――――……ん……
――――おー、起きたか? 残念、もう全部片づけちゃったぜ☆
――――……さっさと起こせよ……
――――いやー気持ちよさそうに寝てたから無理に起こすのも悪いかなと
――――……寝てたわけじゃないだろ……
――――気持ちよさそうに気絶してたから無理に起こすのも悪いかなと
――――…………
――――えーわざわざ言い直してやったのに。睨むなよー
――――覚えとけよ……見返してやる
――――おーおー楽しみにしてるぜ。早く大きくなって俺に追いついてみろ?
――――超えてやるからな。逃げるなよ?
――――はいはい。待っててやるよ
…………待って……くれるんじゃなかったのか……アラス……
◇◇◇◇◇◇
「う……」
目を開けると、大穴の開いた遺跡の天井が見えた。穴の先は上の階まで遠いのかよく見えない。
がばりとリュウキは飛び起きた。
「いっ……」
後頭部に少し痛みを感じた。どうやらここに落ちる途中で瓦礫に頭をぶつけて気絶してたらしい。
「あ、起きた? おはよー」
近くでリルがそう声をかけた。
「……寝てて悪かったな」
バツが悪そうに視線をそらしてリュウキは返す。敵がいる中気絶するとは我ながら情けない。
「起きたら全部片付いてたって状況にしたかったん、だけど。ちょっと……厄介、で」
リルの口調が急に歯切れ悪くなったのでリュウキは振り返った。
見ると、リルは膝をついて苦しそうな表情を浮かべていた。脇腹あたりを手で抑えているが、よく見れば赤く染まっている。
周囲はあまり明るいとは言えないのですぐに気付かなかったのだ。
「おい!?」
「あはは……なんかいきなり攻撃受けて……見えないもんだから完全に不意打ちだったわよ。一発、大きいのぶっ放したから……すぐには攻撃来ないと思うけど。あ、大丈夫、傷は見た目ほど深くないから」
口ではそう言うが辛そうなリルである。そんな彼女を見てリュウキはぶっきらぼうに返した。
「誰が心配なんてするか。いいか、大人しくしてろよ」
(……なんか心配された気がする。素直じゃないわね……)
などと口には出さず、心の中で突っ込むリルであった。
そういえばハリトの時も遠回しに心配していた事をリルは思い出す。あの時は言い返してやろうと思っていたので深く考えなかったが。
(口が悪いだけで根はそんなに悪い人ではなさそう……かな)
リルはリュウキに対する認識を少し改めた。
しかし、それなら最初リルとオウルを待たずに勝手に出発したのには何か理由があるのだろうか。
そちらのことはいくら考えてもわからないが、
(……もしかしてあの時も、わざと……?)
イルミナの家でリュウキがあんな言動をしたのは、自分を怒らせて帰らせようとしていた?
「見えない攻撃が来たって言ったな?」
「あ、うん」
いろいろ考えていたリルはやや慌てて頷く。リュウキはあたりを見回すと言った。
「頑丈な壁を背にするぞ。そうすれば背中への攻撃は防げる」
二人は端に移動し、軽く攻撃して何もないことを確認するとそこを背にした。
リュウキは念のため壁を叩いて厚さを確認する。
(……厚みはありそうだな。これなら仮に壁の向こうから攻撃が来ても対処する暇はあるだろう)
壁に背を預け、リルはこっそり息を吐いた。やはりちょっと厳しい。
「背中は安全だけど、前方百八十度のどこから攻撃来るのか、どうやったらわかるかしら……適当に攻撃放っておくのもいいけど、体力が尽きちゃう……」
そこで、あるものがリュウキの眼に入った。自分たちの背の1.5倍はある細長い柱だ。柱の上からは噴水のように水が吹き出し、床の水路に注がれている。
「……そうか」
それを見てリュウキはある方法を思いつく。
床の水路は二人の近くにも数本走っている。リュウキは一番近くの水路に手を突っ込んだ。
「え、何してるのよ?」
訳が分からないリルはリュウキに説明を求めるが、リュウキは答えず小さく何かを呟く。
「<万象水源>。水よ、我らを覆う帳となれ」
すると、水路の水がうねって立ち上る。二人の周囲を帯状に取り巻くと上下に広がって薄い水の壁を作り出した。ちょうど噴水の中にいる感じだ。
「! リュウキ<万象使い>だったのね」
「……ああ」
<万象使い>とは、自然界に存在する火や水などの各属性の霊気を用いた術――<万象術>を行使する者のことだ。
聖術や魔術は自身の聖気、魔気を使うが、人間はもともと少ないため向いていない。そんな人間の多く住む人界で編み出された術式である。
聖女の護衛なのだ。これくらい使えてもおかしくない。
「なるほど。これなら何か来たら一目でわかる」
蔓が水の幕を通過すれば穴ができるので対処しやすい。
二、三回それで蔓の攻撃を防いだが、魔核を見つけないことには根本的な解決にはならない。
リルは怪我もしているのだ。
(姿が見えないのは厄介だな……どうやって見つける)
そうリュウキが考えていると、近くの壁が何の前触れもなく吹き飛んだ。
「「!?」」
突然の事に二人は目を瞠って警戒する。砕けた壁の欠片が床に散らばり、穴の開いた壁を中心に砂塵が舞っていたが、やがてそこから人影が姿を現した。
それを見てリルが声を上げる。
「あ、あの時の魔族」
魔結界を作っている灰色の髪の女魔族だ。彼女も気づいて二人の方に顔を向けた。
「ここにいたのか」
「探してくれてたの?」
「探していたのはあっちの二人だ。私は魔核を探していたのだが……。おい、こっちにいた。一人怪我をしているようだ」
魔族は壁の向こうに向かって呼びかける。間もなくラナイが怪我と聞いて飛んできた。
「大丈夫ですか!?」
「! 待て」
ラナイはリュウキたちのいる広間に入ろうとするが、魔族の女は何かに気付いて引き止める。
崩れた壁の穴から突然蔓が”生えて”襲い掛かってきた。
オウルが二人の後ろから空色の石のついた投具を投げつけ、魔族の方も黒い何かが素早く動いて蔓を引き裂く。
「驚きました……いきなり蔓が見えて……」
「ラナイ、そっちにいく。ここは見えない蔓が張り巡らされていて危険だ」
どうやら、この広間だけ蔓が見えないらしいと気づいてリュウキがそう言う。
「り、了解、そこくらいなら歩け……えひゃああああ!?」
立ち上がろうとしたリルを、無言でリュウキは抱きかかえる。リルが素っ頓狂な声を上げるのでリュウキは顔をしかめた。
「運んでやってるのにうるさい。奇声を上げるくらいは元気か」
「奇声って……女の子に対して失礼ね……」
変に緊張したのに損をした気分になったリルであった。
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