九千部山の哀れな御霊に憑かれ、緊急の御祓いを受けた侑斗。
そして翌日。
2025年4月7日の月曜日の朝7時を迎えた。
カーテンから眩しすぎるぐらいの太陽の陽ざしに目が覚めて起きた侑斗は、ずっと傍に兄の星弥がいることに気が付いた。
「兄ちゃん、ずっと傍にいてくれたんだね。」
侑斗が語ると、星弥は笑いながらこう答えた。
「兄貴として当り前じゃないか。俺にとって侑斗はたった一人の弟だよ。心配になってずっと傍に寄り添っていたんだよ。」
兄の温かい言葉に、侑斗は「迷惑ばかりかけてごめん。兄ちゃん。」と言うと、星弥は侑斗に念を押すかのごとくに強く言い始めた。
「これからもずっと御祓いを続けていくのか?」
兄からまさかの言葉に侑斗はどう答えていいのか迷いに迷った末に結論を出した。
「俺には憑かれやすいという弱点がある。でも今まで楠木先生の助手として高校生の時からずっと先生の側近として霊能力者の見習いとして御祓いや除霊などを行ってきた。これからもこの活動は続けていきたい。そうじゃなかったら、今までの努力が水の泡となってしまう。ボランティアとして、収入を得ない形でこれからも霊能力者として鍛錬しなければいけないことはしっかりと鍛えたいと思う。」
侑斗の力強い意志表明ともいえる言葉に星弥は語りだした。
「朝鮮トンネルで憑かれたときから何も変わっていない。侑斗。まだ霊の恐ろしさを分かっていないのか。」
星弥がそう語るとパソコンを立ち上げ、あるWEBサイトを開き始めた。
「ここは知っているだろうか?」
星弥がそう語ると、心霊スポットの検索サイトに”廃ホテルK”と称されて紹介されてあるページを開き始めた。
「ここはかつて殺人事件が起きた関東地方でも屈指の心霊現象が起きる場所だ。」
星弥がそう語ると、侑斗は興味津々になって写真の霊視を行い始めた。
「確かに。女性の霊がこちらを見ている。それだけでなく、複数の数えきれないほどの浮遊霊が彷徨っている。そんな感じにも見受けられる。」
侑斗が淡々と語りだすと、星弥は答えだした。
「大学1年生のころだ。肝試しがしたいので霊能力者の銀河さんに同行してほしいと依頼を受けてね、千葉県の東金市にあるこのホテル活魚に行ったことを今でも忘れられない。今は建物そのものは残っているが崩落の危険性もあり、現在は立ち入り禁止となっているが、俺が19歳のころはまだ普通に行けたときでもあった。ただ事件があった。それを何となく俺の中では浅はかに考えていて、ホテルに肝試しのメンバー4人と入っていったんだけどね、見てしまったんだ。とてつもないものをね。」
星弥が語ると、侑斗は「それって何?」と聞き出すと、星弥は「それでも聞きたいのか?」と訊ね、侑斗は「勿論知りたい!」と答えて話した。
「顔の血管が血走って真っ赤の状態の10代だろう、部屋の片隅に少女がいた。2階にさらに強烈な負のエネルギーを感じるところがあって、入っていったらそこには恨めしい目つきでこちらを睨みつけてくる若い女性がベッドにいた。無論廃墟になってから訪れているのだから、そんな女性がいるわけがない。かたや少女の正体が気になって、活魚を後にした後に改めて調べたんだ。するとあの地では自殺や殺人事件が発生している。一つはカップルが痴話喧嘩で口論となり相手を刺し殺してしまった、さらに今もなお残っているのが宿泊客の一人が焼身自殺を図ったのではなかろうかという焼け爛れた部屋があってそこは想像以上に空気が重く何だか呻き声のような声も聞こえてきた。極めつけは2004年の12月22日に女子高校生が男性5人組に拉致を去れ、廃墟となったホテル活魚に連れ込まれた後に電気コードで絞殺され、ご遺体を体育座りをさせられた状態で大型の冷蔵庫に入れたという痛ましい事件があった。」
侑斗は星弥が語りだす内容を聞いて「何それ。めっちゃやばいやつじゃないか。」と話すと、星弥は「そうだ。やばいやつだ。俺が見た顔が血走った10代の少女は恐らく殺された女子高生の御霊だろう。いきなり襲われて強姦され殺される。想像以上の地獄だっただろう。そう思うと、あの地はやはり遊び半分では行ってはいけない。怨念が渦巻くあの空間においては、女子高生の御霊は何をしてもきっと成仏はしないだろう。生きてまだまだやりたかったことが沢山あっただろう、こういう場所には悲しみに寄り添うようにして様々な関係のない浮遊霊が集まりだして、ひとつのサークルを作り出す。考えただけでもゾッとするほどの御霊があの地に集結している。侑斗は御祓いや御経を唱えれば、簡単に成仏をすると思っているだろう。でも世の中には無惨な殺され方で、死にたくないのに死んでしまった人だっている。殺されて今もなお助けを求め叫び続ける御霊だっている。そういう霊の供養は簡単にはいかない。生前に受けた心の傷が根深すぎるからね。きっと何日かけて御経を読み続けたとしても、亡くなられた方の無念を拭い去ることはできない。俺が侑斗に言いたいのは、御祓いと言うのはそんな簡単に済む、甘い話ではないという事を言いたい。それでも続けるのなら俺はまだまだ侑斗には修業が足りないと思っている。」
星弥が侑斗にそう語ると、侑斗は考え込んで言葉に言い表せられない思いになった。そんな侑斗を見て星弥はある提案を打ち出した。
「週末の4月12日は休みだろ?俺も非番だ。せっかくだ。社会人になったお祝いのついでに、2人で遠出でもしないか?」
星弥が侑斗に語ると、侑斗は「一体どこに連れて行ってくれるの?」と聞き出すと星弥は答えた。
「高知県の土佐清水市にある足摺岬さ。大分から愛媛まではフェリーがある。それに乗り、高知まで行けばあっという間に着く。お遍路さんの修業は出来ないが、いい経験を積めると思うよ。」
星弥の話に侑斗は恐る恐る話し出した。
「足摺岬って、有名な自殺の名所じゃないか!」
侑斗がそう語ると、星弥は答えだした。
「大正解だ。お得意のWikipedia様情報で説明しようか。」
星弥がそう語ると持っていたスマートフォンでWikipediaのアプリをクリックして、足摺岬と検索をし始めた。
『足摺岬(あしずりみさき)は、高知県南西部土佐清水市に属し、太平洋(フィリピン海)に突き出る足摺半島の先端の岬。足摺宇和海国立公園に指定されている。
元々は「足摺崎(あしずりざき)」が正式名称であったが、観光地化の進展に伴って改称の議論が起き、広く通称として呼ばれていた「足摺岬(あしずりみさき)」が正式呼称となった。
足摺半島南東端に位置、黒潮の打ち寄せる断崖は約80mの高さをもつ。周囲はツバキ・ウバメガシ・ビロウ等の亜熱帯植物が密生。沖合いはカツオの好漁場。一方で台風銀座でもあり、しばしば暴風に見舞われる。
各所からは日の出、日の入りが一望できる。明るく温暖な南向きの岬である。
北緯32度43分24秒、東経133度1分12秒に位置し、一般には四国最南端の地(岬)として認識されているが、正確には最南端ではない。四国本土の最南端は足摺岬の西方約1kmにある「長碆」の南端部付近で、離島を含めた四国地方全体の最南端は宿毛市に属する沖の島にある。なお、長碆の先端部は陸地から安全に行きつくのは不可能である。
土佐清水市の大岐と三崎を基部とし足摺岬を先端とした区域で、白皇山(標高458m)を最高峰とする半島が「足摺半島」である。さらに、足摺半島を含む、宿毛市と四万十市を基部とし足摺岬を先端とした区域で、今ノ山(標高868m)を最高峰とする半島が「渭南半島」である。
小惑星(4399) Ashizuriは足摺岬にちなんで命名された。
南方にある浄土へ渡るという「補陀洛信仰」(→補陀洛山寺)の舞台であり、中世には紀伊国(和歌山県)の那智勝浦と並ぶ、「補陀落渡海」の船の有名な出発地であった。田宮虎彦の小説「足摺岬」はこうした歴史を背景とした作品である。この小説をきっかけに、自殺が急増した時期があり「ちょっと待て、もう少し考えよ」という自殺防止用の看板が立てられた。』
(出典先:Wikipedia 足摺岬の記事より一部引用)
星弥が語りだすと、侑斗は「兄ちゃん、それ俺がライブ配信する際に紹介のために使いたかったのに、事前に言われちゃあ困るよ。」と言うと、星弥は「侑斗の真似っこをしただけ!」と笑いながら言うと、星弥は「どうだ。たまには九州以外の心霊スポットに行くのも悪くないと思うよ。俺が運転してあげるし、また俺も霊能力者銀河として再活動をしてあげるからさ。」と話すと、侑斗は「えっ、兄ちゃん。マジで!復帰をしてくれるのか!?それだったら俺も嬉しいよ!!兄ちゃんと二人、兄弟で御祓いが出来るなんて俺の中では本望だよ!」と語りだすと、星弥は「勿論、決まりだよね?」と真剣な表情で語ると侑斗は「うん!土曜日に行こう!」となって、週末の土曜日に二人で足摺岬に行くことになったのだった。
朝の8時ごろに侑斗が兄星弥を迎えに神埼市内のマンションへと足を運ぶと、早速2人でフェリー乗り場のある大分市内へとむけて走らせた。そして国道九四フェリーで大分市内の佐賀関港から愛媛県西宇和郡伊方町の三崎港へと出航するフェリーに車ごと乗ると、1時間10分後には三崎港に到着をすると、そこから足摺岬のある土佐清水市へとむけて走らせた。
足摺岬へ向かう道中、侑斗がハンドルを握りながら、助手席に座る星弥が侑斗に語り始める。
「足摺岬の心霊でよく聞く話は、調べてみる限りでは何パターンかある。まず自殺の名所ともあるように、自殺者の御霊が多く現れることが多い。その例としては、血まみれの男性が現れる、白い服の女性の霊が現れる、切り立った崖の上から水平線を眺めてうっとりしていると足を掴まれて崖から落とそうとする霊が現れるという話だ。どの心霊現象も、自殺者ならではの現れ方かもしれない。特に最後は、この地で最期を遂げた自殺者達の御霊の集合体かもしれない。一度により固まって、集まることによってこの地に訪れた人を自分たちと同じ最期を遂げてもらおうという悪意を持った霊達が引き起こした可能性は十分に考えられる。」
星弥がそう語ると、侑斗はあることを思い出した。
「それって、爺ちゃんの時がそうだったんじゃないのか。」
侑斗の質問に星弥が答え始めた。
「そうだ。七ツ釜と同じだ。こういう海の自殺の名所は、福井県坂井市にある東尋坊や石川県羽咋郡(はくいぐん)志賀町にあるヤセの断崖など、海面から夥しいほどの無数の白い手が伸びてきて、自分たちの仲間を増やそうと待ち構えている。七ツ釜もそのうちの一つだ。色々な御霊が集まりだして寄り添うような形でピラミッド=霊の集合体を作り出すことでより強力なパワーとなって生者を襲うことが出来るんだ。とりわけお爺ちゃんはこの世に対する怨みの念が自殺者の誰よりも強すぎるが故に引き付けてしまったんだろう。」
星弥の導き出した答えに侑斗は思わず何を言い返せばいいのかわからない心情になった。考え始めて数分後に星弥に「お爺ちゃんが怨霊と聞いて、何だか本当にお爺ちゃんはそれを望んでいたのかな。」と聞き出すと、星弥は答えだした。
「お爺ちゃんの狙いは、この世の中に対する復讐だけだ。復讐を果たしたいがために、呼び出した悪魔に身も魂も売って悪魔になる契りをしてしまっている以上、最後まで悪魔との契約をした内容を守る形で、兄である裕も、福冨克哉も、そして染澤潤一郎も悪の道に堕ちてしまった。お婆ちゃんだけは悪の縁と断ち切り、成仏をするために受けなければいけない罰を受け、反省していることを認められた上に昇天をすることが出来たのだからね。」
星弥がそう解釈をすると、侑斗は考え始めた。
「世の中って本当に皮肉な世界だよね。」
侑斗が語りだすと星弥はカーナビの地図情報を見ながら侑斗に「言っているうちに、足摺岬に近づいてきたぞ。」と語りだすと、侑斗は「そうだね。目的地までという距離数が徐々に縮まってきた!終わったらせっかく高知まで来たんだからカツオのたたきでも食べたいなあ。本場だよ、本場の!藁焼きで作るカツオのたたきなんてもう絶品だろうな~。」と言い出すと、星弥は呆れたような表情で侑斗を見始める。
「高地に来たのは日帰り旅行をするのが目的じゃない!侑斗の霊能力者としての修業のためだろ!忘れるんじゃない!!」
星弥に一喝されると、侑斗は「ごめんなさい。」といってしょんぼりし始めた。
そして足摺岬の駐車場へと車を停車させた後、2人は観光スポットでもある天狗の鼻から足摺岬展望台、地獄の穴をそれぞれ霊障の真偽を確かめるために予め持参をしておいたポラロイドカメラで写真撮影を行った後、メインの足摺岬へとやってきた。
近付けば近づくほど、段々と空気が重たくなっていく。
「兄ちゃん。何だかさっきから息苦しいぐらいに、空気が重たくなっているのは霊障なのかな。」
侑斗がそう語ると、星弥は語りだした。
「自殺者の御霊達が俺達のような強いエネルギーを持つ人間の存在に気付き始めた。侑斗、これから先はさらに危険になる。決して自分を強く保て、そして自殺者に対する同情の心などは捨てろ。ここで禍を齎す御霊の大方はこの世に未練を残しているのが大半だ。やむを得ず、最終手段の一つだった、そんな心の闇を抱えた方達が行きつく場所でもある。だが死んだ後に気が付き始めるんだ。それは死に急ぎ過ぎたとね。考えれば打開策も見い出せたはずなのに、追い詰められた末に死を選ぶんだ。そのことに対して自分が死んだことに分かってから、肉体は海面にプカプカと浮かび、肉体から離れた魂だけが宙に浮いている。そんな状態で改めて霊魂になった人は自分のしてしまった過ちに対して思い知らされるんだ。そんな霊達は、俺達のような御祓い能力を持つ人たちに救いを求めるんだ。決して侮ってはいけない。足摺岬は古い時代からずっと自殺の名所として知られている。決して最近の話ではない。それだけにこの地で命を落とした御霊の数だけでも膨大なんだ。侑斗に今回見せたかったのは、そんな膨大の御霊の数々に対してどう考え行動するのか。それを見てみたい。」
星弥が侑斗に課題を語ると、侑斗は足摺岬の断崖にまで足を運ぶと、ソロっと下を眺めることにした。
すると星弥の説明通りに、夥しい数の無数の白い手が海の中から、助けを求めるような感じで手をまさに上げようとしていた瞬間だった。それを見た侑斗は、「御祓いの塩をまき、そして供養のための御経を唱えよう。」と考えて行動に移した。履いていたズボンの右ポケットから清めの塩を取り出すと、それを利き手の右手で海のほうへと向かって巻き始めると、成仏のための御経をゆっくりとした口調で唱え始めた。
その様子を外からじっくりと見ていた星弥はやがてあることに気が付き始めた。
「徐々に霊のいる気配は薄らいだ。だが強烈な悪意を持つ霊がまだ近くにいる。」
そう思った星弥は侑斗に「供養はもう十分だ。ここから逃げよう。」と語りだすと、侑斗は首を傾げた。「どうして?まだ途中だって言うのに帰るって唐突だなあ。」と言い始めると侑斗の背後から、激しい怒りを露わに顔が血まみれの男性の霊が現れ始めたのだった。
星弥は、「危険度MAXのボスのゴーストのお出ましだな。除霊能力の浅い侑斗にはまだ早すぎる!さっさと駐車場に戻れ!」と言い出すと、侑斗はその悍ましい風貌の御霊を見た瞬間に居ても経ってもいられず、星弥に「俺も残って兄ちゃんの手伝いをしたい。」と言い出すと、聖夜の近くに寄り添った。そんな侑斗の姿勢を見た星弥は侑斗に小声で耳打ちをした。「数珠は持っているか?奴は引きずり込もうとしている。数珠を持ち、気を集中させ精神を統一した状態で、供養の御経を唱えよう。」と言い出すと、侑斗は「わかった。」と話し、ズボンの右ポケットから数珠を取り出すと御経を唱え始めた。血まみれの男性の霊は御経の有難い言葉と共に動きが段々と鈍くなっていくとその隙に星弥が成仏のための御経を唱えながら清めの塩を掛けると、血まみれの男性の霊は悲鳴を上げて姿を消した。
消えていく瞬間を見て侑斗は「修業の課題は終わったんだよね?」と星弥に聞くと、星弥は「ボス格のゴーストを退散できて満足か?次の出発地に行くまでに俺達は俺達で出来る御祓いを済ませた後に、次の修業の地へと向かおう。」と言い出すと侑斗は思わず「まだ修行は続くの!?」と言って項垂れるのだった。
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