旧かもめ壮跡地での大規模な御祓いを終えたところで、星弥が運営管理する心霊スポット検索サイトの”慰霊の旅路”には星弥の霊視を行う様子が話題となり多くのオカルト好きが検索する機会が増えたために閲覧者数が増えに増え、サイトのサーバーそのものがパンクしてアクセスしにくい状態にまで陥ってしまった。
2025年6月6日の金曜日の夜の事だった。
この日は、神埼市内にある星弥のマンションに侑斗の姿があった。
「この度は佐賀県警への異動、そして昇格おめでとうございます。心霊に関わる部署の配属と聞きましたが、佐賀県を代表するボランティアの霊能者としてついに正式に認められたってことですよね?もう非公認だなんて言わなくて済むってことじゃないですか!やったじゃないですか!!」
侑斗が星弥に聞き出すと、星弥は突っ返した。
「非公認だなんて、千葉県のあるマスコットキャラクターみたいなことを言うなよ。それに心霊系の部署じゃないしね。県警の捜査官としての配属になったから、大きな事件があれば動く、そんなところじゃないかな。でも、どうなんだろう。」
星弥が語ると、侑斗は「どうなんだろうって、結局さ佐賀県警として動かなければいけないほどの案件があれば動かなければいけないってことだよね。だとしたら今まで神埼市内で発生した事故や事件だけではなく、県の全域になるから益々動かなければいけない範囲が広くなったってことだよね。もうあの兄ちゃんが交通課のキャンペーンでよく乗っていたマーチのナンバープレートの数字・296(=憎む)ももうお別れだね。兄ちゃんらしい性格だなあと思っていつも見ていたよ。」と語ると星弥は「俺が決めたナンバープレートの数字じゃない!それに恨めしい性格でも何でもないからな!ああ。また”慰霊の旅路”のWEBサイトがパンクして”アクセスできない”ってまたTwitterのダイレクトメッセージでクレームが来ているじゃないか。」と不満げに語ると侑斗は「兄ちゃんがTV出演するから、兄ちゃんが言う事言う事全てがニコニコ動画やYouTubeでも勝手に取り上げられ、俺が管理する”慰霊の旅路”の公式Twitterや公式Instagram、公式Pinterest、公式Tumblrや公式LINEなども過去に行った心霊スポットの写真には多くのリツィートやいいね!が、Instagramには記事のリポストをする人も急増している。兄ちゃんも、俺も地味に稼ぎに稼いでしまっていることになるよ。」と話すと、星弥は「バナーにリンクしている広告収入だけで、今月は凄い。世界中からアクセスが殺到した。じゃない。もうどうしようか、笑い事じゃないんだけどなあ。あんまりこういうことをやっていることが知られたら副業と判断されてもしょうがない。ただ単にパソコンを前にしてサイトの管理をしているだけに過ぎないのにね。」と話すと、侑斗は「俺だってそうだよ。アクセス数が伸びに伸びたおかげで、公式のTikTokも立ち上げたらフォロアー数がいきなり増えたよ。」と話すと、星弥は「これなら霊能者として活動できるといってもあれだな。やっぱり今も霊能商法だと言われてもしょうがない、猜疑心の強い人が多いのも事実だし、今の俺達は世界中のオカルト好きに心の底から感謝したうえで、引き続きボランティアで活動に専念するしかない。」と話すと、侑斗が”慰霊の旅路”に投稿されたあるユーザーの書き込みに目が留まった。
「兄ちゃん見て。これガチじゃない?」
侑斗の話を聞いた星弥は、お気に入りのマシュマロチェアにゆっくりと寛ぎながら侑斗に「何それ?教えて。」と聞き始めると、侑斗は”慰霊の旅路”の心霊相談で投稿されてある内容を語り始めた。
『わたしの親戚にもうとっくの昔に潰れた廃ホテルを経営していた者がいます。景観上の問題もあり、また不良の溜まり場にもなっていることも踏まえて考えたら、今すぐにでも取り壊さなければいけなかったのですが、解体の諸費用にお金がかかる都合上により、男鹿市より幾度も”取り壊しをしてほしい”とお願いをされてきましたが、取り壊しが出来る程のお金に余裕はありません。また土地そのものを売却したいところですが、かつて事件があったこともあり、今では事故物件という扱いになり、買い手もつかず、非常に困っています。そんな時に、5月24日に放映された心霊特集を見て銀河さんの活動を見て、この方なら信頼が出来ると思い、藁にもすがる思いでこのWEBサイトに何とかアクセスをすることが出来て、投稿をさせて頂きました。わたしの親戚は、秋田県の男鹿市にある男鹿プリンスホテルです。秋田県を代表する心霊廃墟として知られるにつれ、肝試しが目的で現れる観光客も増加し、それだけなら悪い事ではないので良いと思うのですが、問題はマナーを守らない観光客による騒音やごみ問題です。建物も廃墟となって年月が経ち、壁や天井が崩落する危険性も極めて高くなっています。いつまでも放っておくわけにはいきません。そこで、お願いがあります。男鹿プリンスホテルの廃墟に今も幽霊が彷徨っているようなら、除霊を行っていただきたいんです。佐賀からかなりの距離はありますが、出来る限り交通費などについても負担はさせて頂きたいと思っていますので、連絡のほどお待ちしておりますので、ご検討のほど宜しくお願い致します。』
侑斗が読み上げた内容に、星弥は深く考え始めた。
そんな星弥を見て侑斗は「兄ちゃんどうするの?引き受けるの?」と聞き始めると星弥は「何で俺のところに某有名霊能者が拒んだ心霊廃墟の除霊ばっかり依頼が来るわけ。しかも俺かもめ荘とか、除霊なんかしてないよ。」と苦言を呈すと、侑斗は「兄ちゃんの話のほうが、その霊能者よりも明らかに話す内容が分かりやすいし、しっかりと何があったのかを説明してくれている。あやふやな話をしがちな人よりも兄ちゃんの霊視検証のほうが、霊の存在を信じない人であっても、兄ちゃんの話を聞くだけで信用する人だって増えてくるかもしれない。だからこの人だって、兄ちゃんのことを信用して、わざわざ”慰霊の旅路”に投稿してくれたかもしれない。オーナー一族に見せかけた偽者でもないと思うよ。偽者ならここまで、抱えている不安の種を赤裸々に書き綴ることなんて出来ないからね。しかも携帯の連絡先や家の住所まで載っているから信頼してもいいと思うよ。」と話すと、星弥は何分か考えた末、侑斗に「わかった。電話を掛けてみることにしようか。」と切り出すとパソコンの前までやってくると、すぐさま記載の連絡先へ連絡をしてみることにした。
「もしもし、Bさんの携帯で良かったでしょうか?”慰霊の旅路”を運営する霊能者の銀河です。今回は男鹿プリンスホテルの除霊の依頼の投稿をして下さりありがとうございました。くどいかもしれませんが、確認のため質問をさせて頂きます。本当にオーナーの親類の方でいらっしゃるのでしょうか。土地の管理主ならば、そのことを証明できるものはあるのですか?」と訊ねると、「ええ。勿論あります。悪戯だと考えられても仕方はないと思います。でも今回の除霊をきっかけに、御祓いを済ませたことを理由に売却をする手続きに入りたいのです。」と切実に話し始めると、星弥は嘘をついていないと判断したところで、「ある人に連絡をして、またどうするかをこちらから改めて連絡をさせて頂きたいと思います。」と話し電話を切った。
侑斗は「ある人って誰だよ!?」と聞くと、星弥は答えた。
「東京ローカルTVの多田野プロデューサー。」
星弥の答えに侑斗は呆れて思わず声を上げてしまった。
「ボランティアの割にはがっつりとお金を稼ぎたいんだな・・・。」
星弥が多田野と連絡が取れて、心霊スポットの一つとして挙げられている男鹿プリンスホテルへの心霊特番を視野に入れてほしいと話すと同時に、助手として次の心霊特番には弟の侑斗を連れていくと話すと、侑斗は「えっ!?俺も同行して良いよだなんて言っていない!ってかそれをするんだったら課長の許可が必要になってくるじゃないか!」と慌てて星弥に問い詰めると、星弥は何食わぬ顔で侑斗に「修業にもなるからついてきなさい。それが侑斗の選んだ道だろ?」と問いただすと、侑斗は断ることも出来ずに「わかった。」と言葉少なげに返事をするのだった。
星弥が多田野に提案をしてから1時間が経過して、星弥の携帯に多田野からの連絡が入ると、特集が組まれるか否かの結論を話し始めた。
「侑斗。喜べ。あの初夏の心霊特番が話題に話題を呼んでTV局にも次の特番を組んでほしいと喜びの声が多く寄せられたそうだ。男鹿プリンスホテルも多田野さんは知っていて、次回のオカルト特番を組む上においてはもってこいの場所だと社長のお墨付きも頂いたそうだ。土地の管理者ともやり取りが出来るので、番組が放送される7月21日迄には収録を行いたい流れになった。収録日は7月13日の日曜日に行うことになった。それまでに課長には説明できるはずだ。ボランティアで金銭は一銭も受け取っていませんときちんと証明できれば勝ちだからな。厳しく言及されても、寺の住職だったらどういう扱いになるんですかと言えばいい。霊能者だって、宗教関係者だって、昔と違ってそれだけでは食っていけないという立場は同じなのだから。」と話すと、侑斗は「アドバイスの一つだと思って相談する。」と答えるにとどまった。
そして週が明けた6月9日の月曜日の朝、侑斗は課長に今までボランティアとして霊能者としての活動をしていたという事を打ち明けると、課長は驚くような様子なども見受けられずに侑斗にこう告げた。
「饗庭君と饗庭君のお兄ちゃんは瓜二つで本当兄弟だなあってのがTVで見ていてわかった。凄く似ていて驚いた。ただ身長はお兄ちゃんのほうが背が高いな。似たような活動をしているのはSNS等もチェックをしているのでわかっていた。」
課長が話した内容に侑斗は照れながら「まさか、そこまで気にしていたとは思ってもいなかったです。僕が蔭で霊能力者としての活動をしていたことをわかっていたんですね。」と答えた後に、7月に兄と共同で秋田の男鹿プリンスホテルへと除霊を行うために心霊番組に出演することを説明すると金銭を受け取らないことが前提なら構わないという話になってあっさりと了解を得ることに成功した。
そして収録日の7月13日を迎えることになった。
星弥と侑斗は前日の7月12日の土曜日の朝の早い時点で福岡空港から新東京国際空港を経由する形で秋田に入ると、空港で待ち合わせをしていた多田野と笑顔で挨拶をしてから、男鹿市内へと多田野が予め用意していたレンタカーに乗り移動し始めた。
そして男鹿プリンスホテル近くのホテルへと宿泊して、明くる日の7月13日に現場検証のためにいち早く侑斗から先に姿を現して、霊視を行い始めた。
先に侑斗が到着しているのを見た星弥は侑斗に「どうだ?」と聞き始めると、侑斗は「ただならぬ気配を感じる。それぐらいしか今は言えない。」と話すと、星弥はある可能性を示唆した。
「侑斗には行く行くは一緒に連れて行ってあげたいと思っているんだけど、東京の葛飾に新小岩駅ってのがあるのは知っているよな?」
星弥がそう語ると、侑斗は「ああ。勿論知っている。」と返事すると、星弥は「メカニズムは全く同じだ。つまりこんな公共の場をあえて選んで死ぬってことは、社会のメカニズムに対して怨みの念を抱いた御霊がこの地で地縛霊と化し彷徨っているという事だろう。男鹿プリンスホテルが営業していた頃に発生したとされる、泥酔した客が地下の風呂場で溺死したというのも、検証のし甲斐がある。見方によっては自殺の可能性も捨てきれない。地元の人の情報によれば、日本海中部地震が発生した際には津波による被害者の遺体を一時遺体安置所として地下の部屋が使われていたこと、焼身自殺があったことなどはデマとされている。」と話すと、侑斗は「心霊現象として挙げられているのは主に車のフロントガラスに手跡がついている、誰もいないのに人の声のようなものが聞こえたり、或いは”来るなあああ”といった叫び声や、あとは人の気配を感じると言ったものが報告されている。」と話すと、星弥は「有名なのは、1999年の7月に既に廃墟となっている男鹿プリンスホテルで男性の焼死体が発見されている。どうしてそこで見つかったのかは未だに分かっておらず、ただ言えるのは3階で発見されたこと。そしてホテル内でボイスレコーダーを用いて録音すると変な音が収録される、地下にあるたった一つ存在するとされる赤い椅子に座ると自殺するという噂、3階の窓から女性が手を振っているなどが挙げられる。赤い椅子に座れば自殺するは、赤い=血を連想させることから恐怖感を増したい狙いの一つの可能性がある。無数の手形がつくというのも何か引っかかるものがあるな。」と話し始めると、ホテルの中から侑斗と星弥を見て反応したのだろうか「おーい!」という大きな声が聞こえてきた。
星弥は「ようやくお出ましか。」と笑うと、何も聞かされていない侑斗は「えっ、何今の?御霊?ちょ、ちょ、御祓いの準備をしなくては!」と言い始めると、その声の主は侑斗の背後に立ち、ポンポンと肩を叩き始めた。
「うわ。びっくりした。も~烏藤さん驚かさないでください。」
ホテルの中から突如現れた烏藤に侑斗が驚きのリアクションを見せると、星弥と烏藤の二人で侑斗があまりにも大きなリアクションを見せたので笑いをこらえるのに必死だった。
「酷い。烏藤さんが来るなら前もって説明してほしかった。」
後から多田野が現地調査を行うために中に入ってくると、「これで3人いると聞いて居た霊能者は全て揃ったということだね?」と聞き始めると、星弥は「僕達ボランティア霊能者の3人で男鹿プリンスホテルの除霊を行います。」と強い口調で言い切ると、先に入って調査を行った烏藤が現状を語った。
「ちょうど3階に上がったときの事だった。階段の踊り場を登っているときから妙な違和感を感じてならなかった。3階のフロアに入っていくと、その瞬間に男の人の声がして”来るな!”と言われて何があったのかやはり気になって声がする方向へと駆けつけると、そこに恨めしい表情で睨み付ける男の御霊がいた。”何があった!?教えてほしい!!俺はあなたの見方であり敵ではない!!”と言って交渉を行った結果、窓のほうへと案内されたときに、窓の下で女性が頭から血を流して死んでいた。でもおかしいと思い、もう一度部屋を見回したら、下で死んでいたはずの女が3階の窓をよじ登って俺のすぐ近くにまで来ると、般若のような鋭い表情で睨み付けてきた。ここでの除霊はそう簡単なものではないと思う。女性は恐らく飛び降り自殺をする目的でこのホテルに宿泊したのだろう、そしてたまたま通りかかった男性の宿泊客が止めに入るも飛び降り自殺をやめさせることまでは出来なかった。目の前で女性が死ぬ姿を見た男性はよほどショックだったのだろうか、ホテルの部屋で浴びるほどの酒を飲みかなり泥酔した状態で風呂場に入って溺死したのは、恐らくは女性の後を追って自殺をするのが狙いにあったはずだろう。地下の男性用浴場には自殺を図った男性の残留思念も感じられたし、女性が自殺を図ったであろう3階の部屋の付近に近づけば近づくほど、女性のこの世に対する怨みの念を感じざるを得なかった。」
烏藤の話す内容に星弥は疑問を呈した。
「顔見知りじゃなかったとしても、見ず知らずの女性の自殺を見届けたことを理由に男性が自殺を図るなんてことは普通に考えてもあり得ない。仮にそうだとしても、二人はカップルで、女性は男性と口論になった末に腹を立てて窓から衝動的に飛び降りたかもしれない。”わたしが死んだらどうする?”ってね、その際に窓の外に手を振りながら飛び降りた可能性がある。修羅場をその場にいる人たちに見られたくない一心で男性はこう叫んだんだ、”来るな”とね。男性は愛する女性を目の前で失った悲しみから、溺れるように酒を飲み続けた末に風呂場で亡くなったと考えるのが筋だろう。いや~だとしても、自殺が無かったことが、焼身自殺も含め全般的になかったというのであれば、自殺がなかったというのもおかしな話になるし、それに泥酔した男性客の風呂場の話が事故死として取り上げられているあたりからも、真実があやふやになるのが気がかりだ。そして一番の謎がホテルに入ってすぐ現れるとされる老婆の霊だろう。それこそ謎だ。この近くで事故死した?だとしても、ホテルの中に入ってくることは非常に考えにくいし、考えられたとしてもホテルに入ってすぐに発作か何かを起こして意識を失いそのままお亡くなりになられたとか、楽しい旅の思い出を残せられないまま亡くなったのが心残りだったとか、うーん謎しか生まれない。」
烏藤と星弥が頭を抱えて悩んでいた時に、侑斗がある可能性を切り出した。
「全ての案件に共通性があると思うのは違うんじゃないのだろうか。」
侑斗の発言に烏藤が「それってどういうこと?」と聞き出すと、侑斗は「手を振る女性と来るなと叫ぶ男性はカップルじゃないかもしれない。女性は女性で最初からこのホテルで飛び降り自殺を図るのが目的なら一人で来るだろうし、男性は”来るな”と言って宿泊している自分の部屋に近づかせないようにする理由としては修羅場を目撃されたからではなく、この男性も恐らく最終的に追い詰められた末に飛び降りたか首を吊ったかいずれかの理由で自らの命を絶った、焼身自殺なら部屋の一部が燃えても不思議じゃない、ところがこの廃墟の現状を見てもその形跡はなく、風呂場で泥酔した男性による溺死事故も時代が曖昧であやふやだ、本当は泥酔ではなく病気の可能性も捨てきれない。それがきっかけでホテルの経営難に直結したというのも非常に考えにくい。やはり事故や自殺が相次いだことにより、評判を落としたと考えるのが妥当なところだろう。そして老婆の霊に関しては、浮遊霊の可能性も捨てきれないのでは?だとしても3階まで上がってきてというのもやはり謎だ。」と話すと、星弥は「侑斗お前、何ていいところに気が付いた!だとしたらここはやはり負のメッカの可能性が高い。」と言い張ると、「ホテルや駅、さらに踏切といった公共の施設で自らの命を絶つ人間の大方は、社会に対して強い憎しみと恨みを持つ人間が多い。あえて迷惑をかけるようなことをしてこの世を去るのだからね、3階の男性の声と女性の霊は恐らくだが自殺の可能性が高く、邪念が相当強いと思われる。また老婆の霊は恐らくだが危険を知らせるためにもついてきて警告を出したに違いないだろう、”これ以上立ち入ってはならない”とね。地下の男性客が入浴中に死んだのは恐らく事故で、泥酔した状態ではなく、入浴中に何かしらのトラブルがあって亡くなった可能性が高いと思われる。ボイラーの不完全燃焼による一酸化炭素中毒か、そういったところだろう。まず自殺者の霊を鎮めた後に、地下の男性用入浴場に向かい、そこでも供養を行うことにしよう。活発化しかねない夜の時間帯は避け、明るい時間帯に行うことにしよう。」と提案すると、烏藤と侑斗は星弥の意見に賛成し、除霊は明るい時間帯に行うことで多田野にも説明を行うことにした。
侑斗が多田野に「収録は19時からの予定でしたが、お互いのみの安全も考慮したうえ時間帯を早く切り上げてお昼の13時頃ぐらいから除霊を開始したいと思います。まず屋上から、ホテルの地を清めるための儀式を行い、続いて6階、5階、4階、3階、2階、1階、地階と各フロアで御祓いのための儀式を行い、除霊完了です。とりわけ、3階と地階は霊の気配を強く感じるとの報告がありました。このホテルで彷徨う霊は地縛霊なのでこの場から離れても憑いてくる危険性はありませんが祟られる可能性があります。そこで、多田野さんや他のディレクターさんやADさんやカメラマンさんには、烏藤さんが前もって用意をしてくれた邪気払いの御札と銀河さんが用意した身を護る結界の役目を果たす水晶のブレスレットをこの場でお渡ししますので、それを必ず身に着けた状態で中に入って下さい。御札はポケットに入れるなどして下さい。」と話したところで、全員に御札とブレスレットを渡したところで、撮影クルーは男鹿プリンスホテル内に入ると、早速屋上を目指しあがっていくと、3階に近づくにつれ段々と空気が改めて違うという事に気が付き始めながらも、前を向いて進み続けた。
そして屋上に着いたと同時に、土地を清めるための儀式をその場で行ったところで、続いて6階、5階、4階の各フロアの御経で清める作業が終わったところで再び3階に近づこうとすればするほど、息苦しいほどの空気になっていくのに気づき、星弥はその都度御祓いを行いながら、3階に辿り着いた際に部屋の前に現れた女性の霊を前にして星弥は「女の霊は俺が対処する、背後から近づこうとしている男の霊は烏藤にお願いしたい。」と話すと、烏藤は「ああ。勿論だ。侑斗君は多田野さんたちに害を齎さぬ様しっかりとガードしてやってくれ。」と語ると二人で緊急の除霊が始まった。
二人の緊急除霊を行う様子をカメラマンが見逃すことなく侑斗が作った結界の中で撮影を行うと、侑斗はしっかりとその他の霊達による妨害行為が行われぬようにずっと供養のための御経を読み続けるのだった。
そして、星弥と烏藤が「手強かったけど除霊成功だぜ!」と言って嬉しそうに戻ってくると同時に、2階、1階でも清める作業を行い、そして最後に残された地階でも清めるための作業を行った後に、霊の気配を感じた男性用入浴場に現れると、風呂場で激しい表情で睨み付けてくる男性の御霊を確認したところで、星弥は侑斗に「闘ってきなさい。何かあれば俺と烏藤で援護する。怒っているように見えるが、あの方は生前この場でもがき苦しんだ末にお亡くなりになられたのだろう。今も救いを求めてこの場を彷徨っている、救いの手を差し伸べて昇天してあげるためのお手伝いをしてきなさい。」と話すと侑斗は「わかった。」と話し男性の前まで近づくと、供養のための御経を読み始めると、男性の御霊は激しく抵抗し侑斗の右手を掴もうとしたが侑斗は素早く左手で振り払い、「苦しみから解放をしてあげましょう。思わぬ出来事でこの世を去らなければいけなくなったのは心残りだったでしょう。しかしいつまでもここに彷徨っては、残された家族もあなたの成仏を願い信じて大切に大切にあなたの魂を供養をされている姿を想像しただけでも、あなたはずっとここにいるべきではないと思います。守らなければいけない家族のところへと戻り、家族のためにも今度はあなたが守護霊として活躍をしなければいけない、それが今のあなたが果たさなければいけないことのはずです。過去のしがらみから抜け出してください。」と言霊の力を使って説得をするとさらに成仏のための御経を読み始めると、男性の御霊は涙を浮かべながら光となって消えたのだった。
その様子を静かに見守った星弥は侑斗に「よくやった。」と話すと、烏藤も「今までの修業がやっと成果として実ったね!」といって3人で喜びを分かち合った。
そして全てのフロアでの除霊を行ったところで、多田野に「除霊完了です。もう御霊が現れる可能性は無いと思います。管理人にも建物の崩落の危険性からすぐにでも解体作業に取り掛かるように助言願います。」と話すと、多田野は「毎度ありがとうございます。お陰様で良い映像が撮影できました。管理主にも建物の解体をするようにとお願いをします。」と語り、その日の収録は問題なく無事終えた。
そして、心霊特番の放送日と同日に、管理主の依頼により男鹿プリンスホテルの解体工事が本格的に行われ始め、翌年の2026年の1月には完全にホテルがあった場所は更地と化し、土地は地元の不動産に売却することになったのだった。
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