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なんでそうなんだよ。
意地っ張りで強引で。人の気も知らないで振り回すし。かと思ったら変に鋭いしお節介で。突き放しても関わってこようとして来る。
自分はリルやラナイの親しい人たちの命を奪った。そんな自分が傍にいていいはずがない。傍にいてはいけない。
いては、いけない。……いけないんだ。
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「数年前までは私とリュウキはある二人と一緒にいたんです。一人はリュウキのお兄さんみたいな明るくて気さくな人でした。もう一人の人も面倒見のいい優しい人でした」
ラナイは懐かし気に目を細めて語った。
「リュウキはあんな感じなので態度には出したりしませんでしたが、二人には気を許してました。そのお二人に連れられて少し旅をして、いろんな所に連れて行ってもらいました」
そこで一旦言葉を区切り、静かに目を閉じる。
「でも……三年前の<虚無大戦>の時に二人は亡くなってしまいました。リュウキはそのことを今も引きずっているんです。たぶん、リルさんが大怪我したのを見て自分の親しい人がまたいなくなったら、と思ってしまったんだと思います」
顔を上げたラナイは憂いを帯びた瞳でリルを見つめていた。
「この任務の話が来た時、私も最初大変だったんですよ。リュウキは自分一人で行くの一点張りで。私が祭器の痕跡をたどれるからその方が早いって言って何とか説得したんですから」
困ったように微笑んで彼の幼馴染はそう付け加えた。
リュウキは木の根元のあたりで両膝をかかえて座り込んでいた。パルシカの家の裏手に広がる森の入り口付近だ。
リルが近くにやってきたのを気配で感じてもリュウキはその姿勢から動こうとはしなかった。
「ラナイから事情は聞いた。リュウキ達が三年前に仲が良かった人を数人亡くしたって」
リュウキの肩がびくりと小さく揺れた。
「私はその人たちのことは知らないけど、あんたがそういう行動するくらいだからきっといい人たちだったんだろうね」
「…………」
「じゃあ逆に聞くけど、もしリュウキがその昔の仲間にある日突然置いていくって言われて素直にはい、そうですかって受け入れるの?」
「! それは……」
俯いていたリュウキは僅かに顔を上げた。
「しないでしょ?」
「…………」
「それと同じ。……ちょっと意地悪な例えだったかもしれないかな。まあ私が弱いっていうのはあってるかもしれないけど。あっさりやられちゃったし」
ふうっとリルは大袈裟にため息をついて見せた。
「いや、リルは弱くない。あの時は俺が……」
「あーまってまって」
「……?」
「そう自分を責めない。ね?」
「…………」
そこでリルは一息つくとリュウキを真っ直ぐに見つめる。
「あれこれ言っても仕方ないから、私は私の意思を言うわね。私はリュウキ達といっしょにこの任務を続けたい」
対してリュウキは顔を上げかけたが、またすぐに視線を落とした。
「……この任務はただ盗まれた物を取り返す任務じゃない。さっきの魔族との戦闘は任務には直接関係なかったが、この先どんな危険があるかわからない」
突然襲い掛かってきた魔族――ウルガについては、リュウキもオウルなどからすでに話を聞いていた。
「ああ、それはなんとなく気づいてた。ただの任務にしてはオウルやあんたの戦力は過剰だし。でもどんなことにも大なり小なり危険はつきものでしょ」
リルには、なぜそんな追跡隊に下級聖騎士である自分が含まれているのかはわからなかったが。
「……リルには話していないことがいろいろある」
祭器のこと。<虚無大戦>のこと。フィルのこと。
「仲間だからって何でもかんでも話さなきゃいけないわけじゃないでしょ」
それはリルの率直な答えだった。
自分が追跡隊に編成された理由。それはリュウキが知っているのかもしれない。
だが、リルは無理やり聞く気などなかった。なんとなく、今のリュウキの様子と無関係ではないような気がしたものある。
「…………」
そこでリュウキはまた黙り込んでしまった。
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