街からの明かりが僅かに夜の森を照らす中、二人の間にしばらく沈黙が流れる。
やや離れた場所で膝を抱えているリュウキの姿を見ながら、リルは小さい頃にも似たような状況があったことを思い返していた。
正確には立ち位置が逆ではあるのだが、おそらく自分を探しに来たあの人から見たら同じような光景が見えていただろうということは予想がついた。
あの時は、たしか。
記憶を辿りながらリルはリュウキに向かって歩き出す。そして目の前まで近づくとそこで膝を折った。
「……私のせいで不安にさせてごめんね。リュウキが私の顔を見たくないくらいに辛いんだったら無理にとは言わない」
リルはリュウキの顔を覗き込んだ。茶褐色の瞳は陰っていつもの覇気がない。そんなリュウキを見て、徐にリルは彼の手をそっと取った。
「不安な時はこうして手をつなぐのよ。そうすれば少しは気が紛れるでしょ」
「…………」
「……なーんて偉そうに言ったけど、実はこれ受け売りなのよね!」
「…………」
リルは軽く笑って見せたが、リュウキは黙ったままだった。あまり意味なかったかなとリルが落胆しかけたところでリュウキが口を開いた。
「……お前がこの任務にこだわる理由はないだろ」
今度はリルの方を少し見てたずねる。そんなリュウキの中では相反する二つの考えが浮かぶ。
(……これは嘘だ。本当は、リルにもある)
リルの姉のフィルは<虚無大戦>に関わっており、この任務はそれに関係したものだから。一方で、
(……ない、はずだ)
フィルが<虚無大戦>に関わっていたこと、この任務がそれに関係したものであることをリルが把握していない限りは。
「任務、にはないわね。リュウキ達とならあるけど」
リルの答えはリュウキの予想とは少し違っていた。
「リュウキが私のこと仲間だって思ってくれたように、私だってそう思ってるんだからね。当たり前でしょ?」
リルは当然だといわんばかりの表情でリュウキを見返した。
「……俺は別に……」
否定しようと思ったが、リュウキはなぜか強く言えなかった。
「え、でも私を心配したり、任務から外そうとしたりするってことはそういう意味でしょ?」
「…………」
その通りなのでリュウキは反論もできずに黙り込んだ。
リルはわざと意地悪そうに微笑んでリュウキのその顔を覗き込んでみる。
「仲間って思わせちゃったんだから責任とってよねー?」
「……おい、誤解を招くような言い方するな……」
リュウキが目を据わらせてリルを思わず見ると、こちらをじーっと見ている碧玉色の視線とぶつかった。
「……なんだよ」
「ちょっとはいつもの調子が出てきたみたいね」
訝しげな顔をしているリュウキにリルはにこりと笑ってそう言う。
そしてリルはリュウキの手を握ったまま勢いよく立ち上がった。必然的にリュウキも無理やり立たされることになる。
「……!? おい」
リルが強引に引っ張るのでリュウキが文句を言おうとすると、
「私の意思は言ったから、後はリュウキが決めていいわよ」
祭りの明かりを背にしたリルがリュウキの瞳を正面から見据えていた。光の加減で金糸のように見えるやや長めの髪を揺らし、ただ静かな眼差しで。
だがそれも一瞬で、リルはさっと街の方に顔を向けた。
「そろそろパルシカの家に帰ろ。ラナイあたりすごく心配してると思うのよね」
いつもの調子に戻ってリルは歩き出す。同時にリュウキの手からリルの手が離れ……
「!?」
リルはいきなり手を掴まれて驚いて振り返った。リルの手を掴んだ張本人――リュウキも自分の行動に驚いていた。
全くもって訳が分からない。リルの手が離れそうになるとリュウキは無意識に握ってしまっていたのだ。
頭で考えるよりも体が動いていた。
(――――……これが俺の答え……ってことか……)
当初はリュウキも困惑していたが、次第に冷静に考えられるようになってきた。リルはどうしたらいいかわからずに突っ立ったままだ。
小さく息を吐くとリュウキは口を開いた。
「…………任務、一緒に来てくれていい」
そう言いながらリュウキはリルの手を離した。
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