小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

8話――まだまだまだ遊び足りないです。

公開日時: 2020年11月25日(水) 19:20
更新日時: 2020年11月28日(土) 00:58
文字数:2,615





「ミルクちゃーんっ! 寂しかったぁぁっ!!」


「だからミルクって呼ぶな!」


 再開するや否や飛びかかってきたれんかをするりと躱す夏雪。

 勢い余ったれんかは、顔面で地面を削りながら滑っていく。


「うぐぅぅ、先輩ひどい……」


「こんなの誰でも避けるからね?」


 赤くなった鼻先を抑えながら、れんかは夏雪の元に歩み寄る。


「ともあれ再開できてよかったですっ。私が寂しかったのも本当ですけど、何よりもミルクちゃんが誰かに誘拐されちゃわないかって思って、ずっとドキドキしてました」


 「ふーっ」と安心したように胸を抑えるれんか。


「なんでそうなるの……」


「だってミルクちゃん可愛いんですもんっ」


「……はぁ」


 そろそろ訂正するのも疲れてきた夏雪。

 もう諦めるしかないのかもしれない。


 そこで、夏雪は気になっていたことをれんかに訊ねる。


「ちょっと訊きたいことがあるんだけどさ」


「はいはいっ、なんですか?」


「この世界の人たちの容姿――アバターって言うんだっけ、それってさ、現実の容姿も何か関係してきたりするの?」


「へ? んーむ? あー、確かにそうかもしれませんね」


 少し悩んだ後、れんかは納得したように頷いた。


「どういうこと?」


「実はですね、私が今使っているこのレンのアバターは、私がベースになってるんですよ」


「……つまり?」


「つまりですね。先輩は、私が作成したデータを引き継いでるので知らないのも当たり前なんですけど、こういう別姓や、素顔とは異なるアバターを作るのって、結構大変なんです」


 その後のれんかの説明をまとめると、次のような感じだった。


 アバターのベースとなるのは、あくまで読み込みをした本人の姿で、そこから修正を加えていくということになる。

 だがこれの加減がかなり難しく、やり過ぎたり、調節に失敗すると、違和感が大変なことになる。


「それって要するに、このアバターも君がベースってこと?」


 夏雪が自分の身体を見下ろす。


「ふむ、確かにそうですね。でもミルクちゃんはミルクちゃんですし、私は私です。

 いくらベースが私でも、ミルクちゃんは丹精込めてつくりあげましたからね。私ともそこまで似てませんし。一週間くらいかかったんですよ? 納得できるのが完成するまで」


「一週間って……」


「ふふ、すごいでしょー」


 夏雪は呆れただけなのだが、それに気づいていないれんかは胸を張る。


「まぁ、なるほどね。聞きたかったことは聞けたよ。ありがとう」


「どういたしまして。他にも聞きたいことあったら何でも言ってください。私、この世界のことに関しては割と詳しい方だと思いますので」


 ふふっと、れんかが含むような笑みを浮かべた。

 首を捻る夏雪だったが、はたとそこであることに気がつく。


「あ、ていうか今って何時?」


 すっかり時間のことを忘れていた。


「リアルではちょうど夜中の七時ですかね。まだまだ大丈夫です」


 メニューを開いて時刻を確認しつつ、あっけらかんと言うれんか。

 が、それを聞いた夏雪は驚く。


「え、もうそんな時間なのか。じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」


「えーっっっ!! 何でですか!」


「いや、何でって。これ以上遅くなったら、ウチの家族が心配するし」


 それを聞いたれんかは、ふっと勝ち誇った笑みを浮かべる。


「ノープログレムです。今からじいやに、先輩が今日はウチに泊まるってことを、先輩の家に連絡させますから」


「問題だらけだよ。そんなことはできないって」


「できます。ウチの身内は、だいたい私に甘々なので」


 ふっふっふっと、得意げに笑うれんか。


「いや、そう言う問題じゃなくてね? あー、とりあえず帰るよ。メニューからログアウトだっけ」


 メニューを開いてログアウトの項目を探す夏雪。


「わぁぁ、先輩ストップっ」


「むぐ」


 背後から夏雪を抱きしめるれんか。


「おい、なにすんだよっ」


「あー、ミルクちゃんからいい匂いが……」


 その拍子に夏雪《ミルク》の髪の中に鼻先を突っ込んで、はぁはぁと息を荒げているれんかに、夏雪は呆れる。


「……おい」


「はっ、すみません。ちょっと意識が飛んでました」


「ほんとに頭大丈夫か……?」

 

「大丈夫です! これでも私、それなりに頭いいんですよ! すごいでしょ?」


 ――なに言ってんだこいつ……。


 れんかに抱きしめられたまま、夏雪は「ともかく」と、話を引き戻す。


「僕は帰るからな」


「いやです! もっと先輩と遊びたいです!」


 「いやーっ!」と繰り返しながら、鼻先をグリグリ夏雪ミルクの登頂に擦り付ける。


「あのな……。はぁ、分かったよ。時間がある時なら、また今度付き合うからさ」


 夏雪がこのVRという世界に、魅せられてしまったというのは、否定できない所だ。


 たまにの息抜きなら、また楽しんでもいいと、そう思った。


「うー。……ほんとですか?」


「ほんとうだって。だから早く離して」


 完全に納得した風ではなかったが、渋々夏雪を離すれんか。


「じゃあ先輩っ、絶対また私と遊んでくださいねっ」


「分かったよ」


 いったい自分のどこが気に入られてしまったのかと、疑問に思いながら、夏雪は頷いた。





 れんかに『爺や』と呼ばれていた歳老いを感じさせない渋い老人に、車で送ってもらい帰宅した夏雪。


 結局、時刻は八時を過ぎており、こんなに遅い時間に帰ることは夏雪にしてはかなり珍しい。


 一応、事前に連絡したものの、果たしてどのように思われているのか。


「まぁウチの親、割と適当だからな」


 そんなことを呟きながら、夏雪は玄関の扉を開ける。


 すると、ダダッととある人影が走ってきた。


「あっ、おにいやっと帰ってきた!」


 妹のゆずである。今年で中学二年生になり、思春期真っ盛りだ。


「ねぇねぇおにいどこ行ってたのっ?」


 普段とは異なる兄の帰宅に、興味津々の様子。


「別にどこでもいいだろ。それより、母さんは?」


 適当にあしらいながら、夏雪は靴を脱いで廊下に上がる。


「あっ、ごまかした! おにいごまかしたでしょ! なんか変なことしてたんだ!」


 夏雪の周囲に張り付いて、疑いの目を向けるゆず。


「はっ! まさか。まさかとは、思うけど、おにい彼女できたのっ?」


「ちっ、違うって!」


 一応、女子と遊んできたことは事実なので、妙な反応を返してしまう夏雪。


 そんな兄の様子を見たゆずは、口を開け、愕然とする。


「そ、そんな、あのおにいが……っ、」


「だから違うってっ」


「わぁぁぁっ、お母さぁぁぁあんっ!」


「わぁあっ、ゆずっ、ちょっと待って! おいこらっ!」


 叫びながら廊下をかけていくゆずを、夏雪は全力で追いかける。



 普段とは違う夏雪の一日は、そんな感じで終わりを告げた。

 

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