三界の書 ―銀閃の聖騎士と緋剣使いの少年―

少女は、持ち前の明るさで闇の中の少年を照らす
阿季
阿季

第8話 封印された虚獣

《1》キサラの行動

公開日時: 2020年11月29日(日) 20:30
更新日時: 2020年12月5日(土) 23:48
文字数:2,284

 リュウキが何を言ったのかリルにはすぐにわからなかった。

 落ち込んでいたリュウキが多少元気になったようなので手を離して歩こうとしたら逆に手を掴まれ。

 なんで掴まれたのかわからないでいると今度は先ほどの発言である。

 だがそれでも少しずつは頭が理解を始めていた。リルは唖然としたままやっと声を出した。


「……いいの?」

「ああ……」


 一方リュウキは少し下を向いてバツが悪そうな顔をしていた。


「ついていっていいのね?」

「ああ」

「本当にいいのね?」

「……しつこいな。何度も言わせるな……」


 不機嫌そうにリュウキが顔を上げると、リルは顔に喜色を浮かべていた。


「そっか……そっか! これからもよろしくねリュウキ!!」

「……ああ」


 満面の笑みでそう言うリルに、やや視線を彷徨わせながらもリュウキは頷いた。どうやら気恥ずかしくなったらしい。


 パルシカの家まで戻ると、ラナイが落ち着かなさげに二人を待っていた。

 とりあえずリルはリュウキとの経緯を彼に途中何度も口を挟まれながらも話し終えた。

 ラナイはリルが引き続き一緒に来てくれるとわかり心底嬉しそうに微笑んだ。

 対してリュウキはあのウルガとの戦闘よりもなんだかどっと疲れを感じた。自らが蒔いた種だとはわかってはいたが。





 夕食を出店で買ってきたもので済ませた後、居間には長椅子に座ったリュウキとオウルの姿があった。

 リュウキは何冊かの遺跡・史跡関連の書物を広げて読んでいるが、たまに近くのオウルに話しかけられては鬱陶しそうな顔をしている。おそらくオウルが面白半分にリュウキの読書を邪魔しているのだろう。

 そんなある意味賑やかな? 居間をキサラが横切り、奥にある台所の方へと歩いていく。そこではリルとラナイがごみをまとめたり洗い物をしたりしていた。


「いらないものや捨てるものはあるだろうか?」


 また不要なものを探しに来たらしい。


「そこにある夕食のごみとか?」


 食器を水切り籠に置きながらリルは食べ物の入っていた容器をまとめた袋を見る。


「そうか」


 そう言ってキサラはその袋を抱えた。そしてその隣に置いてある水瓶に手を伸ばす。


「あ、ちょっと、それはダメよ」


 リルは慌てて止めようとするが、キサラは水を一口飲んだだけだった。

 持ち出したごみ袋を一体どうするのかリルは気になり、キサラについていってみる。キサラは別に構わないらしく、そのまま台所にある裏口から外に出た。

 そして、家の明かりが届くか届かないくらいのところで前方の暗闇にごみ袋を無造作に投げる。キサラの行動はそれだけだ。


「…………?」


 捨てているのかとも思えたが、不思議なことにそのごみ袋は闇に溶けていった。


(向こうに何かいる……)


 リルはじっと闇に目を凝らすが、何がいるのかわからなかった。とはいえその暗闇に入って確認する勇気も出ず、リルは引き返していくキサラを追いかける。


「ねぇ、あそこに何がいるの?」


 後ろの方をリルは振り返りながらキサラに問いかけた。するとキサラは家に入ったところでぴたりと止まる。


「…………」

「……?」


 しかし何か言うわけでもないので、リルが訝しげにキサラの後ろ姿を見ていると、


「!?」


 突然その場にばたりと倒れてしまった。あまりのことにリルは目を剥いて仰天する。


「キ、キサラー!?」


 リルの慌てた声を聞いてパルシカやラナイたちが何事かと集まってきた。


「どうしたんだい」

「キサラさん……!? いったい何が?」

「わ、わからない……いきなり」


 倒れているキサラの傍でリルは狼狽えた様子で答えた。どうしたのかこっちが聞きたいくらいだ。

 ラナイが居間の長椅子を見て言った。


「とりあえず寝かせましょう」

「そうだね」


 オウルが長椅子にキサラを運ぶと、彼女は数分で気がついた。


「キサラさん、ご気分はいかがですが?」


 ラナイが心配そうにたずねる。


「大丈夫だ。力を使いすぎただけだ」


 相変わらず抑揚のない口調だが、少し疲れが滲んでいる。

 キサラの意識が戻ったのでリルは一安心したものの、倒れるまで何をしていたのか気になった。


「力って……いったい何をしてるのよ?」

「…………」


 沈黙しているというよりは少し考えているようだった。やや間を空けてキサラは口を開く。


「ベイルスから持ち帰った<虚獣>の核を復活させようとしていた」

「……え!?」


 思いがけない言葉にリルは目を見開いた。ラナイとオウルは瞬きしてキサラに視線を向け、後ろの方でリュウキが眉を寄せる。


「なんでも<黒紫の虚無神アド・ヴァーレ>に逆らった<虚獣>だっけ? それなら味方なのかな」


 リルは以前キサラから聞いた話を思い出しつつ困惑気味に言う。敵の敵は味方ともいうが。


「逆らったってことはその<虚獣>さんには意思……自我があるのかな」

「そうだな。意思の疎通は図れるのでそう判断してもいいと思う」


 オウルが確認するようにたずねるとキサラは頷きそう答えた。腕を組んで彼は続ける。


「ふーむ、今いる<虚獣>も変わってきているし、その<虚獣>さんに話を聞いてみるのもありかもね」


 キサラの行動を止めるどころか容認しそうなオウルにリルは戸惑いの眼差しを向けた。


「え、そんなこと勝手にこっちでやっていいの? 上に報告とか」

「俺たちがやってるわけじゃないからね」

「…………」


 さらりとオウルが言うのでリルは面食らう。目の前でやっているが黙認するつもりらしい。


「いざとなったらリュウキ君があの力でなんとかしてくれるよ」

「……俺かよ」

「うんうん、まあ冗談はさておき」

「…………」


 少し本気で受け止めていたリュウキは同じく面食らう。

 そんな二人を他所にキサラは口を開いた。


「肉体復元のためにできる限りのことはやった。明日の朝くらいには姿を現すだろう」

<番外編>

 キサラ:いらないものや捨てるものはあるだろうか?

 リュウキ:こいつ捨てていいぞ。読書の邪魔だ(オウルを指さしながら)

 オウル:ひどいなー

 キサラ:……………

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