小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

4話――犬耳じゃなくて狼耳なのです。

公開日時: 2020年11月11日(水) 17:15
文字数:2,811




「銀狼?」


「はい、銀狼ぎんろう、ミルクちゃんの種族名です」


「銀狼、か……」


 夏雪は自分の犬耳、もとい狼耳を触りながら呟く。

 どうやらこの耳、自らの意思で動かせるようだ。不思議な感覚である。


 試しにピコピコと耳を揺らしてみると、鼻先にエサを吊るされた獣ような瞳で、れんかがその動きに釘付けになったので、夏雪は引きつった表情で一歩後ずさる。


「そ、それで? 僕はこれからどうしたらいいの」


「あ、はいっ。先輩には操作方法を覚えてもらいます。そのキャラは、元々私が使ってた奴なのでチュートリアルとかをもう受けられないんです。だから、私がしっかり教えますね」


「操作方法って、普通に動かせるけど?」


 腕を回したり腰をひねったりする夏雪。そんな何気ない仕草にも、れんかが「ミルクちゃんかわいい……うへへ」と反応する。


 夏雪は世界有数とも言える一条院家のお嬢様に対して、内心とはいえ「こいつやばいな……」と思った。


「こほん。まぁ、確かに身体を動かすことは問題ありません。現実とおんなじですから」


「じゃあなに?」


「それはもちろん、メニューや施設の使い方とか、スキルとか魔法の発動方法ですね。ではではっ、システム操作の基本を教えますので、草原に向かいましょうっ」





「――『ソニックアタック』」


 夏雪の音声が《ワールドシステム》に認識、認証され、『攻撃スキル―ソニックアタック』が発動する。


 短剣ショートソードを握る夏雪ミルクの脚が青い輝きを放ち、加速した。


 標的は『モンスター――ブルーバル』。コロコロと緑の草原を転がる、緑色の丸い生き物だ。


 一筋の光と化した夏雪は走り抜け、短剣の切っ先がルーバルを貫く。


 パァンと風船でも割れるような音を立てて、ブルーバルは爆散。パラパラとポリゴンの欠片が散って、夏雪の前に半透明のウィンドウが現れた。


 ―――EXP:3 

 ―――drop item:『ブルーバルの核』


 と、それだけ表示されて、すぐにウィンドウは閉じられる。


「おぉおおおっ、すごいですよ! やっぱり思った通りですっ! ミルクちゃん〜っ!」


 ダダッと遠くかられんかレンが駆け寄ってくる。


 夏雪はすぐさまそれから逃げ出そうと身構えるが、その前にステンとれんかがこけた。


「ぶっ!」


「何やってるんだよ……」


 草原に張り付くようにして転んだれんかを、夏雪が呆れながら起こしてやる。


 れんかを起こす際に、パラパラと草の欠片が散ったことに夏雪は驚く。


 ――本当に現実と変わらないな。


「てて……、ありがとうございますミルク」


「あのさ、そのミルクって呼ぶのやめてくれない?」


「えー、かわいいのにー……」


「可愛いのが問題なの」


「えへへ、ありがとうございます」


「褒めてないからね?」


 いやいやと手を振る夏雪。頭に手をやって照れるれんか。


 夏雪はふっと吐息をこぼした。


 自分の身体を見下ろすが、そこにあるのは紛うことなき女の子。

 確かに可愛いことは認めるが、それが自分自身となると、何かが違う気がする。というか絶対に違う。


「まぁそれは置いておいて、先輩っ。どうでしたか?」


「なにが?」


「感想ですよ感想っ! モンスター初討伐の感想はどうですっ? 初めてとは思えないくらい鮮やかで決まってましたよ!」


 グッと親指を立てるれんか。


 夏雪はポリポリと頰を掻きながら、少し恥ずかしそうに顔を逸らす。


「……まぁ、正直少し楽しかった……うん」


「〜〜っ! ツンデレですか? ツンデレですかミルクたん! ついにデレたんですか! デレるのは私だけですかっ?」


「何言ってるんだよ……」


 とても嬉しそうな顔でクネクネと身をよじっている変態男(中身はお嬢様)を前にして、夏雪は深く息を吐く。


「それにしてもこの身体はすごいな。こんな華奢なのに、理想以上の動き方をしてくれる」


 夏雪は軽くピョンピョン飛び跳ねてから、肩を回し、指の間に挟んだ短剣をクルクルと操った。


 片目を閉じて、視線の先に先程と同じモンスター『ブルーバル』を捉える。射程範囲だ。


「よっ、と」


 肩から肘、指先にかけてと、しなやかな力の流れが短剣に伝わって、射出される。


 ――投擲。

 投げナイフの要領で飛ばされた短剣は、クルクルと流麗に縦回転しながら、少し離れた位置で転がっていたブルーバルの眉間に突き刺さった。


「あ、当たった」


「当てたんですか!?」


 ―――critical!!


 そんな表示が、ブルーバルの頭上に浮かんだかと思うと、先と同じく爆散してキラキラとポリゴンを散らした。


 ―――EXP:4

 ―――Drop Item:『ブルーバルの皮』


 そしてウィンドウが閉じる――と思いきや、


「……ん?」


 ―――LvUp!! Lv3→Lv4 

 ―――Congratulations!!


 「パッパラーっ!」と明るいBGMがその場に響き渡る。


「お、なんかレベルが上がったみたい」


「す、すごいですね。そのキャラでそんな芸当ができるのは、ホントにすごいです」


「そんなにすごいの?」


「ええっ、性能の良いキャラが扱いやすかったら公平じゃありませんからね。だからこそ私は先輩にこれをやって欲しかったわけですが。

 正直言って予想以上です! 普通、始めて一時間も経たずにここまでできませんよ! さすがっ私のミルクちゃんですー!」


 ガバッとれんかが夏雪ミルクを抱きしめようとするが、夏雪はひらりと抱擁を躱す。

 空を掴んで、顔面から草原と出会いを果たしたれんか。


 顔を抑えて「うぅぅ……っ」と唸ってから、れんかはガバッと起き上がる。


「痛いですよ!」


「僕は何もしてないだろ」


「そうですけど、うーっ。ちょっとぐらいドジしてくれる方が、属性的にもいいと思うんです。ツンデレドジっ子でちょっと恥ずかしがり屋さんとか! 恥ずかしがり屋さんとか! 私の大好物ですっ! うへへ……」


「ごめん、ちょっと何言ってるのかわかんない」


「でも既にケモ耳もついてますからね、流石にちょっと盛り過ぎかもしれません。うー、難しいところですね。先輩はどう思います?」


 「明日も晴れますかね?」

 そんな、まるで天気のことでも聞くような軽い調子で、れんかは夏雪に問いかけた。


「うん、だから何言ってるのか分かりません」


「え? じゃあもう一回説明しますけど」

 

「や、やっぱりもういいよ。れんかちゃんの

気持ちはよくわかったから、うん」


「あ、先輩。名前のことなんですけど」


 何かを思い出したようにれんかは言った。


「この世界では、私のことは『れんか』じゃなくて、『レン』って呼んでください。それがここでの『私』です。

 私も先輩のことは、絶対に本名では呼びませんので。まぁ、使ったとしても『先輩』がギリギリですかね」


「えー、つまり、レンちゃんって呼べばいいの?」


「いや、流石にそれは違和感があるので」


 ――確かにそうだな。


 それを言えば、この姿で、れんかが夏雪を『先輩』と呼ぶのも違和感があるが。


「だから普通に『レン』って呼び捨ててください。別に本名にも付けなくてもいいんですけど」


「まぁそういうことなら、分かったよレン」


「はいっ、よろしくですミルク」


「だからミルクはやめてくれ……」

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