俺は数秒前にいだいた、目の前の男に報いる気持ちに既に疑問を投げかけていた。
そんな俺には構うことなく「お冷ください。新しいコップで」イケメンスマイルはカウンターに声を掛けている。背後では、ミーちゃんの熱い吐息とひっくり返った返事の相槌のように、ダンッ!と音が聴こえた。きっと、旦那が、出刃包丁をまな板に叩き付けたに違いない。
だいたいお前お冷って、のびたくんのデートかよ。
「サイトに好みがあるのはわかった。純文学が好まれ……」
「却下」
「じゅん……」
「却下」
「……」
「ダメです」
「何も言ってないだろ?!」
「頭とか顔とかいろいろと」
「何だって?」
「いえ。こちらの話です。お気になさらず」
する! 気にするわ!
モジャお。何故、純文学に拘る。
「とにかく。純文学は、さっき言いましたけどダメです。どこのサイトでもダメです。稼ぎに直結しません」
「じゃあ何だったらいいんだ。そのゲームとか、別世界じゃないとダメなのか?」
「異世界、です。純文学と不純文学以外にネタないんですか? このジャンルだとどちらも骨と心が折れるだけで、売れません。まあ、その方が先輩のためかもしれませんが」
「じゃあ、SF」
じゃあ?
じゃあって何ですか。そんなに簡単にネタが出てくるのか?
モジャお、そのモジャモジャの中に何を仕込んでいる……。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!