【完結】慰霊の旅路~修業編~

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コツコツトンネル/久峰隧道(宮崎・宮崎市)

公開日時: 2021年10月21日(木) 08:45
文字数:6,792

久しぶりに”慰霊の旅路”に書き込まれた内容を見た侑斗は、どう返事をするべきかと悩んだ末に、メッセージを投稿してくれた綿ポポさんに返事をすることにした。


「たとえ、廃墟になって人の出入りが自由になったとは言えども、公共の建物でも何でもない。所有者がまだ存在しているような廃墟での心霊現象の真偽を確かめるような場所での霊能力者としての立ち合いは行いたくない。申し訳ないが、肝試しをしたいのであれば、他人様の迷惑を掛けない場所で行うべきです。」


侑斗が綿ポポさんに返事を送ると、自身への御祓いを行ってから、宮崎市内にある久峰隧道へと向かい始めた。途中で立ち寄ったコンビニでおにぎりなどを購入すると、食べながら久峰隧道について調べ始める。


『コツコツトンネルは、宮崎県宮崎市(旧佐土原町)下那珂の国道10号線沿いにあるトンネルの通称。正式名称は久峰隧道(ひさみねずいどう)。

山中にある直線のトンネルで、全長73m、幅5.6m、高さ3.5mで、1962年に竣工した。交通量は比較的多い。』


(出典先:Wikipedia コツコツトンネルの記事を引用)


侑斗がゆっくりとWikipediaに記載された内容を読み始めると、この地で心霊現象ではなかろうかと思われる出来事などを、様々なWEBサイトに記載されてある情報から、検証をしてみることにした。


「コツコツトンネル内でクラクションを3回鳴らすと、コツコツとハイヒールで歩く音が聞こえてくる、同様にコツコツトンネル内で3回クラクションを鳴らすとコツコツと車の窓を叩かれる、女性の霊が現れる、車の窓に手形がついている、トンネルの付近にはかつて防空壕、火葬場跡、戦時中の死体置き場があった。」


「トンネルの中で車のクラクションを3回鳴らすと女性の霊が現れる、コツコツと歩く音が近付いてくる、車の窓が手形だらけで洗っても汚れが落ちない。」


「トンネル内部でクラクションを3回鳴らすと”コツコツ”と足音が聞こえてくる。車の窓が手形だらけになってしまい、洗ってもついてしまった手形は落ちない。トンネルの上がかつて死体置き場だった、戦時中には防空壕が多数あったことも関係して、骸骨が大量に出てくるという噂もある。」


「トンネル内でクラクションを3回鳴らすと女性の霊が現れ、ハイヒールで歩く音がコツコツと聞こえてくる。」


全ての内容を読み終えた侑斗はある可能性を考え付いた。


「クラクションを3回鳴らすと、ハイヒールを履いた女性の霊が現れるということだろう。だとしたら、この噂で伝えたいことは、かつてこの地でクラクションを3回鳴らされた後にひき逃げされ命を落とした女性がいたとでもいうのだろうか。だとしたらおかしい。トンネルの街灯も何もない、夜道になれば真っ暗になるこのトンネルで女性がたった一人で歩いているというのは実に不自然だ。かたや車の窓に手形がつくということは、驚いて現れた複数の御霊によるものだとしても、この地が事故の名所でも何でもなければ非常に考えにくいことだ。兄ちゃんが霊視してみた写真は、この地で無念の死を遂げた女性などではなく、浮遊霊の可能性が十分考えられる。でもそれだとしたら、写真で映し出されてあったとしても、既に成仏をしている霊だから自然と一体化をした状態で映っているはずだろう。それぐらい、兄ちゃんだってわかるはずだ。それをあえて俺の修業の課題として与えたのは、心霊スポットとしての真偽を確かめてこいとでも言いたかったのだろうか。少なくともクラクションを3回鳴らしてしまえば近所迷惑にもなりかねない、通報されるようなリスクがあるようなことは避けたい。霊視を行い、何事も無ければ”デマです”と言って終えればいい。」


そう思った侑斗は、おにぎりを食べ終えてから、コツコツトンネルへとむけて出発し始めた。走ること、20分ほどが経過してようやく”久峰隧道”と書かれたトンネルの前まで辿り着くと、安全に停車が出来る場所に車を停車させてから、トンネルの付近まで徒歩で向かい、深く深呼吸をした後に気を集中し精神統一を行ってから霊視と透視を同時進行に行い始めた。


すると、侑斗の頭の中である映像が浮かび上がってきた。


「戦時中、ここは特に防空壕があり沢山の方々のご遺体がこの地で安置されたとかその可能性は無いだろう。生い茂る木々が傍から見ると物騒に見えてならないために、悪いイメージが付きまとってしまったのだろう。戦時中の防空壕だったという話や遺体置き場、火葬場跡だったという話はデマだったという事が分る。そして残るはトンネルだ。このトンネルを工事をしているときから遡ってみても、難工事ではなかったために死者も出てはいないようだ、またトンネルが出来てからの悲惨な事故が遭ったのかどうかも含めてみると、仮にトンネル内をハイヒールを履いた女性がコツコツと歩く足音に気付かず車がクラクションを3回鳴らしてもなお気付かずに女性を避けることが出来ずに撥ねてしまった。いやそれにしても、おかしい。例えばプリウスのようなエンジン音が静かすぎてイヤホンなり、音楽やラジオを聞いていたら後ろから車が近付いていることにすら気づかず、ドライバーが3回鳴らしたクラクションの音にも気づかずに車に撥ねられたというのであれば、この都市伝説が広まり始めたのは最近になってからということになる。つまりハイヒール姿の女性の話というのは、この上の木々の不気味に生い茂るその様と、クラクションを3回鳴らしたことにより大量の手形がつく、コツコツと歩く音がするというのは、現代における都市伝説の一つにしか過ぎなかったということだろう。女性の無念の魂が見えるかと思いきや残念ながら、俺が見る限りでは山があるだけに、お亡くなりになられた御霊達が天国へ昇天するためにトンネルの山の高さを利用し天へ天へと登っていくための旅路の途中の浮遊霊が何体も見受けられる。至って無害だろう。この地で死んだわけではないからね。御祓いする必要性も無ければ、事故死をした女性もいない。兄ちゃんには、心霊スポットとしての真偽を疑ったほうが良いだろうと言って報告しておくか。」


侑斗がそう思いながら、星弥に連絡を取り始めるが、忙しかったのかすぐに電話には出てこなかった。


「兄ちゃん、忙しいのかな。」


そう思いながら、”慰霊の旅路”の公式Instagramで、再び綿ポポさんから新たなメッセージがあることに気が付き、侑斗はログインすると、綿ポポさんからのメッセージを読み始めることにした。


”北斗さんへ 忙しいのに返事をしてくださってありがとうございます。イノチャン山荘での案件については、わたしを含め大学の心霊サークルで是非とも真偽を確かめたい事案でもありますので、どうしてもどうしても諦めたくないんです。社会人になれば、お互いがバラバラの道を進むことになり、楽しくワイワイと一緒にサークル活動を過ごす時間も知れてくるので、北斗さん。無理を承知ですが、どうしてもどうしても、イノチャン山荘に行きたいんです。北斗さんに依頼をするわけでもありますから御祓いのためのお金だって払える用意はあります。何とかしてもらえませんか。”


侑斗はその内容を読むと、すぐ綿ポポさんに返事をした。


”メッセージにも伝えましたが、その土地には所有者がいて、入るためにはその所有者の許可が必要になってきます。それがなければ、不法侵入という罪に問われます。僕が調べた限りではかつて結婚式にも使われたことがある山荘だったようですが、解体工事の途中に何かしらの理由があって、途中で放置されて終わってしまったようです。その過程から派生した、悪い噂こそが都市伝説となって世に伝わってしまったのでしょう。現にイノチャン山荘で殺人事件などは発生していません。本当に心霊現象の真偽を確かめたいのであれば、不法侵入にもならず、かたや鉄道の路線の近くの場合だと威力業務妨害罪(=駅員の制止を振り払う、或いは警告を受けてもなお退去せずに線路内に立ち入ったことにより、往来する列車の正常な運行を妨げ遅延や運休を生じたりさせた場合に罪に問われる)に問われ、幽霊よりも怖い刑罰を受けなくてはいけない可能性があります。綿ポポさんはそれでも行きたいというのなら、もう少し冷静になりこんなくだらないことで犯罪者になるよりも、もっと自由に出入りが出来るような場所をチョイスするべきだと思います。僕はイノチャン山荘はおすすめしません。波多氏の無念が残る岸岳城跡や千人塚のようなかつての処刑場の跡地に行くというのもお勧めだと思いますので、そういう場所も選んでみてはいかがですか。”


侑斗がそう返すと、暫くの間、コツコツトンネルの前でただ車が通り過ぎるのをぼんやりと眺めているのだった。


ただやはり至って普通のトンネルであった。


「新しくトンネルの壁が舗装されているのはいい。ただ照明をつけてくれ。夜中は真っ暗になるだろ。もっとお金をかけるべき場所が違っていないか、宮崎市!!」


やはり行政に対して怒りを感じざるを得なかった。


そんなさなかに、星弥から折り返しの連絡がかかってきた。


「あっ、もしもし兄ちゃん。今ね、コツコツトンネル、え~っとね久峰隧道のところまで来たんだけどさ、死んで間もない浮遊霊は複数確認は取れた。ただこのトンネルで事故死をした女性は現れない。トンネル内でクラクション3回鳴らすようなことは下手すると通報されかねない、出来ないので仕方なく霊視と透視を行ったんだけどやはり、ハイヒール姿の女性の霊などは現れない。トンネルの上にあるとされる防空壕や火葬場跡、死体置き場があったというのもデマに違いない。」


侑斗の答えに星弥がある可能性を示唆した。


「その女性は事故死ではないだろう。」


星弥の答えに侑斗は再度聞き返した。


「えっ?それって何?」


侑斗の質問に星弥は答え始めた。


「コツコツトンネルの周りは山だろう。仮にハイヒールを履いた女性がこの道を歩いていたところで車にはねられたとする設定にはそもそも無理がある。果たしてこんな山道をヒールの高い靴で歩く理由が分からない。住宅街からも離れたこの地で、時間帯によっては人目につかない場所ならではで出来ることがあるだろう?それは思いつかなかったのか?」


星弥の質問に侑斗が「あっ!」となった。


「そうか。首吊り自殺か!」


侑斗の答えに星弥は頷くと「そうだ。その可能性が十分に考えられる。思い入れのある衣装と、思い入れのあるハイヒールでこの地を訪れた女性が、トンネルの上にある森で恐らく首をつって自殺を図ったと思われる。この地に死体があったと伝わっているのは恐らく、自殺を図った女性の御遺体が見つかったことから派生して、事実とは異なる形で世に伝わってしまったのだろう。ただ、その女性は既に成仏をしている。死に衣装ともいうべきこの衣装を身に纏った状態で、女性は昇天することが出来て満足だったのだろう。現れたとしたらそれは、トンネルからのクラクションの音に驚いて現れた、或いは浮遊霊となった後にお気に入りの衣装を人に見せびらかしたい思いから、トンネルまでやって来て可視化した状態で現れているだけなのかもしれない。女性は禍は齎すことはないだろうが、今もこの地で彷徨っているのならば、女性の供養を行ってから、佐賀に帰ってくるといいだろう。ゴールデンウィークに入れば、二人でゆっくりと、あっ、そうそう支倉とも一緒に旅行に行くんだけどね、せっかくだから3人で東北巡りでもしようかなあって思っているんだよ。侑斗だって初の東北地方、行きたいだろ?俺は盛岡とか、青森に行って見たい。」と語ると、侑斗は胸を躍らせながら「うん!行きたい!盛岡冷麺とか、津軽リンゴとか、食べたいし楽しみたい!!」と満面の笑みで語りだすと、星弥は笑った。


「本当に食い物の話題だけだな。」


星弥の指摘に侑斗は「何だよ。九州にいたら絶対に食べられないものじゃないか。東北だからこそできることをしてから九州に帰りたい。支倉さんが那覇駐屯地に異動してからは会うのは久しぶりだなあ。何を話そうかなあ、うわー楽しみだー。」と言い出すと、星弥の話はさらに続く。


「あとね、まだOKの返事は来ていないんだけどね、ダイビング仲間の吉原も誘っているんだよ。ゴールデンウィークの休みの日取りがまだ決まっていない云々でまだ吉原も参加をするかしないか思い悩んでいるみたいだけどね。」


星弥の話に「えっ、吉原さんも!?参加してくれたらめっちゃ嬉しい!色んな人から社会人祝いでも貰おうかな~!」とにやけながら言うと、星弥は「支倉と吉原が侑斗に”社会人おめでとう”って言ってお祝いをしたら、俺もお祝いをしなければいけなくなってくるじゃないか!だいたいこうして侑斗の霊能力者としての修業に付き合っているだけでも結構な投資だと思ってもらいたいぐらいだよ!」と言い始めると、侑斗は「兄ちゃん、そこは可愛い弟のためだと思ってよ!」と笑いながら語ると、星弥は「ちっとも可愛くねえよ!」と突っ返したときに、侑斗の背後から不気味な足音が聞こえ始めてきた。


コツコツコツコツコツ・・・・。


その音は、電話口でも聞こえてきたようで、星弥も違和感に気が付き始めた。


「来た。近づいてくる。警戒をしなさい。」


星弥が侑斗に語ると、侑斗は「ああ。気づいているよ。俺の背後から、赤いワンピースの赤いハイヒール姿の、セミロングヘアーの若い女性が段々と近付いてくる。」と語ると、星弥は「それこそが、コツコツトンネルの正体だ。」と語ると、侑斗は足音が聞こえてくる方向へと振り返る。


女性は気付かれたと思い、立ち止まると、侑斗はさらに女性の近くへと近付いた。


「あなたはかつてこのトンネルの上にある森で首吊り自殺を図り、お亡くなりになられたんですよね。お気に入りの衣装で、天国へと旅立つことが出来たあなたにはもうこの世への心残りはなかったんですよね。しかしそれでも、生前に気に入って大事にしていた宝物ともいうべき貴女が身に着けている衣装だけは誰かに見せたかった。そんな思いで、トンネルに現れたんですよね。ハイヒールで歩く音の、コツコツコツコツとね。驚いたドライバーを見ては、自分の衣装を見てもらいたかったがために現れたのに、怖いと思って逃げ出されるようなことをしてしまったと思い、あなたは深く反省し、二度と姿を現すまいと思った。しかし僕の前に現れたのは、僕があなたの存在に気が付いたから。それだけですよね。トンネルの上であなたは、僕が持つ霊能力の強さに、霊能力者であると勘づいた。僕がどう動くのかを注意深く観察を行ってから、救いを求めるためにあなたは僕の前に現れた。そうですよね。本当はそんなつもりで、現れたわけではないと、伝えてほしい。あなたは訴えているんですよね。」


侑斗が優しい口調で語りだすと、女性は頷き、頭を何度も振った。


その様子を見た侑斗はこう語った。


「もうこの世への思いは忘れ去ったほうがいい。天国で思いっきり、あなたが大切にしていた今着用されているこの衣装を自慢されたほうがいいと思います。あなたは既に成仏されていますし、もっと今着ている衣装で褒められたいと思ったことがあったのが心残りの一つだったんですよね。あなたが満足するまで僕は言いましょう。」


侑斗が女性の御霊に話すと大きな声で語りだした。


「あなたの着ている衣装は、あなたにしか着こなすことが出来ません!とても綺麗だ!美しすぎる!!」


侑斗の褒め過ぎるともいうべき誉め言葉に、女性は嬉しくなって満面の笑みとなって淡い光となって、空へ高く高く舞い上がっていった。その様子を見た侑斗は「天国でも気に入られるよ。どうか自信を持って、輪廻転生をしてほしい。そればかりだ。」と語った後、天に向かって深く手を拝み始めるのだった。


そして、コツコツトンネルを出発するまでに自身の御祓いを済ませてから、後にしようとした時の事だった。”慰霊の旅路”に投稿をしてくれた綿ポポさんから再びメッセージが届いていた。


”デマであろうと、私達にはやはりあの施設には何かあると思っているんです。警察にバレなければ済む話じゃないですか。そこを何とかしていただけませんか。私達は警察に賄賂を払ってでもあの土地に勝手に入ってはいけないのでしょうか。何とか北斗さんの霊能力者立会いの下で、私達はイノチャン山荘の真実を知りたいです。お願いです。どうしてもどうしても行きたいんです。”


懇願ともいうべき内容に、侑斗は困り果てた。


「ハハハ。賄賂って!れっきとした地方公務員だし、アフリカや中南米の貧しい国の警察官とは違い賄賂は受け取れんよ。」


冷静になって突っ込みながらも、やはりどう対処するべきか考え始めた。

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