開聞トンネルを後にした侑斗は、カーナビの音声ガイダンスに従い、道を進んでいくこと、やっとフェリー乗り場へと辿り着くと、フェリー料金を払った後にフェリーの座席でゆっくりと寛ぎながら、小串トンネルについて調べ始めた。
「小串(こぐし)トンネルは昭和55年(1980年)6月30日に完成した長さ180mの比較的短めのトンネルで、トンネルの先に小串八幡神社がある。いくつかの心霊体験談があり、なぜここが心霊スポットと呼ばれるには様々な所以があるようだ。」
侑斗はそう読み始めると、心霊現象として報告されているエピソードのいくつかを検証してみることにした。
『子供時代の頃の話。小串トンネルへ訪れた際に何者かの笑い声が聞こえてきた。笑い声が聞こえるほうへと振り返るが誰もおらず怖い思いをしたという。』
『車で走行中にどこからともなく子供の笑い声が聞こえてくるという噂があり、また不可解な音が聞こえてくるという噂もある。』
『子供だった頃、小串トンネルを通った際に数人の子供の声が聞こえてきて、後ろの車にも子供が乗っておりその子の声が聞こえてきたのだろうと思い振り向きもしなかったが、車を運転する母親が”さっき子供の声がしなかった?”と聞いてきたので”母さんも聞こえてきたのか”ぐらいの程度しか思ったぐらいで気に留めることはしなかったが、今ふと振り返ると母さんは気付いていたと思う。後続車などはいなかった、そうでなければわざわざ聞いてこないはずだから。』
『心霊スポットサイトで実際に車で走行した方のエピソードには、トンネルの壁に人の形をした水のシミのようなものが生じていており、それを見てしまった瞬間に”グシャ”という嫌な音がトンネル内に響いた。だが、トンネル内にはこの車以外の車はなく風も吹いてはいない。何の音だったのか、金属的な音ではなかった。奇妙な音はしたが何だか嫌な感じがあった。』
幾つかの心霊エピソードを呼んでいくにつれ、侑斗の中である可能性が見えてきた。
「笑い声が聞こえるというのが一番気になる。謎の不可解な音も気になるところではあるが、まず笑い声のエピソードの真偽を確かめるために、小串トンネルの写真を見て霊視を行うことにしよう。」
侑斗がそう考えると、WEB上で表示される小串トンネルの画像を見て、目を瞑ると気を集中して霊視を行い始めた。
「山だから、集まりやすいのか。いや違う。それこそ子供達の笑い声が聞こえるという事はかつてここで、学校の遠足の帰り道でこのトンネル内で痛ましい事故が発生し複数名の生徒が命を落としたという可能性は捨てきれない。仮にもしそうだとしたら大惨事にでもならなければ、40年以上経ってもなお大々的に伝えられることはないだろう、いやそうだとしたら死者の数関係なく慰霊碑があってもおかしくはないのだがそれすらないということは、このトンネルが出来るまでを遡らなければいけない。このトンネルが出来るまでは一体何があったのか。答えはトンネルを実際に見て検証を行うしかないだろう。」
ある程度、小串トンネル内で起こりえた事象を色々と考えているうちに、フェリーは港へと到着した。ゆっくりとした速度でフェリーから降りた侑斗は小串トンネルの方向へと進んでいくと、やっと小串トンネルの前まで辿り着いた。
「小串トンネルの看板がある。ここだな。」
そう思った侑斗は、歩道から小串トンネルを眺めはじめると、深く深呼吸をした後に気を集中し精神統一を行ってから霊視を開始した。
「山の方向から、霊の気配を強く感じる。ただこれは浮遊霊で無害だろう。山を見て昇天をするためにこの地へと訪れ、これから高く高く昇っていく段階に入っているのだろう。心霊現象の一つとしてあげられる子供達の姿は見受けられない。仮にもし子供達がこの地に現れた理由として考えられるのは、かつてこの地は公園か広場か、しかしこのトンネルの上の生い茂った木々を見ていると広場なり公園があった可能性はないだろう。あり得るとしたらやはり、事故死をした子供達の霊の可能性がある。大々的の報道されないのには、遠足やバスツアーといった公共の乗り物での事故ではないからだろう。家族で旅行に行った帰り道でこのトンネルを通りかかった際に事故に遇い、お亡くなりになられた。車に乗っていた子供達は一瞬の衝撃だったために、肉体から魂が離れたことにすら気づかないまま、昇天してしまったのだろう。だとしたら死んでいることにすら理解を示していない可能性もありえなくもない話だ。」
侑斗はそう思うと、まずは車でトンネル内を走行し、Uターンが出来る場所へUターンをすると再度小串トンネルの中へと入って検証をし始めた。
トンネル内を車で往復し検証した後は、車を安全に停車が出来るスペースへと停車をさせてから今度は徒歩でトンネル内を歩いてみることにした。
「人の形をした水のシミというのが果たして今もなお残っているのだろうか。」
そう思った侑斗は、トンネル内の壁を隈なくチェックをし始めた。
すると指摘通りに、人の形をした水のシミに目を通すと早速ポラロイドカメラのシャッターを切った。それを見た侑斗は早速、霊視を行うことにした。
「トンネル内から流れ出た水がこのようにして人の形にして現れるというのは偶発的に起こったことと言えども、やはり何かしらの暗示を感じる。」
侑斗が人の形をした水のシミのところにまで近づくと右手で触れ始めた。
すると、侑斗の脳裏にある悲しい事故がフラッシュバックしてよみがえってきた。
「運転席にお父さんだろうか、助手席にはお母さんが座り、後部座席にはシートベルトも何もつけていない状態で子供達が座っている。仲のいい家族だったのだろうか移動中の車内でも、楽しかった旅の思い出話に夢中になっていた。ワイワイと賑わう車内でこの小串トンネルを通過しようとした時だった。話に夢中になっていたお父さんがハンドル操作を誤りトンネルの壁へとぶつかってしまう単独事故を起こした。その際に事故の衝突の凄まじさから、後部座席に座っていた子供達は車外へと投げ出されて、救急車で病院に搬送されるも治療の施しようがないままお亡くなりになった。」
頭の中で事故を起こした映像を見た侑斗はハッとなって目が覚めた。
「そうか。単独事故だから、大々的に報道されていないだけなのか。」
そう気づいたその瞬間だった。
後ろから少年の声が聞こえてきた。
「お兄さん、壁にぼーっと立っていて何をしているの?」
侑斗が振り向くとそこには9歳ぐらいの男の子と、男の子の妹だろうか長い髪の毛を二つにくくっていた子と一緒に手を繋いで現れた。
その様子を見た侑斗は「僕たちこそ、こんなところで何をやっているのか?」と聞き出すと、男の子は笑いながら答えた。
「とっても楽しかったことがあった。」
男の子はそう言うと笑い始めた。
男の子の発言を聞いた女の子も、楽しかった思い出を振り返るように笑い始める。
「アハハ!アハハハハ!」
子供達の元気な笑い声がトンネル内に響き始めた
しかし彼らの表情を見て、生者じゃないのは一目瞭然だった。
事故死をしたのだろうか、顔には顔面からシートにぶつけた後に社外から飛び出されたのか深い傷跡が残っており、そして女の子もよく見ると同じような傷跡が痛々しく残っていた。
それを見た侑斗はこう答えた。
「君たちのお父さんはこのトンネルで単独事故を起こした。同乗者だった君たちのお母さんとそして君たちはこの事故で犠牲になった。家族を自らの手で殺めてしまったと思ったお父さんは自らの罪の重さに耐えきれず、自宅内で自殺を図り死亡した。君たちは事故が起こるまでの楽しかった旅行先での思い出や車中でのやり取りが忘れられなかった。ただ事故があっという間の出来事だった故に、痛みや苦しみなどがわからないまま、訳も分からず目が覚めたら空から自分たちの肉体を眺めていた。そんな光景ではなかったのか?事故により君たちの魂は肉体から離脱した後、二度と戻ってくることはなかった。それを君たちは”死”と捉えることが出来ずに今も、この最期の地で迎えたトンネルで楽しいひと時を思い出しては笑っていたのか。」
侑斗が優しい口調でそっと語ると男の子は急に黙り込み、固まってしまった。
そんな様子を見た隣の女の子は侑斗に声をかけた。
「わたし、もうとっくの昔に死んでいるというの?」
女の子に聞かれた侑斗は「辛いけど、これが現実だ。君たちだって生きていたら今頃きっと立派な大人になって俺ぐらいの子供がいてもおかしくないぐらいの年頃になっていただろう。生きていたら色々とやりたかったこともあっただろう、君たちが味わった無念は俺にも痛いほどじんじんと伝わってくる。俺の立場からして君たちに出来ることはただ一つ、それは天国と言う死者が向かうべき場所に連れて行けるお手伝いをしてあげる。どうか安らかに眠って、そして天国で楽しいひと時を過ごしてほしい。心からの祈りを君たちに捧げる。」
侑斗がそう語ると、成仏のための御経を唱え始めた。
最初は黙って聞くだけで何の効果も無いとばかりに子供達はただ黙ってじっと侑斗を不思議そうに見つめていた。しかし御経の言葉の有難さに子供達が段々と気付き始めると、傷ついた心が和らいだのか、子供達は再び手を繋ぎ始め光の中へと包まれていった。その瞬間に、もう子供達の笑い声など、トンネルから聞こえてこなくなった。
しかし、人の形をした水のシミだけが不気味に残る。
「お父さんがハンドル操作のミスをしたと言った。だが、こんな真っ直ぐの直線道路で、昔は今と違いトンネル内の照明がなく薄暗くて走りづらかった時もあったことも踏まえて考えると、このトンネルの短さでハンドル操作を誤るのは何か意図的なものがあったのかもしれない。」
そう思った瞬間に、背後から得体のしれない何かを目覚めさせてしまったようだった。侑斗が背後からの存在に気付き振り返ると、子供達の母親が怒りの形相で突っ立っていたのだった。
「よくも、よくも・・・。」
女性の叫びに侑斗は思わず言葉を失った。
しかしここで怯えてはますます憑かれてしまうと感じ、侑斗は率直に思ったことを女性に語り掛ける。
「先程、僕達の前に現れたのはあなたのお子さんでしたかね。あなただって、そしてお子さん達だってこの事故でお亡くなりになられたことをとても痛ましく思います。あなたの御主人が意図的に事故を起こしたのであれば、怒りの矛先は僕ではない、御主人のほうに向けられるべきじゃないですか。しかしそれをどうしてされないんですか。御主人に何か未練でも、いや伝えたかったことがあったんじゃないんですか。単独事故とと見せかけ、実は無理心中だったんじゃないんですか。地元の人が小串トンネルを通りたがらないのには理由があります。それはあくまでも憶測にしか過ぎませんが、かつてその地で忌まわしき出来事があり祟られないためにもその地を通ることを避けた。だとしたら単純な単独事故以外の理由があるのだろうと予想が出来ました。子供達は出てきたのはほかでもありません。事故の際にハンドルを壁のほうへと勢いよくぶつけるために左へと思い切って切ったのは、死ぬ覚悟がもう既に出来ておりシートベルトを外したあなただったんじゃないんですか。生き証人となった御主人は、生き地獄そのものだったのでしょう。大切な家族をこのような形で死ぬのを見届けるような形で精神的にもやつれ始めた御主人は自宅で自殺を図ってしまった。子供達がどうして笑いながら、このトンネルで現れるのは何となくわかってきました。あなたによる犠牲者を出さないためにもだ。子供達はあなたが悪霊とならないためにも事故を起こすまでの楽しかった時のことを思い出しては笑って今日までずっと隠し続けてきた存在をずっと守り抜いてきた。それが母親であるあなたの存在でしょう。子供達の笑い声だけで一躍心霊スポットとなったこの地で、理由も分からず心霊スポットになったのには、公には紹介できない事情があったからですよね。だから地元の人のみぞ知る、隠さなければいけない情報となったのでしょう。あなたは死ぬまでにこの世に対して強い憎悪の感情を抱いていた、それが子供達を道連れにして心中をする決意へと繋がった。この世に抱いた怨念を霊となって復讐してやりたかったのですか。それを子供達に阻止され、ずっと歯がゆい気持ちで今日まで彷徨い続けていたのですか。何と寂しい事でしょう。」
侑斗が女性に語りだすと、女性はますます表情を変えて、侑斗のほうへと向かって襲い掛かろうとしたのだった。
しかし、侑斗は屈しなかった。
女性が右腕で降りかかろうとしたところをしっかりとキャッチした後に、ズボンのポケットから清めの塩を取り出すと、女性に向けてかけると、雄叫びに近いような声で女性が叫び始めると、その様子を見た侑斗は供養のための御経を唱え始めた。
それでも女性は諦めない。
「嫌だ、嫌だ、この世に対する怨みの念はまだ残っている。逝かせないで。」
女性の訴えに侑斗は耳を貸さず、さらに御経の声を大きくすることで、トンネル内全体に響き渡るぐらいのレベルにまでなっていくと、現れた女性は出没した闇の世界へとスーッと吸い込まれるようにして消えていった。
女性がいなくなったのを確認した後、あの壁の人の形をシミの部分をよく見たら消えていた。
「女性はきっと色々なことがあって、この地で心中を図ったのだろう。人間関係とは複雑だ。それはきっと感情というものを持って生きているからこそ、ストレスというのは、子供であれど大人であれど成長するにつれ感じていくのは当然のことだ。女性は思い悩んだ末に、解決策が打開できずに、追い詰められた末に”死霊になってでも恨みを晴らしてやる”という結論に至ってしまったのだろうか。だとしたら、未来ある子供達の命まで果たして奪うべきものだったのだろうか。そう考えると、地元の人がこのトンネルを通りたがらないという説も頷けるような気がする。」
そう思った侑斗は、車を停車させた場所へと戻ると同時に、自身の御払いを済ませてから、小串トンネルを後にすることにした。
「はあ~これから小城市に帰るのって超面倒くさい。1時間もあれば辿り着く都城市まで行ってそこで安いビジネスホテルにでも宿泊して泊まろうか。財布にはまだ余裕があるし、ケチるところはケチって、いくしかないなあ。しかしせっかく鹿児島まで来たんだから、何か鹿児島でしか出来ないことと言ったらもう居酒屋へ行って美味い酒と肴を食べる、はあ~行きたい。グイっと一杯飲みたい。しかし車を運転する俺にはできないことだ。同乗者が居れば、ああ~悲しすぎる!!」
修業の辛さよりも、お酒が飲めない辛さのほうがどうやら勝っていたようだった。
その後都城市内に辿り着いた侑斗はガレージのあるビジネスホテルで宿泊の手続きを済ませてから、部屋へと入ることにした。
そこにあった大きなベッドのそばに鞄をどさっと置き始めると、御祓いの疲れをとるためにもさっそくシャワー室へと入り、シャワーを浴び始めた。鏡を見ながら髪の毛を洗っていた時の事だった。ふと誰かの気配を感じると思った侑斗は、湯気で曇り始めた鏡を吹き始めるとそこに、セミロングヘアーの若い女性がどこからか侑斗の後を追って憑いて来ていたのだった。
「まさかここ(=シャワー室)まで憑いて来て、彼女でもないのに俺の裸をじっと見ているだなんてどういう神経かな?」と言い出すと、成仏のための御経を唱え始めると、女性は天を仰ぎながら一瞬で姿をくらました。
「助けを求めたかったのか。それならもっといい方法があったはずじゃなかったのか。」
侑斗がそう呟くと、さっとシャワーで体を洗い始め、コンディショナーで逃避をマッサージした後に顔を洗顔し終えたところで風呂から上がってきた。
「やっぱり風呂上りが一番!最高!!」
優等はそう言ってベッドへと大きくダイブすると、そのまま熟睡してしまった。
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