。どこか中性的な印象を受ける。

 こんな人物、夏雪は知らない。

 なのに相手は、自分のことを『夏雪先輩』と呼ぶのだ。

 そして、よくよく顔を観察してみれば、どことなく既視感がある。


 流石にここまでくれば、夏雪も全てを察した。


 つまりこの世界では、現実とは異なる姿であることが出来るということだ。性別すらも例外でない。


「おいっ、一番大事なこと黙ってたな! 何だこの姿は! あとその姿も何なんだよ!」


 もはや後輩とか、一条院家のお嬢様とか、そういうのは全く気にせず、夏雪は目の前の青年――れんかに詰め寄る。


「だ、だって、本当のこと話したら先輩一緒にやってくれないんじゃないかって……。あっ、ちなみにそれは私のサブアカウントの『ミルク』ちゃんです! 私の好みを全部詰め込んでみました!

 先輩、最高に可愛いです! うへへ」


 満足そうな顔でグッと拳を握り締めるれんか。

 うっとりと夏雪を見つめるその瞳に、どこか危ない匂いを感じて、夏雪は一歩後ずさる。


「それで、その姿は何なんだよ……」


 すでに呆れたような夏雪。


「これですか?」


 自分の姿を見下ろすれんか。その声は、どことなくれんか本人の声を思わせるが、やはり男性のトーンだ。

 そしてその顔も、どこかれんかの面影を感じさせ、中性的ではあるが、やはり男だ。


 対する夏雪の声は、完全に見た目と合致しているのだが。もはや彼の要素はどこにもない。

 


「これは私の本アカウントの『レン』です。まぁそんなことはどうでもいいのです。

 ところで先輩、一つお願いがあるのですが」


「な、なに……」


「抱きしめてもいいですか?」


「は?」


「わーっ! ありがとうございます!」


「まだ何も言ってない!」


 夏雪の制止も聞かず、れんかは夏雪の身体を抱きしめて、持ち上げる。

 どうすることもできず、なされるがままにされる夏雪。


 耳を揉まれ、頬ずりされて、揉みくちゃにされる。


「きゃーミルクっかわいいよミルクちゃん。ミルクたんかわいいよっ!

 これっ、これですよ私が求めていたものは!

 やっぱり自分が理想のになるんじゃダメですよね! だってこういうことできませんもん! はぁっ、はぁっ、先輩かわいいです!」


 興奮して、鼻息を荒くして、一人の青年が小柄で幼さの残る犬耳少女を撫で回す。


 もしもこれが現実リアルであれば、一発通報もやむなしの状況だ。


 しかしここは、現実ではないのだ。


「『セカンドリアル』っ、これこそがセカンドリアルです! 言いましたよね? セカンドリアルには夢があるのです! セカンドリアルには夢が!」


「うるさいよ!」


 二度目の絶叫(高音ボイス)が、フィルグラムにて響き渡った。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート