ガイル側と話し合う場は、揉め事の発端となったストガー地区の西にある酒場。随行者は、それぞれ二名で決まった。
話し合いの場をガイル側が指定したことに、クルトは難色を示して強く反対したのだった。どのような罠が仕掛けられているか分からないといったところなのだろう。
クルトにはまた甘いと言われるのだろうが、シモン自身はガイルが自分に対してそんな騙し討ちのような真似をするはずがないと信じていた。そもそもがストガー地区の占拠に関しても、ガイルの意志ではないとさえシモンは思っているのだから。
全てはあの女が悪いのだ。あのイベルダが。ガイルが弟である自分に冷たくなったのも、ストガー地区に粉をかけてきたのも全てはあの女が絵を描いたに違いない。シモンは決めつけるかのようにそう確信していた。
ならば、あの女さえ排除できれば……。
それがシモンの結論だった。
指定された無人の酒場へ先に到着したのはシモンたちであった。シモンの随行者は片腕であるクルトと、護衛として用心棒代わりに契約したグレイだった。実際の実力は分からないが、話の通りであれば護衛としてグレイは心強いように思われた。
店のほぼ中央に置かれた円形の卓。それを挟むように置かれた二脚の椅子。その一つにシモンは座り、左右にクルトとグレイが立った。
店に入った時からクルトは神経質そうに左右に気を配っているようだった。絶え間なくクルトの瞳が左右に動いている。
一方でグレイは無表情でシモンの横に立っていた。先程から微動すらしていない。腹が座っているのか、何も考えていないのか。いずれにしても用心棒としては頼もしい限りだ。シモンはそんな感想を抱いていた。
「しかし、静かだな」
シモンの言葉に腹心のクルトが苦そうな表情をする。
「この店も含めて、付近の奴らを近づかせないようにしてるみたいですね。野郎、既にストガー地区を自分の物みたいに……」
最後の言葉はシモンに聞かせるためというよりも、呟きに近いようだった。だが、兄のガイルを他人から野郎呼ばわりされると、それがシモンの癇に障るようだった。
その不快感を辛うじて飲み込みながら、シモンは薄い青色の瞳をグレイに向けた。グレイは相変わらずの無表情で立っている。
「グレイ、娘を一人で置いてきて心配じゃねえのか?」
シモンの問いかけにグレイは顔を向けずに、茶色の瞳だけを動かしてシモンに視線を送った。
「娘はよくも悪くも守られている。傷つけられることはない」
意味が不明だった。だが、グレイはそれ以上、説明するつもりはないようだった。グレイは時によく分からないことを当然のことであるかのように口にする。それだけを取ってみても何かと気味が悪い親子だとシモンは思っていた。それとも単に頭がいかれているのか。
シモンがそう思いながら軽く溜息を吐いた時だった。店のドアが派手に開けられる。先頭を切って姿を現したのはガイルだった。
兄さん……。
シモンは心の中で呟いた。
ガイルの背後にはガイルの腹心であるコーネンデルとガイルの妻、イベルダの姿があった。腹心のコーネンデルはともかくとしても、イベルダをこの場にガイルが連れてきたのは意外だった。
イベルダは腰まで届く金色の髪を揺らしながら、卓を挟んでシモンの正面に腰掛けたガイルの右手に立った。
服から溢れてしまいそうな豊かな胸を下から押し上げるようにして、イベルダは腕を組んでいる。普通の男であればその豊かな胸に垂涎ものなのかもしれないが、シモンにとっては不快でしかなかった。そんな振る舞いをするイベルダが下品な女としかシモンには思えない。
一方でガイルと顔を合わせるのは半年ぶりだった。見た感じでは少しだけ太ったような気がする。
幸せ太りってやつか。そう思うと瞬間的にシモンの頭に血が上る。その感情のままに燃えるような瞳をイベルダに向けたシモンだったが、イベルダはそれを平然と受け止めていた。
相変わらず面の皮だけは厚いようだった。そのような中で最初に口を開いたのはガイルだった。
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