三界の書 ―銀閃の聖騎士と緋剣使いの少年―

少女は、持ち前の明るさで闇の中の少年を照らす
阿季
阿季

《2》何に使うの?

公開日時: 2020年11月21日(土) 20:30
更新日時: 2020年11月25日(水) 20:48
文字数:1,870

「ほ、本当に三枚下ろしにされるかと思った……」


 割と本気で逃げていたリルはぶるるっと体を震わせた。その隣でヴァレルも冷や汗を流しながらこくこくと頷いている。


「なるほどねぇ、しかし鈍感なところはリュウキ相変わらずだね」


 対してパルシカは涼しい顔をして何やら一人で納得している。そしてちょっと腰をひねったりした。


「うーん、今度から覗くときは中腰はやめておこう」

「「今度って……」」


 リルとヴァレルは目を半眼にする。今度こそ三枚下ろしにされてしまうんじゃ。

 ちなみにオウルは何事もなかったかのように後ろの方で長椅子に腰かけていた。背もたれの上には猫くらいの大きさのらっしー。先程の騒動を知っているのか呆れ顔で眺めている。


「あ、パルシカ、夕食の準備とか何か手伝うことがあればやるよ」


 そろそろ夕方だ。今日はもうパルシカの家にお邪魔することになるのでリルはそう申し出る。


「ん、今日はこの後また出かけるんだよ。露店出しにね。あたしは店番するから外で食べるつもりだったんだけど……」

「露店? そういえばあっちこっちで露店の準備してるみたいだけどお祭りでもあるの?」

「今日は収穫祭さ。毎年やってるんだよ」

「じゃあ私たちも外で買って済ませようかな」


 食べ物を売っている露店もあるだろう。


「ついでに祭りも楽しんでくるといいよ。ちなみにあたしのところは小物売ってるからね。ふふ、物騒なものばかり作ってきたわけじゃないんだ。驚くよ?」

「へぇ~」


 ちゃっかり宣伝するパルシカにリルは笑って返した。町の宿屋が満室だったもの今日祭りがあるためだったようだ。


「お祭りかーキサラ行かない?」


 (逃げてきた先の)ちょうど近くに立っていたキサラを振り向きリルは声をかける。


「いや、私はいい。ちょっとやることがある」


 キサラは首を振ってそう答えた。


「そっかー。ラナイは……まだリュウキのところか……」


 さっきの今なので行くのは気が引ける。どうやって(リュウキと顔を合わさずに)ラナイに声を掛けようか悩んでいると、唯一あの場にいなかった人がいることにリルは気づいた。


「ねね、ちょっとラナイ呼んできてくれない?」


 キサラである。二階にいるラナイを呼びに行くくらいならば時間はかからないのでキサラは首を縦に振った。


「かまわないが」

「ありがとー! 助かる!!」


 なぜかものすごく感謝されてキサラは首を傾げた。

 少ししてキサラがラナイを連れて階段から下りてきた。


「ラナイ、外お祭りだって。行こう!」

「え、お祭りですか?」


 リルが誘うとラナイは何やら戸惑った様子でそう言う。


「あ、人ごみ苦手?」


 ちなみにヴァレルはその理由で祭りは拒否。


「いえ、そんなことはありませんが」

「じゃあ行こうよ」

「で、でも……」

「?」


 何をためらっているのかリルが分からずにいると、


「行ってこいよ。俺は少し寝る」


 階段上からリュウキがこっちを見下ろしていた。

 一瞬睨まれたように見えたのは気のせいではないだろう……

 ラナイは心配そうにリュウキを見るが、彼はそれだけ言うとさっと踵を返した。その時、リュウキの瞳が少し陰ったがリルもラナイも気づかなかった。


「ほ、ほらほら、護衛の許可も出たし! 私が代わりに護衛するからね!」

「俺とヴァレルは留守番してるから安心して行ってきていいよ。らっしーも護衛として付いていくし」

『は!? 今初めて聞いたぞおい』


 俺も人ごみは嫌なんだがという主張をオウルは見事に黙殺した。


「……そうですね。では行ってみます」


 とうとうラナイは折れた。それにラナイ自身お祭りは行ったことがなかったのでちょっと興味があったりする。


「ただ遊びに行くわけじゃないからね。皆のご飯買って帰るんだから。オウルとキサラ何か希望ある?」


 リュウキの分はラナイが選ぶとして、リルは二人に質問する。


「俺は何でもいいよ~」

「私は特にいらない。不要なものがあればもらいたいが」

「へ?」


 キサラの返答にリルが困惑しているとパルシカがのんびりと言った。


「不要なものね……裏にごみと木くずならあるけど」

「いやいや、そういう意味じゃないんじゃ……」


 とはいえ、まさか残りものでいいという意味だろうか?


「そうか、もらっていいか?」

「かまわないよー」

「えええ!?」


 二人のやり取りにリルは思わず目を剥いた。

 本当にご飯はいらないという意味だったようだ。いやそれ以前に……


「魔族ってごみも食べるの……?」


 リルは首を捻りながら頭の上にはてなマークを浮かべる。


「いや、私じゃない。餌といったところだ」


 そんな彼女にキサラが淡々と答えた。

 さすがに違ったようである。キサラは魔鳥を呼んでいたがその餌だろうか?

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