――あらすじ。
ひょんなことから大型新人として魔法少女デビューした楓人は、ぷに助に騙されて有給休暇中に楓香の警護をすることに。なんとか守ったと思いきや、まだ危機は去っていなかった。
* * *
――まただ。
最近、なんでか分からないけど事故に遭うことが多い。大きなケガをするわけじゃないけど、これでもう4回目。今度は大きな鉄骨みたいなのが何本も落ちてきた。何かに突き飛ばされるようにして、なんとか助かったけど、その場にいたら……。
ふと、視線を上げたらそこに何かが見えた。目は良いほうでメガネは掛けてない。なのにその姿はぼんやりとしていた。声もおぼろげでくぐもっていて、なんて言ってたのかはよく聞き取れなかったけど、「悪いな」の部分だけは聞き取れた。
そんなぼんやりとした姿だったけど、私には分かった。あれは私がデザインした服に似ていた。べつにデザイナーになりたいというわけではないけど、デザインとか絵は好き。だから時々描いてて、その中のデザインの一つにその服はとてもよく似ていた。
でも、その子はあっという間に空高くへ飛び上がってしまって、視界から消えてしまった。あまりに現実離れしていたため、結局私が出した結論は夢。白昼夢のようなものだったのだろう。最近、友人に薦められた少女アニメを見たせいかも知れない。鉄骨の事故は本物だったけど、突き飛ばされたのではなく躓いただけだったのかもと思い直した。
――これが運命の出会いになるだなんて、知る由もなく。
* * *
「――見えた!」
視界に捉えた魔物――ブルブッフが5体、楓香に迫っているのを見つけた。
「はいストォォォッップ!!」
俺は飛んできた勢いそのままに、楓香に飛び掛かろうとしていた一体を蹴り飛ばした。けっこういいダメージが入ったらしく、それだけで一体浄化されてしまった。
《魔物を浄化しました。40MPがチャージされます》
「こいつで40か。てことはあのAランクの奴はやっぱり強かったんだな」
ぷに助の回復能力は思ったよりも強力で、たったあれだけの時間で体感7割は回復していた。これなら十分戦える。
「グケェ!」
「お前らそんな鳴き声だったのかよ」
ゴリラみたいな見た目の割に声がけっこう高い。一体が浄化されたことでお怒りモードのようだ。
「さて、全部浄化してやる!」
一歩退いて魔法の杖を構える。ガシャッとライフルのようなものに変形した杖をブルブッフへ向ける。
「ピュアラ――」
「チェェ〜ストォォォー!!」
魔法で浄化させようとしたその時、奇声を上げながら少女が上空から降ってきて、魔物を蹴り飛ばそうとして着地点を見誤り派手に墜落して民家の塀に激突した。
「……な、なんだいったい?」
プルプル震えながらフラフラと立ち上がるその少女は、黄色いドレスのような服装で魔法の杖を握っている魔法少女だった。かなり痛そうだ。
「あの……大丈夫ですか?」
見るからに戦う前から瀕死の少女に声をかけると、気付いたようで俺のほうを振り向く。
「あら、あなたは誰?」
「いや、それはこっちが聞きたいんですけど……」
「私? 私は1キロメートルエリア担当の柴田雫よ。……あら、あなたも魔法少女なのね。こんなところに突っ立てるってことは、あなた新人ね? もう大丈夫よ、私が来たから!」
いや、そんなドヤ顔で言われても……。
「あの、おれ……私はあの子を家まで守らないといけないので、任せちゃってもいいですか?」
「あら? 民間人が襲われてたのね。もう大丈夫よ、私が来たから!」
いや、それはもう分かったって。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします」
柴田という魔法少女に魔物を任せて俺は楓香の警護を続けることにした。といっても家まで送り届けるだけだ。
魔法少女になるはずだった女の子が魔法少女になれずに器を狙われる。異例中の異例、まさに特例ということで、楓香の家には特別に天界特製の結界が張られている。そのため家にさえ入れば安全となる。……まあ、それこそ例外の魔物もいるが。
無事に楓香を送り届けると、一応礼を言うためと様子を見に現場へと戻る。するとそこにはまだ無傷の魔物がいて、柴田が動き回っていた。その光景を見た俺は絶句してしまった。
「とぉ! たぁ! やぁぁ!」
魔法少女には三つの攻撃手段がある。一つは格闘戦のコンバットタイプ。2つ目は俺みたいなマジカルタイプ。3つ目は魔法の杖を武器化するアタッカータイプ。そしてこの子はどう見てもコンバットタイプなんだが……。
「せい! えいやぁ! とぅ!」
見るも無残。一発も当たってない。決して俊敏ではないブルブッフに一発もかすりすらしない。ここまで差があるのかと、同じコンバットタイプの赤い少女を思い出してつい比較してしまった。
『この御方は魔法少女になられてわずか一週間で10キロメートルエリアを任された天才魔法少女なんだぞ!』
ぷに助の言葉を思い出して納得した。あるいはもしかしたら、赤い少女が強すぎただけでこの子くらいが普通なのか? ……いや、魔法少女になってまだ一週間くらいの俺から見てもこの子は下手だ。かなり弱い。
「手伝おうかー?」
見てられなくて声をかけると「新人さんまだいたの? 私のことはいいから!」と言って虚しい戦いを続ける。もうかなり息も上がっているようだ。
「でもまあ、本人がそう言うなら任せ――」
任せて帰ろうとした瞬間、柴田はコケて、そのチャンスを逃すまいと魔物が襲いかかる。俺は慌てて魔法の杖を構えた。
――意識集中。ガシャンッと魔法の杖がライフルの形に変形する。パワーが溜まったのを確認して狙いを定める。
「柴田さん、伏せて!」
「え? ちょっと! なにを――!」
「ピュアラファイ!」
今度は上手く収束できた。白い光線が住宅街を走って魔物4体を巻き込んですべて浄化する。
《魔物を浄化しました。160MPがチャージされます》
「ふぅー……」
なんとか助けられたし、やっと仕事も終わった。さて帰ろう。――と思ったその時だった。
「ちょっとあなた! なんてことをしてくれたのよ!」
「はぇ?」
助けたと思ったらすごい剣幕で迫ってきた。
「私はもう一週間目なのよ!? もう後がないの! 今日の日暮れがタイムリミットなのよ!」
「一週間目? タイムリミット?」
「あなた……もしかして知らないの?」
「えーと、ごめんなさい、最近魔法少女になったばかりで……」
「なったばかりって、スレイプニルから説明受けてないの?」
「実はそうなんです、はい……」
「呆れた……。いい? 魔法少女は一週間、魔物討伐数0だとペナルティが科されるのよ!」
そういえば、そんなこと言ってたな。
『ノルマとかあるのか?』
『特にはない。だが一週間討伐数0だとペナルティが科せられる』
『ペナルティ?』
『まあ、そうそうあることではないから心配しなくていい』
どうやらその、そうそうあることではない事態が起きてしまったらしい。
「えーと、そのペナルティというのは……?」
「魔法少女ポイントの没収よ!」
「え? なんだ、それくらいなら――」
「それくらいなら……? あなたはまだ魔法少女になったばかりでMPの重要性を知らないんでしょうけどね、MPは私みたいな落ちこぼれにとっては喉から手が出るほど欲しいものなのよ!」
「……げて」
「……なんですって?」
「今すぐ、逃げて」
「なにを――」
言いかけて柴田は、黒い影に覆われたことに気づく。ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには巨大化した魔物がいた。
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