朝食を摂った後、パルシカが出勤してからリルたちは居間に集まっていた。例の<虚獣>と話すためだ。
「どうしたのリュウキ、朝から不機嫌ね」
「うるせぇ」
リルが声をかけるとリュウキは不機嫌度MAXの様子で返した。
「集まった様だな。出てきていい、レトイ」
キサラは面々を見渡しそう呼びかける。するとキサラの隣に一匹の<虚獣>が現れた。
「<虚獣>にも名前があるんだ……」
リルは軽く目を瞠る。
『始祖に近いほど自我があり名を与えられている。私はもっとも古きもの――始祖のレトイだ』
薄紫色の目をした<虚獣>は改めて名乗る。
「そうなのね。私はリル……って、えええ!? 始祖!?」
自分の名前を言ったところでリルは驚いて声を上げた。そんなリルを瞬きしてレトイは見る。
『感心したり驚いたり忙しい神人だな』
「気にしなくていい。元からこういう性格だ」
リュウキが素っ気なくそう言った。
「ちょっと! 初対面の相手に間違った先入観植えつけないでくれる!?」
「事実だろ」
「ちっが――う!!」
「まあまあ、リルさん落ち着いてー」
リュウキに食ってかかるリルをラナイが宥めた。不思議そうにレトイは首を傾げる。
『神人や魔族にもいるだろう? 驚くことなのか』
「だって、会ったことないし……そんなすごい人」
とりあえずリルはリュウキに食ってかかるのを止め、レトイに向き直った。
「オウルは知ってる?」
「ん? 知ってるよー」
「そっか……私もいつか会う機会があるかな。どんな人だった? やっぱり仙人っぽいおじいさん?」
するとオウルは一瞬目を丸くするが、すぐに吹き出した。
「え? いやいや、始祖は今の神人よりも長寿だからね。外見は若いよ。中身はおじいさんかもね」
「……やけに詳しいな」
「実は始祖とは知り合いだから」
リュウキが訝しげにオウルを見ると、彼は笑顔でそう言った。
「しっかし、始祖については置いといて、まさか<虚獣>と話せる日が来るとは思わなかった」
まだ興奮冷めやらぬといった感じでリルはレトイに視線を向ける。
『正確には私は<虚獣>ではなく眷属だ。眷属は私のように自我を持っている。私を含め二体しかいないから見たことが無いのは仕方ない』
「意外と少ないんだな」
リュウキが率直な感想を述べる。レトイは頷いて続けた。
「ああ。自我がほとんどないものの方が多い。自我が薄い分創造主の思考に従う。お前たちの言う<虚獣>はこれだ」
「実はその<虚獣>に片言ではあるんだけど言葉を話すものが出てきていてね。今までは無差別に周囲を破壊するものばかりだったんだけど」
オウルがレトイに<虚獣>に表れている変化について説明した。
『その内容は?』
「<黒紫の虚無神>の封印関連の単語だったね」
『……そうか』
少し考え込むようにレトイはやや目を伏せた。
『前にも言ったが、自我の薄い<虚獣>は創造主の思考に影響を受けやすい。<黒紫の虚無神>の復活という願望が<虚獣>に伝わったものだと考えられる』
「でも、なんで突然……? 今まではそんな<虚獣>いなかったのに」
首を傾げながらリルが疑問を口にする。するとキサラが口を開いた。
「……封印が何らかの理由で弱まってきているのではないか?」
彼女の言葉を聞いて、オウルは組んでいた腕の片方を上げて顎に手をあてた。
「なるほど、それなら辻妻が合うかもしれないね。封印の力で<黒紫の虚無神>の意志までは今までの<虚獣>には伝わっていなかったけど、封印が弱まって伝わり始めているのかも」
レトイとキサラの話を元にオウルはそう推測を立てる。
「まあ、封印が弱まったといっても、ほんの少しかな。でなければ今頃意志のある<虚獣>で溢れているだろうからね」
今のところ人語を話す<虚獣>は一体しか確認されていない。とはいえ、今後増えないとも限らないので注意が必要だろう。
(あの時俺が力を使ったせいか……? いや、人語を話す<虚獣>に遭遇したのはそれよりも前か……)
リュウキは難しい表情で考えを巡らせていた。
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