小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

9話――学生は学校に行かなくてはいけないのです。

公開日時: 2020年11月25日(水) 19:22
更新日時: 2020年11月28日(土) 00:57
文字数:2,199




 ――妙に視線を感じる。


 それが今日の朝から夏雪が感じていた違和感に対する感想である。


 後輩のお嬢様れんかとVRという今までにない経験をした休日を置いて、その週明け。


 いつも通りに登校して、いつも通りの学校での時間を過ごしていた夏雪だが、どうにも気になって仕方ない。


「……?」


 昼前――四時間目の授業中、夏雪は静かに後ろを振り返って、グルリとあたりを見渡す。


 真剣に授業を聴いている者、ノートだけとって特に集中してない者、遊んでる者、居眠りしている者。

 普段と変わらぬ光景だ。


「……ん?」


 不意に一人の少女と視線が重なった。

 少し天然パーマ気味の、ふんわりとした明るい髪が特徴的な彼女は、同じクラスのこがらし小秋こあきだ。

 とても大人しい生徒で、夏雪自身ほとんど喋ったことがない。


 首をかしげる夏雪。慌てて目をそらす小秋。


 もしや、彼女が視線の正体だろうか。


 その時、彼は全く別を視線を感じた。


「――――」


 クラス委員長の栗花落つゆりすずだ。

 赤いフレームのメガネの奥から光る視線が、咎めるように夏雪を睨む。


 ――授業中にうしろなんか見るなってことですか……。まぁ僕が悪いよな。


 視線の追及を諦め、素直に授業に集中する夏雪。



 その後、教室の片隅で小秋はホッと安堵の息を吐いた。


 



「なぁ、夏雪なつゆきのその頭、朝から気になってたんだけど、聞いてもいいか?」


「ん? あぁ、これか。僕もすっかり忘れてた」


 昼休み。昼食のために弁当を広げた夏雪に、隣から一人の男子生徒が声をかけた。


  向出むかいで祐陽ゆうひ、夏雪の友人である。


 夏雪は頭の包帯をさすりながら、何気なくこぼす。


「ちょっと車に轢かれそうになってさ、その時にぶつけた」


「えっ、マジかよ。大丈夫だったのか?」


「うん、運良くすぐに助けてもらったみたいで――」


 ――ガタンッ。と、机が揺らぐ音が、どこかで響く。


「……ん?」


「それで?」


「あー、うん。だからともかく大丈夫だよ。問題なし」


「ふーん。ならいいんだけどな。朝見たら急にそんなことになってるからビビったぜ」


「あぁ、それはごめん。でさ、ちょっと聞きたいんだけど、祐陽って前にVRゲームがどうとか、言ってたことなかったっけ?」


「おっ、なんだなんだ? 前は大して興味なさげだったくせに、いきなりどうした」


「実はちょっとVRのこと知る機会があってさ、なかなか――」


 と、夏雪がそう言いかけた時だった。


「夏雪せんぱーーいっ!!」


 いきなり現れた遠慮しない声に、夏雪はずっこける。

 椅子から落ちそうになったがなんとか堪えた。

 彼がハッとドアの方に目を向けると、そこでは一条院れんかが、ブンブンと手を振っていた。


「せんぱーいっ」


 ザワザワとざわめく教室。それはただの騒めきではなく、いくつかれんかに言及するような声もあった。

 やはりお嬢様たる彼女はそこそこの有名人らしい。


 夏雪は慌ててれんかの元にかけよる。


「何しに来たの……っ」


「えへへ、来ちゃった」


 後ろ手を組んで小首を傾け、いたずらっぽく微笑むれんか。


「は?」


「とまぁ、一度このセリフ言ってみたかったんですよっ。どうですかっ?」


「え、なんの話?」


「あれ?」


「え?」


「んー?」


 話が噛み合わないことに気付くれんか。


「う〜、まぁいいです。今のは無しにしてください」


 不満げに頰をふくらませるれんかに、夏雪はますます意味が分からないという顔。


「それで、結局何しにきたの?」


「いや、ちょうどこの教室の前を通ったので、それだけです。あっ、先輩っ、今日の放課後はどうですかっ? 時間あります?」


「ない」


「えーーっ!」


 そろそろ、背後から感じるクラスメイトたちの視線に耐え切れなくなりそうだ。


「あーもう、僕に言いたいことがあるならあとで携帯に連絡して、それならちゃんと答えるから。

 ほら、自分の教室に戻って」


 グイグイと教室かられんかを押し出す。


「わかりました……。ちゃんと答えてくださいよっ?」


 渋々という感じのれんか。


「わかったって。答えるから」


「約束やぶったら私おこりますからねー!」


 そう言い残して、れんかは廊下を歩いて行った。


 「はぁ」と、嘆息する夏雪。

 振り返った夏雪は自分に集中する視線を見て、もう一度嘆息した。





 ピロンッと、携帯スマホが通知の音を鳴らす。


『先輩っ、今日何時くらいにウチ来ますかっ?』


『なんで僕が行く前提なの…』


『だって、携帯ならちゃんとこたえてくれるって言いました!』


『いや、それは話を聞くっていう意味だからね?』



『なんでダメなんですか』


『いや、僕にもやることがあるし』


『やることってなんですか!』


『勉強とか』


『えー、勉強なんて…。あ、そうだ、それなら私にいい考えがありますよ!』





 れんかは学校の成績がいい。その事実を聞いた時、夏雪は衝撃を受けた。

 正直に、正直に言ってれんかは勉強ができるようには見えなかったからである。


 その上、れんかから聞いたテストの平均順位が、夏雪が一年生だった頃よりも高いという事実。

 

「マジかよ……」


 これは現実の夏雪の口からこぼれ落ちた言葉である。


 しかしながら、れんかの好成績には、とある秘訣があるようなのだ。


 彼女が言うことには、


『爺やって勉強とか教えるの、物凄くうまいんですよっ!』


 とのこと。


 その成り行きで、夏雪も『爺や』に勉強を教えてもらうことになった。

 ただし、れんかのゲームに付き合うと言う交換条件付きで。


『じゃあ学校が終わったら校門で待っててくださいね。一緒に帰りましょう!』


 という文面にて、夏雪と彼女のやり取りは締めくくられたのだった。

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