「覚悟なくして、大切な人たちを守れるとでも? 小説家? 甘いことだけ考えているなら、そんな夢だか何だか知りませんが即刻棄てて、日雇いでも働け!」
「お、落ち着け。な、落ち着け」
俺は、正面の唐突に猛ったイケメン君を宥めるのに至って平静に務めた。
これは、あれだ。何かちょっと勘違いして、殺人に突っ走る若者(純情設定)を押し留める、熟練の刑事だ。
再放送時間帯のよくある風景だ。
そして、ちらりと背後を覗けば……
背面のお前らも落ち着け!!!
違う覚悟決めてどうすんだよ!
ミーちゃん! 熱い! 息が熱い! その勢いで熱い告白とかやめてね?!
ちょ、旦那??! 違う! 出刃包丁(洋食屋にいる、それ?)に持ち替えなくていい!
このイケメン君は俺がなんとか押し留めるから!
唐突に始まった、勘違いからのイマジネーション痴情のもつれ殺傷事件とか、それ、もう、イリュージョンの世界だから!!
俺は三面記事に載る覚悟をほんの少し決めた。
「覚悟は?」
「は?」
「覚悟、ですよ」
「あ、はい。あります。今、出来ました」
俺の誠実な対応に納得したのか、イケメン君はその猛った空気を解いた。
ばかやろう。危うくおまえ、人、殺しちまうとこだったぞ。
俺は心の中で、熟練刑事の言葉を呟いていた。
「覚悟あるんなら、まず、自分で片っ端からリサーチして下さい。各大手サイトのトップを飾るような人たちの作品の傾向、タイトルや見出しの作り方、それから、SNSの利用、集客方法をリサーチするんです。SNSの活用なくして現在のWeb世界に適応することは出来ません」
「リサーチ……作品全部、読むの? すごい量だろ? 俺、最近、老眼かな? 会社辞める前もさ、コーディングやデバッグするの辛くなってきててさ。長時間画面の文字を読み続けるの、ちょっと辛いんだよね。それにSNSで集客って何? 例えばどういうもの? どうしたらいいんだ? ネットなんだから読者って勝手に集まって来るんじゃないの? そう言うのよくわかんないから、お前にそうだ……ん……」
俺の前には、般若がいた。
そうか。殺されるのは、俺か。
般若は葵の上だっけ。光源氏の最初の嫁だっけ。嫉妬に狂って鬼女になったんだっけ。
イリュージョン嫉妬に狂いそうなの、お前じゃなくて、背面の2名じゃなかったっけ。
俺は、気圧されて幾分テンパりながら「ハイ。リサーチします」と言った。
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