小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

10話――ほら、ウソも方便っていうじゃないですか。

公開日時: 2020年11月28日(土) 16:06
文字数:2,628




 凩小秋は猫派である。

 故に彼女は、学校の帰りに野良猫と戯れるのが日課だ。

 しかし先日のこと、その日課の故なのか、彼女はとある事故現場を目撃することになる。

 それは見知ったクラスメイトが、猫を助けようとして車に轢かれかけるというものだ。

 幸いにも命に別状はなかったようで、それを(盗み)聞いた時、彼女はとてもホッとした。


 立花夏雪という生徒を、今まで特に気にしたことはなかった。

 それは夏雪が目立たない生徒というわけではなく、小秋自身が周りに興味を抱いていないせいだろう。


 しかし、今はとても気になる。


 この休日の間、果たして彼が無事だったのかと、ずっとハラハラし続けた。

 どうにかして夏雪の連絡先を手に入れようかと何度も思ったが、実行するには至らなかった。

 というより、どうにかして連絡先を手に入れられるほど彼女に人脈がなかったという方が正しいか。

 実際、彼女の携帯に登録されているのは、ほぼ家族のものだけである。


 それに気付いた時、彼女は愕然としたものだ。

 自分の交友関係がどれほど薄かったのかを、改めて思い知った。


 ――まぁ、でも、私には猫がいるし……。


 そう言い聞かせるも、どこか釈然としない。


 とまぁ、それはともかく。


 夏雪が無事と分かった今でも、彼女は夏雪のことが気になっていた。

 ではなぜ気になるのか。

 きっと『彼にお礼を言いたい』というのが主な理由だと彼女は思う。


 彼がクロを助けてくれなかった時のことを思うとゾッとする。


 だから小秋は夏雪にお礼を言うべく、何度もその機会をうかがっていた。

 しかし、中々その機会は訪れなかった。


 だって、夏雪が一人になってくれないのだ。

 これではまともに話しかけられないではないか。


 そんな悶々とした気持ちを抱えながら、小秋は学校での時間を過ごした。


 そして放課後もまた、彼女は夏雪が一人になる機会をうかがい続ける。


 教室にて携帯の画面を眺めていた夏雪を、小秋はジッと見つめていた。


 ――い、今なら、一人だよね……。話しかけるなら、今しか……。


 ちょうど夏雪が座る席の対角線上で、行くか行くまいかと迷う小秋。

 そうこうしている内に、夏雪は席から立ち上がるとカバンを背負い、教室を出て行ってしまった。


 ――あ、あぁ……。


 帰宅するのだろう。

 小秋は慌てて自分の荷物を掴むと、夏雪の後を追う。

 

 ――か、帰る時なら、一人だよね。うん、よし、その時に話しかけよう。よし、決心したぞ。


 夏雪は小秋がつけていることに全く気付かずに、昇降口を通って校門の方へ向かう。


「あ、せんぱーいっ!」


 突如として聞こえた元気な声に、小秋はビクリと肩を震わせた。


 校門の方から一人の少女が駆け寄って来て、夏雪の前に立つ。


「よかった。ちゃんと来てくれたんですね」


「いや、そりゃそうでしょ」


「ではでは、早速行きましょう」


 グイグイと夏雪の裾を引っ張りながら、校門の外へ引っ張り出して行く少女。

 

 ――この子、昼間にも来て立花くんと喋ってたけど、誰なのかな……。


 疑問に思いながら、小秋は夏雪の追跡を続ける。


 ――リボンの色が赤だから、一年生だよね。立花くんのこと先輩って呼んでるし。


 そこで小秋は、とある可能性に行き着く。


 ――……はっ、ま、まさか、あの可愛い子。立花くんの彼女……、だったりするのかな。

 二人とも、すごく仲よさうだし。楽しそうに喋ってるし。……何喋ってるかは分からないけど。

 でも、でも、別におかしいことではないよね。立花くん、クロを助けてくれた時もすごく勇敢でカッコよかったし……、あの女の子も私と違ってすごく明るそうだし、すごい可愛いし……。うぅ……、私と全然違う……。


 そんなことをグルグル考えながら彼女は夏雪たちの後を追い続け、ふと気づくと全然知らない場所にいた。


 ――え、ここどこ?


 小秋がグルリと辺りを見渡すと、とんでもなく規模の大きい豪邸があることに気付いた。


 ――な、なにこれ。こんな大きな家、こんなとこにあったんだ……。


 ほぉ……っと感心したように呆ける小秋。


 その間に、豪邸の入り口の門から当たり前のように夏雪とれんかが入っていく。

 

 ――えっ、なになに。もしかしてここって立花くんのおうちだったりするの?

 し、しかもこんな時間から彼女を家に連れこんで、な、なにするつもりなんだろ……っ。


 思わず自分の脳裏に浮かんだイメージに、彼女はボッと顔を赤くする。


 ――い、いやいやいや、でも、まさか、え、でも……っ、


 中に入り込んでいく二人を見つめながら小秋は呆然と立ち尽くし、しばらくその場から動くことができなかった。





 一条院家の一使用人である『爺や』に勉強を教えてもらうことになった夏雪だが、その『爺や』が本日は不在であるということが発覚した。


「え、そんなこと聞いてないんだけど?」


「だって言ってませんもん」


 これで二度目となるれんか宅に到着していた夏雪は、その事実を知って、責めるような視線をれんかに向ける。


「なんで言わなかったの?」


「忘れてました!」


 片手をパッと上げて、元気よく答えるれんか。

 

「本当は?」


「う、嘘です、すみません。わざと言ってませんでした。だからその怖い笑顔やめてください。先輩こわいです」


「はぁ……」


 夏雪は呆れたよう息を吐く。


「でもっ、先輩は私とゲームしてくれるって約束しましたよね?」


「まぁ、そうだけど」


「大丈夫ですよっ。爺やは本当に勉強教えるのがうまいですしっ。

 ゲームしかしてない私の成績をトップクラスまで上げるくらいですしっ」


「そう言われると、説得力がすごいね」


「でしょっ? と言うわけで先輩っ。ゲームをしましょう」


 満面の笑みで答えるれんかであった。



 ◯


 

 結局、れんかの策にはめられてしまった感が拭いきれないまま『Fantastic World』にログインした夏雪。


 銀髪狼耳美少女ミルクと化した夏雪は、長身優男レンの姿となったれんかと共に、街中を歩いていた。


「それで、これからなにをするの?」


 ゲームをやった経験が少ない夏雪は、どのような楽しみ方をすればいいのか、イマイチ見当がつかない。


「はい、今日はちょっとやりたいことがあるので、私のフレンドと合流します」


「やりたいことって?」


「一昨日、私と先輩がFWやった時に、森の中で巨大グマに追いかけられたじゃないですか?」


「あぁ、あれね。あれがどうしたの」


「あのクマには『暴れ熊アング』っていうユニークネームが付いてました。つまり『ネームド』で、超レアモンスターなんですっ」


 興奮した様子のれんかは、弾むような声でそう言った。


「一緒にアイツを討伐しに行きましょうっ」

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