長年男鹿市で抱え続けてきた男鹿プリンスホテルの解体にこぎつけることが出来た星弥と侑斗は、少しずつだが近隣住民の解体工事を強く望む心霊廃墟の解体に貢献が出来たと思うと、”これもある意味で人助けをしたのかもしれない”と実感が湧いてくるのであった。解体工事における予算上の問題をクリアできたとは言い切れないが、侑斗にとっては少しでも心霊廃墟が自分たちの活動を見て、解体をしてくれるように動いてほしいとばかり強く願うばかりの日々であった。
そして侑斗と星弥、烏藤の3人で対応した男鹿プリンスホテルでの除霊の様子を心霊特番で全国ネットで放送される7月21日月曜日の夜19時過ぎの事だった。侑斗の住む小城市内のマンションにて、仕事終わりの星弥が番組の放送時間に合わせてやってくると、兄弟二人仲良く並んで見ていた。
「あ~あ、やっぱり烏藤さんと兄ちゃんの活躍ばかりがかっこよく映っているじゃないか。これじゃあ俺なんて最期の地化の浴場に現れた男性の御霊を、烏藤さんと兄ちゃんが”あっ、どうぞどうぞ”とばかりに譲ってもらって除霊をすることが出来たみたいで、何かしっくりこないんだけどなあ。こんなんじゃあ、兄ちゃんや烏藤さんに仕事の依頼が多く舞い込んできそうな気がして、腑に落ちない。」
侑斗が納得しない表情で文句を言い始めると、星弥が慰めるように話し始めた。
「大丈夫だって、侑斗でもほら、俺の助手としてしっかりと紹介されているんだから俺が忙しくなって猫の手も借りたい状態になればそれこそ活躍の機会が増えてくるじゃないか。所詮ボランティアだし、侑斗みたいに週末霊能者になれるかって言ったらそういうわけじゃないから、やっぱりね、しっかりと土日の休みが保証してもらえる侑斗のような仕事が一番TV番組だったり、或いはYouTuberが喜んでボランティアの依頼のオファーをしてくるんじゃないかな。だって、俺みたいな仕事をしてたらさ不定休だし、確実に休みが取れる日ってないじゃん。次の非番が順番で決まってくるわけだしね。まあ、好きでやっているわけでも何でもないんだけどね。」
星弥がそう語ると、侑斗は「それならどうして、ボランティアの霊能者を続けているのか理由を教えてほしい。今の警察官としての仕事を専念したいのであれば、何も続ける必要も無いのにどうして続投しようとしたのか。ずっと気になっていたけど、続けたくないのならいつだって辞めてもいいんじゃないのか?」と訊ねると、星弥は考えた末に自分なりの結論を答え始めた。
「やる人がいないからしょうがない。霊能者を本業としてやるにしても”目に見えぬもの”を物理や化学などで科学的根拠のないものとしてこの世の中で実証されている以上、生業にするにしても”目に見えないものなので金銭は一切受け取らない”スタンスを貫かなければいけない、儲からなくとも霊能活動を続ける人で今後もやっていかないと、この国に霊能者がいなくなってしまう日も近くなる。そうなってくると、本当に霊障で困っている人の相談をする場が無くなってしまう。この活動を続けることで少しでも、本当に困っている人達のための助けになりたい。」
星弥が説明した話に、侑斗は「そっ、そうだよね。やる人がいないから仕方がないよね。」と頷きながらパソコンをチェックし始めると星弥に「あれ、”慰霊の旅路”に新規の投稿があったとメッセージ音が鳴ったよ。早速チェックをしてみようか?」と聞き始めると、星弥は「内容確認して。」と侑斗に話すと、侑斗は「わかったよ。早速チェックしてみるね。」と言って”慰霊の旅路”の管理者のページから投稿されたばかりのメッセージを読み始めることにした。
『はじめまして。清水と言います。テレビで放送された心霊特番を見ました。ボランティアで霊能活動をされていると聞いて、またその地で起こるとされる霊障のことについても詳しく説明をされているのが非常に印象に残ったのを今でも覚えております。わたしの地元は長野の北佐久郡御代田町にあるコテージを経営していますが、8月が近付くにつれ心霊スポットとして知られている”軽井沢大橋”に若者が集まって肝試しをする時期がやってくると、その都度憂鬱な気持ちになります。何故かと言いますと、ルールを守らない若者たちがあまりにも多すぎるためです。車で来た際に、駐停車禁止と書かれてあるにも関わらず車を堂々と駐車をしていたり、或いは車の中で飲んだり食べたりしたものをそのままごみ箱のように捨てたりする人が多いからです。それだけが理由で投稿をしたわけではありませんが、あの地は心霊スポットとして取り上げるには危険があると思います。これまでに数々の自殺があったことは事実ですが、そういった場所だけに”霊が出てくる”ことを理由に近隣住民の迷惑にもなりかねない悪ふざけをやめて頂きたいというのもありますが、同時にあの地に霊がいないということも含めて証明をして頂きたいです。橋を渡った先にはかつて鳥居がありましたが現在は撤去されて祠だけになっています。そこで、この地で自らの命を絶った自殺者の霊魂を供養しています。霊が出てこないことが証明できれば、少しでも観光目的で来て頂ける方が増えてほしい一心で投稿しました。心霊検証の程宜しくお願いします。長文失礼しました。』
侑斗が読み上げた内容に、星弥はタブレットのアプリにあるGoogleマップのストリートビューで「軽井沢大橋」と検索して調べながら侑斗に答えた。
「投稿したその清水さんって人に伝えてほしい。今ストリートビューを見ているんだけどね、不自然なんだよ。どうしてこんなところにモザイクがというところに、橋の欄干だったり、自殺対策のための有刺鉄線は何かあったのか途中で切断されているし手形のようなものが見受けられる。モザイクは恐らくだがGoogleのAIが画像処理を行う際に人の顔があると自動的に判断してモザイク処理を施したのだろうが、それだとしたらこんな宙ぶらりんになるような場所に人の顔が写し出されるなんてことは常識的に考えてもおかしい。ドラえもんの道具のタケコプターでも使わないとね。」
星弥がそう話すと、侑斗は「えっ!?嘘!?」と話した後に、Googleマップのストリートビューで確認を行うと、言葉を失い頭を抱えて考え込んでしまった。
星弥は侑斗に「心霊目的で訪れる若者に対して、缶やペットボトルなどのゴミを捨てない、騒音問題になるようなことはしない等のルールを守ったうえでの観光をしなさいと訴えることはできるが、残念ながら霊の存在を否定することはできない。ここは間違いなく自殺者の御霊で彷徨っていることは間違いない。これはきっと、多分凄いことになるだろうな。軽井沢大橋の下を流れる湯川から眺めた写真なども霊視をしたけど、想像以上に未成仏の霊が彷徨っている。行けば大変なことになるだろう。」と話し、侑斗も「ああ。霊視を行う限りでは、数千は超えるだろう霊があちこちにいるのは見ていてわかった。」と話し、星弥は「どうする?依頼?まさかと思うが、霊がいないことを証明するために行くつもりじゃないよな?」と侑斗に聞くと、侑斗は星弥に思いもしない言葉をかけるのだった。
「引き受ける。困っている人がいる以上力にならなければいけない。」
侑斗の答えに星弥は「霊がいないことを証明する目的が、侑斗のような霊能者が行けば侑斗の持つ霊的エネルギーの強さがゆえに引き寄せて益々霊がいるということを照明しかねない。断るなら今だぞ。」と助言すると、侑斗は「除霊を行う行わないは別で、俺は少なくともこんなルールを守らない人たちに対して警鐘を鳴らしたい。綺麗な絶景を撮ってきて、観光目的で来てほしいということをアピールしたい。」と語ると、星弥は「そうか。わかった。日程をいつにするか、その清水さんと調整を行って日程が決まればまた教えてほしい。夜明さんに同伴が出来るか調整してみる。」と話すと、侑斗は「兄ちゃん、又そんなことを言っているの?俺が単独で引き受ける依頼だよ。一人で対応する。」と話すと星弥は「一人で軽井沢大橋に行って、自殺者の御霊が20名も30名も侑斗に救済を求めて迫ってきたらどうするつもり?」と聞き始めると、侑斗は「そっ、それは・・・。」と話した後に考え始めると、星弥は呆れて「出来ないことなのはわかっている。俺だってそんなことをして下さいとお願いされたら出来ないと説明する。こればかりは複数で行かないと、どんな危険が待っているかわからない。冷静に見極めたら分かる話だ。」と語り、侑斗ははっと我に返り「わかった。投稿をしてくれた清水さんに連絡を取って日程が決まり次第、報告する。」と話し、返事のフォーマットで返事の連絡を取り始めた。
その間に星弥は夜明に連絡をしていた。
「あっ。御無沙汰です。星弥です。あの時はどうも、お世話になりました。いえ、元気で何よりです。あっ、そうそう教えてほしいんです。長野の軽井沢大橋ってご存知ですかね。地元の方からねちょっとこんな投稿がありまして・・・。」
星弥が夜明と長々と話しているときに、侑斗と清水氏とのやり取りが成立した。
「兄ちゃん。日程は決まったよ。7月は予定が入っていて、今すぐに長野には行けないけど8月なら何とか調整が出来る。9日なら3連休で前もって休みが取得出来やすいから、その日にしようという事になった。勿論、清水さんには霊がいるということを証明してしまう結果になってしまうかもしれない旨は説明した。清水さんは承知の上でお願いしたいという事になった。」
侑斗が星弥にそう語ると、星弥は夜明に「日程決まったそうです。8月9日だそうですけども、ご都合としてはいかがでしょうか。あっ、まだご予定が入っていない、あっそれでしたら申し訳ありません。侑斗のお手伝いをお願いできませんか。あ、はい。僕は今のところ、同伴できるか何とも言えませんが宜しくお願いします。」
星弥が夜明にそう伝えると、1時間以上にも及ぶ電話はようやく終わった。
「はあ。話し始めると長い!長すぎる!俺の電話代も考えていない!」
星弥が愚痴をこぼすと、侑斗に夜明が指摘したことを明かした。
「そこはかなり曰くつきらしくってね。軽井沢大橋は1969年6月に竣工されたそうだが、毎年必ず一人は投身自殺があると言われていてね、自殺者があまりにも多いために対策として欄干に防止柵のみならず有刺鉄線までも張り巡らしているのだが、自殺者の御霊が呼び込んでいるのだろうか、それすら乗り越えて自殺を図ってしまうらしい。高さが90mもあるから、死のうと思えば死ねる。高さ30mのビルから飛び降りるのと同じことだな。それに実際に報道された事件もここで起きている。2017年1月30日に長野県の同じ高校に通う女子高生二人が軽井沢大橋の下で遺体となって発見されただけでなく、さらに遡り2006年の10月6日に会社員の男性とその長女、さらに義母が自宅で頭に杭を打たれた状態で発見され、犯人の母親が10月10日にこの軽井沢大橋の下で遺体となって発見された。現場の状況から察すると、橋に車を停車させ車の屋根に乗るような形で罪を償うことなくこの世を去った。遺体の側からはメモがあり犯行を行う事などが、記載されてあったという。その他にも噂で暴走族の集団事故があったという説があるようだが、いつの話なのかわからず、ただただ暴走族が集まりやすいという話が広まったにすぎない可能性があるのを除き、俺がさっき説明した話は事実であることから、冷静に見極めなければいけないところだろう。」
星弥が話す内容に、侑斗は「わかった。ありがとう。」と話したところで来る8月9日を迎えることになった。
この日はあいにく星弥が仕事、侑斗は朝早く家を出ると、約束地でもある中部セントレア空港へと向かうために福岡空港から出る直行便に乗って出発した。
そして朝の11時30分頃に中部セントレア空港に到着すると夜明と、助手だろうか後ろに二人ついて来ているのが確認取れたところで改めて夜明から同伴した三人の霊能者について自己紹介を行うことになった。
「左から航空自衛官の嶋崎祐輔君、中学校教師の福原明日香さん、警察官の笹山琉翔君。佐賀から来てくれた小城市の市民課職員の饗庭侑斗君。仲良くしてね。」
夜明が説明すると、4人は照れながら軽く会釈をし始めた。
侑斗が「二人ともボランティア霊能者なんですね。僕は小城市の市民課に勤める市職員なんですけど、嶋崎さんって現役の航空自衛隊の自衛官で、福原さんは中学校の学校の先生、笹山さんは警察官、僕の兄と同じ職業なんですね。皆さん、凄い肩書ですね。」と話すと、嶋崎は謙遜しながら「いえいえ。そんなたいそうな仕事柄でも何でもないですよ。」と話すと、福原と笹山は一度見つめ合った後に「フフフ。」と笑い始めるのだった。その様子が気になって仕方がなかったのか侑斗は福原に「さっきはどうして笑ったんですか?」と聞き始めると福原は答えた。
「饗庭兄弟って、TVでも取り上げられるぐらいの有名な霊能者兄弟なのに、そんな人がわたしたちの仕事のことを凄い肩書って言うのも、わたしたちからすると饗庭兄弟のほうが凄すぎてそれこそわたしたちのほうが言うべきセリフじゃないかなって、笹山君もね、嶋崎君だってそうでしょ?」
福原の話す内容に二人がうんうんと頷いた後、侑斗は思わず照れ笑いをしながら「そんなことはないです。まだまだ未熟者です。」と答えた。
そして夜明の車に乗り始めると、早速軽井沢大橋に向けて出発し始める。
夜明が運転する中で、侑斗と嶋崎、福原と笹山の4人はそれぞれの仕事の話で色々と盛り上がりながら車中を楽しんでいた。
走らせること4時間30分が経過したころに、軽井沢大橋の付近で停車をすることが出来るスペースで車を停車させてから徒歩で軽井沢大橋へと向かって歩くことにした。時間は16時をちょうど過ぎたころだった。
軽井沢大橋を前に侑斗は持っていたデジタル一眼レフカメラで撮影を行うと、自殺防止用のフェンスから切断された形跡のある有刺鉄線に至るところまで写真撮影を行うと次第に複数の人から見られていることに徐々に気付き始める。
「何だろう。さっきからじっとこっちを見られている、複数の誰かにこれがひょっとすると、ここで最期を遂げた自殺者の御霊達の叫びなのだろうか。」
侑斗はそう思い、辺りを警戒しながら霊視を行い始める。そして目の前に広がるある光景に思わず目が止まってしまった。
「あの、白いワンピースの女性。一体何をするつもりなんだ!?」
侑斗が見たその女性は、橋の欄干をよじ登りさらにフェンスの、その先にある有刺鉄線までも、持っていたハサミのような物で切断してその先へ進もうとしていた。
侑斗はたまらず「待って!」と思い声を掛けようとした時だった。
女性のほうから侑斗の存在に気付くと、女性のほうから手招きをするようなアクションを起こすと、侑斗はハッとなって思い出した。
「これは罠だ。女性の周りにも、俺を自殺させようとして複数の御霊が集まりだしてきている。」
気付いたと同時に侑斗はシャッターを切る。
その瞬間に、侑斗が見た女性や複数の御霊達は一瞬にして姿をくらました。
「あれは一体・・・?」
そう思った瞬間に、先程まで女性がいた橋の真ん中付近から、そして出口付近に至るところまで隈なく写真撮影を行ったところで、夜明が「皆集まって!集合して天狗神社へお参りしよう!」と号令が掛けられたところで、夜明のいるところまで集まり始めると、一同は軽井沢大橋の付近にある天狗神社へと向かい、祠を前にして深々と頭を下げて両手で拝み始めた。
拝み終えたところで、再び車を停車させた場所に戻ろうとした時だった。
一瞬だったが、橋の真ん中付近を歩いていると風が強く吹いた。
その時に侑斗は夜明に声をかけた。
「僕、見たんです。僕を自殺させようと、誘発してきた女性がいたんです。」
侑斗が夜明に語ると、夜明はこう答えた。
「実は、わたしが天狗神社へお参りしようと声をかけたのは、あの瞬間にまさにとんでもないことになっていた。メンバーの中で一番福原さんが霊感が強いんだけど、彼女が一番このままいてはまずいことに勘づいて、わたしに声をかけてきた。わたしも何人ものこの地を彷徨う未成仏の地縛霊に誘われたわ。恐らく霊的エネルギーが強いと分かって、近付こうとした。だから、神様の力をお借りして、わたしたちの身にも危険を及ぼすと判断したところで、避難のために”天狗神社へ行こう”と判断した。ただあったはずの鳥居が無くなってしまっているのは非常に残念だわ。肝試し目的で訪れた若者たちによる悪戯をされない目的で取り払ったのかもしれない。この神社は自殺者を供養するのが目的ではないのかもしれない。」
夜明がそう話すと、笹山がある可能性を示唆した。
「天狗とあるので、祀るためにもこの神社はあるんじゃないのでしょうか。天狗は妖怪としてだけでなく神としての一面もあります。山のふもとのこんな場所でもあるから、きっとまだここの土地に軽井沢大橋が出来るまでのまだ道幅が狭くてここから軽井沢町へ抜けるためのルートが危険だった時代にまで遡るんじゃないのでしょうか。後から軽井沢大橋が出来て飛び降り自殺が多発したことにより、前々からあったのに取ってつけられたようにして”自殺者供養”の名目がついたのかもしれませんね。」
笹山がそう話すと、侑斗は「だとしたらあの”慰霊の旅路”には自殺者の供養と地元の方からの依頼者からの投稿があったのですが、それは違ったという事ですよね。」と話すと、福原は「恐らくそうでしょう。別荘地でまた地価の高い軽井沢からも距離がそう離れていない点でコテージを経営されている方なら、御代田町に移転して長くないことだろうし、昔から住んでいる人なら違うと言ったでしょう。」と語ると、再び天狗神社の祠を侑斗は見つめ始めた。
寂しく佇んではいるがしっかりと、存在を主張していた。
それはまるで、この地で未だ成仏できずに彷徨い続ける自殺者の御霊達を戒めているようにも見えたのだった。
「この地でお亡くなりになられた心の闇の救済は出来ない。だが山神様は見捨ててはいないという事だろう。全ての方々にとっての救いの存在であってほしい。」
侑斗はそう思い、帰る間際にも再び両手で拝んだところで、自身の御祓いを済ませてから一同は軽井沢大橋を後にすることにした。
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