唐突に私をこの世界に呼び出したのは、当時この国で魔術師団長を務めていた、シメオン・フェレイラだった。
奴は私から名前と記憶を奪うと、私に契約の魔術をかけて忽然とその姿を消してしまった。私を私たらしめるものを奪われた代償として、私には考えられないような膨大な魔力を与えられた。けれど私の全てを所有しているこの国に、私は魔術師としての全てを捧げる羽目になった。
そんなやる気のない史上最強の魔術師になってしまった私が、任務の一端で出会ったのが、希少種のワーウルフのアーシェント。彼はその麗しい見た目からは想像もつかないほどに狂犬だった――。
生き方も何もかもを強制された異世界転移者が、はみ出し者のワーウルフとどこか危ない愛を交わしあうようになるまで。