三界の書 ―銀閃の聖騎士と緋剣使いの少年―

少女は、持ち前の明るさで闇の中の少年を照らす
阿季
阿季

《3》対面

公開日時: 2020年12月3日(木) 21:10
更新日時: 2020年12月9日(水) 20:27
文字数:1,605

 朝食を摂った後、パルシカが出勤してからリルたちは居間に集まっていた。例の<虚獣>と話すためだ。

 

「どうしたのリュウキ、朝から不機嫌ね」

「うるせぇ」


 リルが声をかけるとリュウキは不機嫌度MAXの様子で返した。


「集まった様だな。出てきていい、レトイ」


 キサラは面々を見渡しそう呼びかける。するとキサラの隣に一匹の<虚獣>が現れた。


「<虚獣>にも名前があるんだ……」


 リルは軽く目を瞠る。


『始祖に近いほど自我があり名を与えられている。私はもっとも古きもの――始祖のレトイだ』


 薄紫色の目をした<虚獣>は改めて名乗る。


「そうなのね。私はリル……って、えええ!? 始祖!?」


 自分の名前を言ったところでリルは驚いて声を上げた。そんなリルを瞬きしてレトイは見る。


『感心したり驚いたり忙しい神人だな』

「気にしなくていい。元からこういう性格だ」


 リュウキが素っ気なくそう言った。


「ちょっと! 初対面の相手に間違った先入観植えつけないでくれる!?」

「事実だろ」

「ちっが――う!!」

「まあまあ、リルさん落ち着いてー」


 リュウキに食ってかかるリルをラナイが宥めた。不思議そうにレトイは首を傾げる。


『神人や魔族にもいるだろう? 驚くことなのか』

「だって、会ったことないし……そんなすごい人」


 とりあえずリルはリュウキに食ってかかるのを止め、レトイに向き直った。


「オウルは知ってる?」

「ん? 知ってるよー」

「そっか……私もいつか会う機会があるかな。どんな人だった? やっぱり仙人っぽいおじいさん?」


 するとオウルは一瞬目を丸くするが、すぐに吹き出した。


「え? いやいや、始祖は今の神人よりも長寿だからね。外見は若いよ。中身はおじいさんかもね」

「……やけに詳しいな」

「実は始祖とは知り合いだから」


 リュウキが訝しげにオウルを見ると、彼は笑顔でそう言った。


「しっかし、始祖については置いといて、まさか<虚獣>と話せる日が来るとは思わなかった」


 まだ興奮冷めやらぬといった感じでリルはレトイに視線を向ける。


『正確には私は<虚獣>ではなく眷属だ。眷属は私のように自我を持っている。私を含め二体しかいないから見たことが無いのは仕方ない』

「意外と少ないんだな」


 リュウキが率直な感想を述べる。レトイは頷いて続けた。


「ああ。自我がほとんどないものの方が多い。自我が薄い分創造主の思考に従う。お前たちの言う<虚獣>はこれだ」

「実はその<虚獣>に片言ではあるんだけど言葉を話すものが出てきていてね。今までは無差別に周囲を破壊するものばかりだったんだけど」


 オウルがレトイに<虚獣>に表れている変化について説明した。


『その内容は?』

「<黒紫の虚無神アド・ヴァーレ>の封印関連の単語だったね」

『……そうか』


 少し考え込むようにレトイはやや目を伏せた。


『前にも言ったが、自我の薄い<虚獣>は創造主の思考に影響を受けやすい。<黒紫の虚無神アド・ヴァーレ>の復活という願望が<虚獣>に伝わったものだと考えられる』

「でも、なんで突然……? 今まではそんな<虚獣>いなかったのに」


 首を傾げながらリルが疑問を口にする。するとキサラが口を開いた。


「……封印が何らかの理由で弱まってきているのではないか?」


 彼女の言葉を聞いて、オウルは組んでいた腕の片方を上げて顎に手をあてた。


「なるほど、それなら辻妻が合うかもしれないね。封印の力で<黒紫の虚無神アド・ヴァーレ>の意志までは今までの<虚獣>には伝わっていなかったけど、封印が弱まって伝わり始めているのかも」


 レトイとキサラの話を元にオウルはそう推測を立てる。


「まあ、封印が弱まったといっても、ほんの少しかな。でなければ今頃意志のある<虚獣>で溢れているだろうからね」


 今のところ人語を話す<虚獣>は一体しか確認されていない。とはいえ、今後増えないとも限らないので注意が必要だろう。


(あの時俺が力を使ったせいか……? いや、人語を話す<虚獣>に遭遇したのはそれよりも前か……)


 リュウキは難しい表情で考えを巡らせていた。

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