多鯰ヶ池を後にした一同は、お昼の12時を回ったところで、次の湖山池に向かうまでに市内のレストランへと立ち寄ると、ランチを注文して休憩をとることにした。
「こんなところでもお洒落なランチプレートが楽しめるとは思ってもいなかった。お手頃な価格だし、これはありがたい。」
侑斗が財布の中身を確認しながらそう話すと、小田切がそんな侑斗を見て声をかけた。「せっかく佐賀から鳥取まで来てくれたんだ。ランチは俺のおごりで、たくさん食べてくれよ!饗庭は30歳前でお年頃だからそこそこにしておきな、後々ブクブクと肥え始めるよ、カウチポテト族と言われてもしょうがない見た目になるぞ。」
侑斗は小田切の発言が嬉しくて「やった!嬉しい!!お言葉に甘えて沢山食べちゃいます!!いっただきまーす!!」と満面の笑みで提供されたランチプレートのメインディッシュのチキンを美味しそうにしゃぶりつくと、その様子を見た星弥が小田切に「俺ね、部屋にトレーニングマシンがあるので、一応こう見えて腹筋バッキバキなんですけど、それでも太ると言うんですか。はっきり言って僕カウチポテト族でも何でもないですからね。」と突っ込むと、小田切は「警察官になってもまだ鍛えているんだ。俺なんかこの仕事柄だからね、鍛えないと怒られるからね。」と話すと、饗庭は「何を言うんですか。警察官だって護身術のためにも鍛えないといけないんです。」と答えるのだった。そんな時に二人はふと侑斗のほうをじっと見始めた。
小田切が「ロード・オブ・デブはひょっとすると侑斗君?」と小声で話すと、星弥は「ぬるま湯につかった楽な仕事なんでね、そりゃあ運動しなければブクブクと肥えていきますよ、ブヒブヒとね。」と話し始めると、二人のやり取りが聞こえたのが侑斗がたまらず声を上げた。
「あの、僕こう見えて朝晩のジョギングを欠かしていないし、歩いていけるようなところだったら車を使わないで徒歩20分の距離であろうが歩いて行ったりして、運動をしていなさそうに見えるんですけどでも実は運動はしているんです!」
侑斗が反論したところで小田切と星弥は「わかった、わかった。」といって話題を切り替えようとしたところで、これから向かう湖山池について話し始めた。
小田切が「湖山池の事なんだけど、饗庭は当初侑斗君が行っても大丈夫なところだと言っていたと思うけど、本当にいいのかどうか、間違っていないか確認を行いたいんだよ。」と話し始めると、星弥は「大丈夫だ。予め写真の霊視は行っているし、侑斗が対応する形でも問題はないと思う。ただ青島に行くまでが心配なところである。」と語ると、侑斗は「それって何?俺の練習課題なんでしょ?」と聞き出すと、星弥の口から湖山池がどうして心霊スポットになったのかの経緯を説明し始めた。
「2002年の3月23日に22歳の主婦の遺体が湖山池で浮かんでいるところを発見されたんだ。被害者の主婦と犯人は出会い系サイトを通して知り合いになりそこでトラブルになって殺害された。このトラブルにより被害者の主婦は3万円を騙し取られた。普通にごく平凡な主婦を過ごしていたらこんなトラブルに巻き込まれずに済んだだろうに、若くして結婚をした分、遊びたいと思った願望が招いたのかもしれない。湖山池ではその殺された主婦の霊が出るとされている。」
侑斗は星弥からその話を聞くと「えっ!?」と語った後、言葉を失いどうリアクションをすればいいのか悩んでしまった。
さらに小田切から湖山池に纏わる怖い話について説明がされた。
「湖山池には常に強風が吹いており、それは魔の風と呼ばれているらしい。風の威力は台風と間違えられるほどのもので、魔の風により無念にもこの世を去ってしまった魂が御霊となって現れるのではないかという話だ。その他にも、湖山池に浮かぶ青島では雨の降る夜に”牛鬼火”という人魂のようなものが現れるとも伝わっている。携帯の出会い系サイトで警察官だと偽り3万円を騙し取り、嘘だと気が付いた女性に問い詰められた結果殺害を犯した建設作業員の犯人に対する被害者の主婦の女性の犯人を憎む思いも彷徨っているかもしれない。饗庭はそんなことはやっていないよな?」
小田切にいきなり振られた星弥は小田切に「俺は警察官です。そんな見栄を張るためのくだらない嘘なんてつきません。そんなに怪しむなら警察手帳を見せますよ。」ときつい口調で言い放つと、小田切は「いやいや。嘘嘘!さっきのはジョークだよ!警察官なのはわかっている。」と話すと星弥は「冗談にしては人の心をズタズタにするようなことを言いましたよ。謝ってください。」と反論すると、小田切は不貞腐れる星弥を見て「さっきはきつい事を言った!ごめん!」といって謝罪し始めた。
ランチをたらふく食べ終えたところで、小田切が御会計を済ませ、次の目的地である湖山池へと向かって出発し始めた。
そして青島駐車場に車を停車させてから、徒歩で青島大橋を渡り始めると、侑斗は注意深く辺りを警戒しながら、霊視を行い始めるのだった
「志半ばで命を落とされた主婦の女性は今もなこの世に未練を残し、この地で彷徨い続けているのだろうか。自分の命を奪った犯人に対して憎き思いがあってもおかしくない。その思いが怨念と化して、周りに影響を与えている可能性もある。」
侑斗はそう思いながら青島大橋を渡っていく。
その後ろを心配そうに小田切と星弥が見守りながら歩いていく。
小田切は星弥に「なあ。本当に死体遺棄事件が起きたのに、殺された方の御霊が現れたりしたら、今の侑斗君の技量では対処しきれない。そのときは一体どうするんだ?饗庭が出てカバーでもするのか?」と聞き始めると、星弥は「いや。大丈夫です。殺された女性の御霊は手厚く供養され成仏しており、既に輪廻転生されています。怨霊と化している可能性は無いでしょう。」と答えると、小田切は「そう言える保証はあるのか?」と聞き出すと、自らの経験から得たことを語り始めた。
「昔、知り合いの霊能者の烏藤と、”慰霊の旅路”に投稿をしてくれたある社会人のユーザーさんから”油井グランドホテルことホテル活魚”に肝試ししたいって伺ったんです。たまたま東京に予定があって青森から来ていた烏藤と二人で心霊廃墟と化したホテル活魚に行った時に体感しました。殺された女子高生は、犯人たちに犯行の一部始終を見られたという理由で乱暴され無理矢理廃墟と化した油井グランドホテルへと連れてこられ、強姦された末に口封じのために電気コードで絞殺され殺害後、遺体を当時の厨房にそのままの状態で残っていた大型の冷蔵庫に入れられたという事件があったんです。ある霊能者は女子高生の御霊は手厚く供養されていると説明したうえで、ここには悪霊が棲んでいるため、人が近付いてはならないと警鐘を鳴らしていたが、俺はあれは違うと思いました。殺された女子高生は、顔見知りでもない男達に集団で暴行され、女性としては恥辱とも言うべき精神的にも肉体的にも苦痛を受けた末に殺害されたんです。たとえ手厚く供養されたとしても、何の落ち度もない被害者が犯人を憎む思いが憎悪と化し怨霊となっていると俺は感じました。あの殺された厨房に近づければ近付くほど、霊感のない人でもすさまじいほどの吐き気と頭痛と風邪でも引いたかと思うぐらいの悪寒に襲われます。あの地に訪れたときに、まず感じたのは言葉には言い尽くしがたいほどの、あのホテル内を彷徨う浮遊霊の数々と、女子高生の御霊を取り囲むようにして浮遊霊によるサークルが出来ていることに気が付いたんです。それだけではなかったんです。2階のある部屋は火事があった後が生々しい部屋が残っており、そこでも未成仏霊を確認しました。恐らくだがボヤがあり宿泊していた客の一人が、不運にもこの世を去ってしまったのだろうと思われます。あの地には殺された女子高生のほかに、宿泊客の無念もあの地ではずっと彷徨い続けているんです。たとえ永代的にあの地で祀ったとしても決してこの世に対する思いは拭えないものが大きすぎます。俺はあの現場を肌身で感じたから、わかるんです。湖山池は油井グランドホテルに匹敵するほど怨念には満ちていないということです。」
星弥がそう話すと、小田切は「じゃあどうしてそれがきっぱりと言える?」と聞き始めると、星弥は答えた。
「つい最近に烏藤たちと言った七ヶ宿ダムでも、今回の湖山池でも共通する点があるんです。それは顔見知りによるトラブルが事件の引き金になったということです。つまり被害者はいつ殺されるか分からないという恐怖の中で過ごした結果、殺されてしまったということです。俺がさっき言った殺された女子高生は何度も言うが、殺されるほどの理由がそもそも存在しないんです。”殺されるかもしれない”と思いながら殺されるのと、”殺されることはないだろう”と思っていたのに殺されたのとでは、後者のほうが圧倒的に未成仏霊と化す可能性は高いんです。俺が今まで見てきた殺人現場の跡地が心霊スポットと化したパターンで、出来れば油井グランドホテルも建物の崩壊の危機がなかったとしても、侑斗には近づいてほしくないと思っています。その他にも匹敵するスポットがあるのだが、あの時に目にした光景を思い出すだけで身震いが止まらなくなります。そこは触れないでおきたいです。」
星弥がそう切り出すと、小田切は「何だよ。勿体ぶらないで言いなよ。」と話すと星弥は「侑斗には黙っていてほしいんです。興味本位であっても調べるのは危険すぎます。」と話したうえで小田切にこっそりと話した。
「貝尾集落。」
星弥の答えを聞いた小田切はハッとなり、「そこは確かに侑斗君が仮に興味本位であったとしても危険極まりない。未だに殺された方々の無念の魂が彷徨っている場所でしょ。俺も一度は行ったことあるが、まず入った瞬間に感じた空気が息苦しいと感じるほどの重苦しさ。そして霊視を行い始めると何体もの未成仏霊を見てしまった。どれほど、この世に対して色々とやりたかったことがあっただろうにそれを無惨にも奪われた方々の気持ちは想像に絶する。」と話すと、星弥は「あそこは殺された方の数の数が数だけに、この世に対する無念と同時に自決した犯人に対して憎む思いを抱きながら今もなおあの地で彷徨い続けています。そして自決をした犯人でさえも、自らの罪の深さに苛まれ、ひっそりと自決を図った地で彷徨い続けているところを俺は見ました。限界集落が抱えるコミュニティの狭さが招いた事件と言ってもいいあの事件は無惨な死を遂げた被害者の悔しさも計り知れないが、精神的に追い詰められた末の凶行に陥った犯人の村に対する憤りの思いも同時に感じることが出来ました。実は言うとね、警察学校に通いながら、たまたま知った事件について我が目で見てみたいと思って行ったんです。”慰霊の旅路”に心霊写真を投稿するためではありませんよ。結構な山道で辿り着くのが本当に一苦労だったのを思い出します。」と語った。
星弥が話し出した話に小田切は「饗庭って本当に色んな、警察官になるまでに色んな現場を見てきたよな。俺はそれ以降凄惨な事件現場だと分かれば避けるようにしてきた。」と切り出すと、星弥は「まあ何度かはこれ以上深入りすると、自分の命さえ危ないと思ったことは多々ありますよ。それはやはり御霊達の心の叫びや訴えを聞くことが出来る我々だからこそ、我々を通してお亡くなりになられた方々が救済を求めて集まってくるのは致し方ありません。それこそが我々の霊能力者としての宿命なのだと思います。」と答えた。
二人がゆっくりと話し合っているうちに、侑斗は青島の遊歩道をゆっくりとした歩調で霊視を行いながら移動をしていく。
志摩を半周したところで、侑斗はあることに疑問を抱き星弥に質問をした。
「ねえ、兄ちゃん。殺された女性は果たして生きたまま池に投げ落とされたのか、遺体になってから投げ落とされたのかって分かる?」
侑斗の何気ない質問に星弥は「それは彷徨っているであろう殺された主婦の声に耳を傾けてごらん。教えてくれるかもしれないよ。」と話し答えると、侑斗なりの考えを話し始めるのだった。
「ここに殺された主婦の女性の怨念はない。橋のあたりから、ずっと青島を半周してきたが、ご遺体が発見されたのは恐らくここだろうと思われる場所は透視してすぐにわかったけど、だけど肝心の女性の御霊はここでは現れないことに気が付いた。女性はここで殺害されたのではない、他の場所で殺害され、遺体の処理に困った末にこの湖山池で遺棄されたのだろう。トラブルになった末の突発的な犯行で、入水自殺をしたと見せかけたい思惑もあったのだろう。だからあえてこの広い池を選んだ。しかし絞殺された痕跡から、自殺ではなく事件だと判明されると、殺された女性の携帯のメールなどの履歴からすぐにトラブルがあった痕跡を発見すると相手先である犯人の逮捕に踏み切ったという形だろう。女性は自分の命を奪った犯人に対して怨みの念は残していない。きっと残された家族に対して申し訳ないと思う自責の念がそうさせているのだろう。悪い事を犯したという自覚があるのかもしれない。だから”殺されてもしょうがないことをした”と女性は思っている。なのでこの地で殺された女性の御霊が現れる可能性は無いという事が言える。」
侑斗があっさりと、星弥が思っていたことを話し始めたので、星弥は「まさか。そこまで踏み切った話をしてくるとは、いや正直に思ってもいなかった。その通りだ。女性の霊は既に成仏されており、この地にいる御霊は何体かいらっしゃるが、どの御霊も浮遊霊でかつ成仏霊だ。魔の風と呼ばれる現象は恐らくだが、自然と一体化した御霊達が引き起こした現象の一つとも考えられる。すーっと水面を歩ていくのが、霊感のない人からすると、風もないのにあそこだけが強く吹いているとも見られてもしょうがない。だけど決して悪さを起こしてくるわけではない。命ある生きている我々を温かく見守り、そして出迎えてくれる。決して恐れる存在ではない。侑斗にはこれからもずっと、この世には身内じゃなくても見守って助けてくれる存在の”良い幽霊”がいるということを、この鳥取弾丸ツアーで学んでほしかった。無論鳥取の心霊スポットって、掲載されいているスポットを色々と検証したうえでどこがいいかなあって悩んだ末、凄く悩んだんだからね。」と語りだすと小田切はそんな星弥を見て、慰めたい一心で侑斗に説明をし始めた。
「鳥取は至って平和だよ。鳥取砂丘も心霊スポットの一つとして、2011年に成人男性と女性の遺骨が発見されたことがあげられていたがこれは調べたら事件性も無ければ、江戸時代から明治時代にお亡くなりになった方であろうとされている。理由は分かっていないが少なくとも殺人ではない、当時流行っていた不治の病によりお亡くなりになり遺体の処理に困った末に砂丘が選ばれたのだろう。他にも鳥取城跡などがあり豊臣秀吉による兵糧攻めにより多くの方々が飢えに苦しみながらこの世を去ったと伝えられるこの地も有名ではあるが、無念の死を遂げた城の関係者を手厚く祀っているうえに、今もなお怨む要素はこれといってない。本谷隧道での子供の声や男性の霊を見るという情報も他にあるのだが、これは恐らくだが霊感の強い人がたまたまこの地を通りかかった際に遭遇した、恐らくこれから昇天していく上で山に登ろうとして行く御霊を見た可能性がある。本谷隧道にはトンネル工事の際に事故も無ければ、開通してから今も語り継がれる凄惨な交通事故も起きていないため、やはり考えられるとしたらたまたま彷徨っていた浮遊霊を見て”心霊スポットだ”と思われた可能性があるという事だ。なので、星弥が悩んで選んだことは理解が出来るよ。次に行く島根でも、うーん。怖い!と思う場所はたかだか知れているしね。饗庭もきっと思い悩みながらチョイスをしたかもしれない。警察官である以上、不法侵入にも問われかねない心霊廃墟は避けたいというのもあるからね。」
小田切の話を聞いた侑斗はそれを聞くと愕然とした。
「何だよ!それじゃ何も車で何時間もかけてくる必要がなかったじゃないか。怖いと思う場所が無ければ、じゃあ俺が鳥取に来た目的って単純に訓練だけだった?」
侑斗は小田切にそう話しかけると、「その通りだよ。」と答えると、侑斗は思わず天を仰ぐとこう呟いた。「だったらもっと最初に言ってほしかった。俺は怖いと思いながら来たのに怖くないと知って拍子抜けしてしまったよ。」
そんな様子を見た小田切は侑斗に温かい言葉をかけた。
「まだまだ鍛錬をしなければいけないことは見ていて凄く感じた。鍛えなければいけないことはしっかりと鍛えて、これからも霊能者としての活動を続けてほしい。」
侑斗はその言葉を聞くと気持ちを切り替えて「ありがとうございます。」とお礼を言って、じっと黙り込んで二人のやり取りを聞いて居た星弥にも侑斗から「いつも気にかけてくれてありがとう。お兄ちゃん。まだまだ若葉マークは外せそうにないことは俺も認めるよ。」と声をかけると、星弥は照れ臭そうに笑うと「何だよ、分かっているんだったら、もう少し鍛えた姿を見せてほしかったよ!」といって笑うのだった。
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