【完結】慰霊の旅路~修業編~

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多鯰ヶ池(鳥取・鳥取市)

公開日時: 2021年11月7日(日) 20:28
文字数:6,956

百谷ダムを後にした一同は、多鯰ヶ池へと向かい移動し始めた。


移動中の車内で後部座席に座る侑斗は、スマートフォンを片手に多鯰ヶ池についてWikipediaに掲載されてある情報を読み始めた。


『多鯰ヶ池(種ヶ池、多祢ヶ池 たねがいけ)は、鳥取県鳥取市にある池である。


鳥取砂丘の背後に位置し、森に囲まれて透明度の高い水をたたえ、鳥取砂丘の起伏の大きな景色と好対照をなしている。

池の周囲3.4km、面積は24.8ha、最深部の水深は15.1mで、中国地方最深の池である。透明度は3-4mある。山地に面した南東側は湾入部の多い複雑な地形だが、砂丘に面した北西側は直線で、砂丘から急斜面で最深部に達している。夏季の灌漑用水路として利用されている湯山用水以外に流入河川も流出河川もない。池の周辺には多くの遺跡があり、古くから砂丘の休止期に先人が生活していたことが分かっている。多くの湖沼と同様に蛇伝説がある。

2001年、環境省によって日本の重要湿地500に選定された。


新生代第四紀更新世にあたる約10万年前頃に、背後の丘陵前面の浸食谷に古砂丘が発達、その上を約5万年前の大山火山の活動で噴出した大山倉吉軽石が覆って、水が浸透しなくなったことが成因とされている。海跡湖か堰止湖かで論議されたが、現在では山陰最古の堰止湖ということになっている。

北西部に位置する、弁財天を祀っている半島はかつては「大島」と呼ばれる湖沼内の島嶼であった(江戸時代の古地図等で確認できる)。それが砂丘の進出に伴い埋め立てられ、砂で陸続きとなった。他にも多鯰ヶ池には幾つかの島嶼の記録があるが、大部分は中央部に位置する暗礁であり、夏期などの大きな池面の減衰が起る期間に姿を見せる。冬期の増水期も池面から姿を覗かせているのは北東部に位置する通称「小島」であり、それがまさに蛇伝説の舞台となった縁のある島である。「小島」には、伝承通り一本の大きな樹木が生えている。』


(出典先:Wikipedia 多鯰ヶ池の記事の一部より抜粋)


侑斗が読み始めると、助手席で聞いて居た星弥が「大蛇が出るという伝説があるのも心霊現象の一つとして挙げられているな。近くの神社では2mを超える抜け殻が発見されたとも伝えられている。でも現実問題、そんな大蛇が池に棲みついていると思うか?」と侑斗に聞くと、侑斗は「いや、生息しているわけがないと思う。」と答えると、星弥は「あくまでも伝説の話にしか過ぎないからね。それに今回、真偽を確かめたい現象の一つとして挙げるのは、大蛇ではない。かつて鳥取第四十連隊があったときに、この付近で軍事訓練が行われたそうだが、その最中に集団溺死事故が起きたとも伝えられている。その話が伝わるようになってから、一人で行くと水の中に引きずり込まれるという話が広まった。そこで今回の課題だ。」と話すと、続けて小田切が多鯰ヶ池について話をし始めた。


「お種という名の美しい少女が白蛇となった白蛇伝説としても知られているが、池の周りにある森林では自殺や遺体遺棄などの事件もあったため、地元では不気味な場所として知られている。今のところ、自殺者の御霊を目撃したという話は出てはいないが、池に近づくと何かによって引きずり込まれるという話がある。それが果たして白蛇伝説のお種によるものなのか、自殺者の御霊によるものなのかは分かっていない。その他にも池でおぼれた女性の霊が現れるというのもある。でもやはり色々な心霊スポットのサイトを見ても、お種に纏わる伝説のほうが有名のようだ。”多鯰ヶ池のお種”という話があってね、お種さんが持ってくる美味しい柿の実を一体どこから持ってきているのか気になり後をついていくと、お種は白蛇が人間の女に化けた姿で柿の実は多鯰ヶ池の島にある柿の木から取ったものだった。正体を知られてしまったお種は以後現れることはなかったというのもある。」


その話を聞いた侑斗は「それぐらいなら、怖くないじゃないですか。それに集団で溺死事故があったら八甲田山と同じぐらいに有名な事件として報道されていてもおかしくないのに、報道されていないことから本当にあったのかどうか疑わしい。」と話すと、星弥は「さあな。」と語ると続けて小田切も「どうだろうね。」といって正確な答えを言おうともしなかった。


そんな二人の様子を見て、侑斗は声を上げて反論をした。


「俺だってこう見えて、兄ちゃんと同じ高校1年生の時から楠木先生の助手として訓練し始めて、除霊歴は5年だよ!にも関わらず、さっきの百谷ダムに続いて、無害な霊が彷徨う場所にまたしても”霊はいますか”と聞くのか。もうそのパターンだったら課題にも何にもならないじゃないか!」


侑斗の反論に星弥は「何を言うんだ。危険を顧みずに突撃しがちな侑斗にはぴったりの場所じゃないか。そんな侑斗に同情するかのように、本当に兵隊の霊を見てしまうかもしれないよ。」と笑いながら話すと、さらに侑斗は怒り始めた。


「あ~腹立つ!本当に腹立つ!!」


そんな侑斗の様子を見た星弥と小田切は笑いをこらえるのが必死だった。


星弥は自分の才能を信じてならない侑斗の姿を見て、こう切り出した。


「あくまでも、いるかいないかを見極めるだけに過ぎないからね。本当に御祓いが必要になればそれはその時でどうすべきか指導するよ。」


星弥がそう話すと、小田切は星弥にあることを聞き始めた。


「饗庭はどうして、”悪霊に取り憑かれるかもしれない”危険性のリスクを背負ってまで心霊スポットに行こうとするのか教えてほしい。」


そう訊ねられた星弥は小田切に淡々とした口調で答え始めた。


「Because it's there(=そこに”心霊スポットが”あるからだよ)」


星弥の答えに小田切は爆笑すると、侑斗は呆れた口調で突っ返した。


「兄ちゃん、今まで御祓いをしてきてそんなこと言ってきたことなんてないだろ!?ってかそれ、イギリスの登山家のジョージ・マロリーが”なぜあなたはエベレストに登りたかったのか?”と聞かれて答えた有名な言葉じゃないか!そんなに兄ちゃんにとって御祓いはデス・ゾーン(=人間が生存できないほど酸素濃度が低い高所の領域を指す登山用語)を登るに匹敵するほどの命がけな行為なのか?違うでしょ?そんな死ぬかもしれない思いで霊能者として対処なんてしていないでしょ!?」と突っ込むと、星弥は小田切に対して「本当にくだらないことで突っ込んでくるなあ。」と話すと、小田切は「二人のやり取りが本当に面白い。兄弟で漫才でも真剣に考えたらどうだ?」といって爆笑するのだった。


一同は弁天宮参詣者専用駐車場に車を駐車させてから、多鯰ヶ池弁天宮(お種弁天)へと足を運び参拝を済ませたところで、再び車で移動し、市営浜坂駐車場で車を駐車をしたところで、本題の多鯰ヶ池のほうへと向かって歩き始めた。


「まずは多鯰ヶ池自然探勝路へと行き、そこで多鯰ヶ池をゆっくりと探索を行いながら、鳥取第四十連隊があったときに起きたとされる、多鯰ヶ池での軍事訓練の最中で起こった集団溺死事故は果たして?というのを今回侑斗君には追求してほしい。池に引きずり込む者の正体は、亡くなった兵士たちの無念が招いているのか、それとも兵士ですらこの世のものではない”何か”の犠牲になったかもしれない。そう考えただけであ~背筋に寒気が走ってきた。大蛇が出るのはあくまでも伝説であるため、あくまでも検証してもらいたいのは、兵士の霊が果たして現在もなお彷徨っているのかと、あと言っていなかったが戦前までは水葬が行われていたために、水へ引きずり込む者の正体は死者ではないかというのもあるんだよ。」


小田切が優しい語り口調で侑斗に説明すると、侑斗はこう切り出した。


「小田切さん。もう答えは分かっているんです。ここは無害です!」


侑斗が若干キレながら話すと、後ろを歩いていた星弥が侑斗に指摘した。


「侑斗、ご年配の方に対してその態度はないぞ。失礼だぞ。」


星弥が侑斗に対して指摘をすると、その言葉を聞いた小田切が激怒した。


「俺はまだご年配じゃない!!」


ワイワイと賑やかなムードで散策しているうちに、あっという間に多鯰ヶ池をゆっくりと眺めることが出来るところにまで到着すると一同は立ち止り霊視を行い始めた。


じっくりと警戒深く辺りを見回すこと5分ほど経過したところで、一同は他の観光客の邪魔にならないような場所に移動してから議論をすることにした。


星弥が侑斗に「侑斗の見解はどうだったかな?教えてほしいなあ。」と聞くと、続けて小田切が「死んだ兵士たちが助けを求めるかのように、池にいる人たちに対して助けの声を上げるらしい。それが心霊現象として伝わっている”耳元で複数の人の話し声が聞こえる”というのもあるのだが、侑斗君にはそれは聞こえたのかな?またその他にも一人で多鯰ヶ池を訪れたときに生じるとされる池の中に引っ張られて溺れてしまうという一説も実際のところは何がそうさせているのか、それも合わせて教えてほしい。」と聞き出し、二人の質問に対して侑斗は同時に答えるような形で自分なりの見解を話し始めた。


「噂されている鳥取第四十連隊による集団での溺死事故はデマです。これは僕の思い込みではなく紛れもなくデマです。実際に多鯰ヶ池を霊視し、さらに透視を行った結果ですが、仰る通りに過去に水難事故は実際にあったと思われます。ただ、死亡事故に至ったかどうかは疑わしい面があります。池の周辺には水難事故による犠牲者ではない既に成仏されている浮遊霊が何体か水面に浮き上がっているのは確認が取れました。しかしこの世の者を引きずるこむほどのパワーは存在しないと思います。よって僕の見解としては、この地に訪れても何ら問題はないという事です。物々しい雰囲気はあの湖の真ん中に生えている樹がやはりどこかしら”何かが潜んでいる”と思われがちですが、そういった思い込みが都市伝説を生み出した背景にあるのだと僕は感じました。以上です!」


侑斗の導き出した答えに星弥が早速質問した。


「はい!質問です!実際に心霊現象を体験した人の中に”複数の人の声を聞いた”という証言もあるが、それはどう説明するんだ?侑斗の先程の説明では、死者は出ていない、それならばこの”声が聞こえる謎”について言及をしていないように俺は聞いていて思ったよ。そして水葬された方々が生者に対して襲ってくる可能性についても触れられていない、その理由についてもしっかりと話をするべきなんじゃないかな。」


星弥の問いかけに、侑斗は「そっ、それは・・・え~っと、え~っとね。」と話すと再び多鯰ヶ池の近くにまで足を運び再び霊視を行うのだった。


「分からなかったのかよ!」


星弥が思わず突っ込むと、小田切が星弥に「まだまだ若葉マークは外せそうにないなあ。あの状態じゃ、思い込みだけで詮索しかねない。」と話すと、星弥は「すみません。侑斗はああいう奴なんです。霊能力が高いのは認めますが、ただいかんせん向こう見ずで思い切った行動をしがちなんです。周りが見えなくなって、冷静な対応が出来なくなる時があるんです。だからあえて危険ではないと判断したところで今回行ったんですけどね。正直言って僕は侑斗が霊能者としてこれからも活動を続けるのは気掛かりでなりません。本当に死ぬんじゃないかと思うことは多々あります。侑斗はそんな僕の心配を気にもしないで、率直に感じた事を危険を顧みずにやってしまうんです。死にかけたことだって侑斗は小っちゃい時から何度もありました。僕よりも救急車で運ばれていると思います。僕はパトカーで運ばれたことはありましたけどね。そんなことはさておき、小田切さん的には今の侑斗を見ていて、霊能者としての活動を続けるべきか否か、素直な意見を聞かせてほしいんです。」


星弥の質問に、小田切が「うーん。」と深く悩んだ末、考えたことを説明した。


「侑斗君はまだ若い。若いから色んなことに対して果敢に挑戦していこうとする姿勢は俺も見て感じた。でも例えば、それが危険ですとか、これは大丈夫ですとかって人間経験をしてみて”危ない”と分かれば、同じことはしないように学習をする生き物じゃないか。侑斗君だって、ちゃんと国立の大学に合格して、公務員試験にも合格して小城市役所職員でしょ。しっかりとした肩書があるんだし、それに馬鹿じゃない。ちゃんとこれ以上踏み入れたら危険だと分かるデス・ゾーンぐらいは分かるはずだ。もう少し饗庭だって、肩の力を抜いて侑斗君のことを先輩霊能者として見守るべきなんじゃないかな。誰だって失敗するし、失敗を糧に経験を積んでゆく人だっているんだから、失敗をしない人なんて俺はこの業界にいないと思うよ。饗庭だって危険なリスクを背負うようなことがあれば避けてきただろ、でもそれを侑斗君は真正面に立ち向かって挑んできたことは俺は褒めてあげたいと思うよ。」


小田切の答えに星弥は「仰っていることは非常によくわかります。僕が心配性なだけかもしれません。馬鹿じゃないのは僕だってわかることです。侑斗は侑斗なりの持論を持っていますし、僕が一番気にし過ぎたのかもしれません。」と話すと、そんな星弥の様子を見て小田切がこう切り出した。


「警察官になってより一層人の死を間近で見るようになって、大切な人がいる有難さというのを痛感するようになって、心配で心配でたまらなくなるんだろ。饗庭には遙ちゃんのことがあったから、たった一人しかいない弟のことが気がかりでしょうがないんだろ。俺だってこの仕事でたくさんの人たちの生と死を間近で見てきて助けられず辛いと思ったことは数えきれないほどある。でも、気持ちを切り替えないとどうしようもないときだってある。それは饗庭でもわかることでしょ。沢山の事件や交通事故の現場を見てきて、警察官としての立場ではなく人間として見ていて言葉を失ってしまうような現場は色々と経験しているはずだ。因みに俺はそんな現場を見てきたからかやはり人の死に関してシビアに感じてしまうことはあるけどね。火災現場で助けられるかもしれないと思って倒れていた人の近くに寄った際に、その人が既に肉体から魂が抜けようとしていた。何としてでも救いたい一心で救急車で病院にその人は搬送されたが治療の甲斐も虚しく、お亡くなりになられた。きっとあの瞬間に幽体離脱して、魂だけがあの世に行ってしまい、三途の川を渡ってしまったのかもしれない。そんな時に例えば、映画のインシディアスシリーズに出てくる霊能者のエリーズのような自身に催眠術を掛けることであの世とこの世を行き来することが出来る才能があれば、救える命があったはずって思うことは色々とあるよ。」


小田切の話に星弥は深く頷くと「俺だって、小田切さんと同じ現象は何回か見てきた。特に覚えているのがある。酷い事故現場だった、右折しようとした車がスピードを出して赤信号を直進してきた車と正面衝突してね、そのはずみで運悪く車が勢いよく横断歩道のところにまで弾かれると、たまたま横断歩道が青信号で渡っていた歩行者に対して突っ込んできたんだ。俺達が駆けつけたときには既に歩行者は意識を失っており、救急車の担架に乗せて運ばれる時に見たんだ。肉体から魂が抜ける瞬間をね。その時にもう駄目だと思った、せめて心の中で”三途の川は渡らないでほしい”とお願いをしたか、しかし願いは届かなかった。お亡くなりになってしまった。はっきり言うけど、俺だってエリーズのような才能があれば欲しいもん!どうやって訓練しましたかって聞きたいぐらいだよ!あの才能は霊能者が皆憧れるものだよ!」と話すと、侑斗が小田切と星弥のところに戻ってきたのだった。


侑斗は二人の前に立つと自分なりの見解を発表し始めた。


「恐らくですが多鯰ヶ池弁天宮が一時期に綺麗に整備されていなかった時期があったと思われます。そんな時に訪れた人が聞いたのだと思います。この神社には、伝説のお種さんを祀るのは勿論のことやはり水難事故で犠牲になられた方の魂を供養するための場所だと思います。汚くなっていく様を見て、供養されている御霊達が声を上げて”綺麗にしてほしい”と訴えた可能性があります。水葬で祀られた方々の魂も彷徨っていないか検証を行いましたが、僕が見た限りではたとえこの地で葬られたとしても強い怨恨を遺していないことが分かりました。成仏されていますので、危害を及ぼすことはないというのが僕なりの見解です。」


侑斗が淡々と話す内容に星弥は訊いて安心すると、隣でじっくりと聞いていた小田切も星弥のほうを見ながら「深く心配することはないと思うよ。まだまだ経験を積まなければいけないことが沢山ある。課題は山積だな。」と話すと星弥は侑斗を見て笑顔で「大正解!その通りだよ!」と話すと拍手で温かく出迎えた。


そんな星弥を見た侑斗は照れながら「あっ、ありがとう。何だか嬉しい。」と言葉少なげに語ると、小田切が「多鯰ヶ池の課題を終えたので、次の湖山池にある青島に向かって出発をしよう。」と切り出すと、侑斗は笑いながら「はい!」と返事をして多鯰ヶ池を後にすることにした。

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