空き地の上空で魔物に向き直ると、柴田が「下りないの?」と聞いてくる。
「ちょっと待ってて」
――意識集中。ライフルに変形した魔法の杖を魔物に向ける。今度は収束しないで、逃げ場がないくらいに広い範囲で撃ってやる。
「柴田さん」
「なに?」
「今から魔法を撃つから、光が消えたら上から思いっきり地面に向けて蹴り飛ばしてやって」
「本当に、やれるの……?」
「私を信じて」
「……分かった」
「いくよ、ピュアラ――」
撃とうとした瞬間、魔物は素早く左に動いて範囲から外れた。
「くそ!」
慌てて軌道修正すると、今度は上へと逃げる。
「これじゃ当てられない……!」
巨大化したくせに機敏な動きとか卑怯すぎるだろ! ていうかお前の仲間さっきそんな動きしてなかっただろうが!
そんな追いかけっこを何度かしていると、あることに気付いた。
「もしかして……」
「新人さん、そのまま牽制してて」
「え?」
「私があいつの近くへ行って、魔法で動きを止める」
「でも、それじゃ私の魔法から逃げられないんじゃ……」
「こう見えても私、魔法少女よ? あなたの魔法くらい避けれるわよ」
「分かった。じゃあこうしよう――」
作戦を伝えると、柴田は「オッケー、じゃあ行くわね!」と、魔物に気付かれないように飛んでいった。
「お前はこっちだよ!」
再び魔法の杖を構える。ピュアラファイを撃つ素振りを見せると、やはり移動する。しかもその動きには規則性があった。なぜか時計回りに四角形を描くように回避し続ける。
「よし、そろそろだな」
柴田が位置についたのを確認して、今度は本当に魔法を撃つ準備を始める。
「意識集中……!」
魔法の杖を魔物に向けてエネルギーを溜める。星の回転がマックスになりハートの飾りが虹色に輝く。
「少し手加減して、広範囲に拡散させれば……」
俺の魔法で浄化させてしまったら意味がない。柴田にとどめを刺してもらうためにも、ある程度弱らせる必要がある。
魔物が柴田のいる位置に移動すると、柴田は魔物を魔法で拘束した。
「今よ!」
「よし、ピュアラファイ!」
真っ白な光線が巨大化した魔物を逃すまいと超広範囲に放たれる。
「やべ、範囲広すぎたかな……」
魔物が移動した様子はない。そして、光が消えると同時に「チェェ〜ストォォォー!!」という初登場した時に聞いた奇声を発しながら柴田は魔物を蹴り飛ばし、建設用地の空き地へ墜落させた。
「やった!」
フラフラしながら戻ってきた柴田は、なぜか死にそうな顔をしていた。
「はぁ、はぁ、……あなたね、私を殺す気!?」
「え?」
「え? じゃないわよ! なによあの大砲みたいな魔法は! あんなの聞いてないわよ!」
「あはは……ごめんね、逃さないように念のため拡散させたんだけど、大きすぎちゃったみたいで」
「あんなの見たことないわよ! あなた本当に新人!?」
「あ、はい……一応、一週間くらい前に魔法少女になりました……」
「はぁ……信じられない。しかもさっき4体を浄化したあとでしょう? よく考えたらあの時もすごい威力だったし。とんでもない魔力量ね……」
「そうなの?」
「あんな威力の魔法なんて普通撃てないわよ。10キロメートルエリア担当の人だってあんなの撃てないわ」
「そういえば、赤い子――葉道さんのも細かったっけ」
「まあ、あの人はコンバットに極振りしてるからだけど、普通は4体を浄化した時の半分くらいよ」
「そうなんだ……。ところで浄化できた? ポイントは?」
「それがまだ……」
「まさか――!」
下を見ると、魔物の姿が無かった。
「消えた!?」
くそ、失敗したか! なんてこった……もうタイムリミットが近づいているっていうのに!
「グケケケェ〜!」
気付くといつの間にか、柴田の背後を取っていた。特大のパンチが柴田を襲う。
「柴田さん!」
意識集中が間に合わない! それに撃ったら柴田を巻き込んでしまう……どうすれば!?
「もう時間が無いって言ってるのに……」
「グケケェ!?」
「いい加減にしてよおおおおお!!」
魂の叫びと共に、ドゴォン! と重い音を響かせて柴田のカウンターパンチが入った。
「グケ……ケ……」
「……お、お見事」
どうやら、柴田は立ち回りがめちゃくちゃ下手なだけで、一撃の重さはハンパないようだ……。
魔物はようやく浄化され、柴田の魔法の杖からアナウンスが流れる。
《魔物を浄化しました。300MPがチャージされます》
「300!?」
巨大化するとそんなに美味しいことになるのか……まあその分、倒すのに苦労したけど。
もしかして、葉道歩夢はこれを利用したのか? でもそんなに都合良く巨大化したやつを見つけて倒せるのか? あるいはゼノークスとか大型Aランクの巨大化で一気に1000MPとかは……さすがにないか。
「とにかく良かったね、間に合って――!?」
「ありがとう! 本当にありがとう! 私もう本当にどうしようかと思って……あれ? どうしたの?」
急に抱きつかれて、俺の脳内コンピュータはフリーズした。
いくら魔法少女に変身しているとはいえ、発育の良い年頃の女の子に抱きつかれるのは、年齢イコール彼女いない歴の童貞には刺激が強すぎた。新たな性癖への扉を開けてしまいそうになる。
なんとか楓香を守り抜いたものの、女子耐性0の俺が正体バレないように魔法少女を続けていくのは、ブラック企業戦士よりしんどいかも知れない……。
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