『コミカライズ』ツンデレご主人様とケモミミ従者がゆく魔族討伐の百合旅

エルトリア
エルトリア

11 無自覚な好意

公開日時: 2020年9月18日(金) 03:36
更新日時: 2020年10月26日(月) 01:50
文字数:3,259

 

「ご主人が応じてくれるようになって嬉しいぞ。そろそろ、言葉の方も素直になってくれればよいのじゃが――」

 

「……馬鹿――」

 

 

 言い終わるか終わらないかのうちにシェンフゥの唇がリサの唇を塞ぐ。

 紡ぎかけたその言葉は、双方の唇の間で熱い吐息となって消えた。

 

 

「なんじゃ?」

 

 

 ゆっくりと唇を離したシェンフゥが、物欲しそうな目でリサを見つめている。

 

 ――私はシェンフゥが好き……?

 

 ふと自問したその言葉だけで、頬が熱くなっていくのを感じる。

 

 

「ほれ、ご主人。吐けばすっきりするぞ」

 

「……なんなのよ、それ……。尋問みたいな言い方なんてして。もっとロマンチックなものじゃないの?」

 

 

 冗談めかしたシェンフゥの問いに、睨むような視線を向ける。

 

 

「ほうほう。ご主人は、ロマンチックな方が好みなのじゃな?」

 

「そんなこと言ってない」

 

 

 言葉にされたことで、自分の中でも曖昧にしてきた感情に名前がついてしまいそうになる。

 

 意識し始めたことで、熱くなっていく顔は、恐らくもう赤い。

 それを悟られまいと腕で顔を隠したが、シェンフゥの手がやんわりとそれを制した。

 

 

「わしの理想の美少女の顔じゃ。そう隠してくれるな」

 

 

 熱くなった頬に、シェンフゥが軽く口付けを落とす。

 

 

「わしは未だ、ご主人の本音を知らぬ。思ってることを、口にしてみてはくれぬかのぅ?」

 

「……それが本当かどうかなんてわからないじゃない」

 

 

 ――ご主人様と従者。

 

 『契約』してしまった時から、そう割り切ろうと努力して、今の関係性がある。

 だが、シェンフゥは一貫してリサへの好意を語ってはばかららない。

 

 

「そうかのぅ?」

 

「そうよ」

 

 

 首を傾げ、残念そうに眉を下げるシェンフゥに素っ気なく答える。

 

 

「…………」

 

 

 シェンフゥは少し考えるような素振りを見せると、それからゆったりと身体を倒し、リサに優しく口付けた。

 

 

「愛しておるぞ、リサ――」

 

 

 そのまま優しく抱きしめられたことで、二人の胸が密着する。

 重なった二人の胸の膨らみは柔らかく押し合い、互いの鼓動を行き交わしていた。

 

 

「シェンフゥ……」

 

 

 これまで気づかないふりをしていたシェンフゥの胸の高鳴りを知り、呟く声がうわずる。

 

 

「わしの言葉は、嘘だと思うかの?」

 

「…………」

 

 

 真摯に問いかける目は、嘘など言うはずもない。

 その上、シェンフゥの言葉を嬉しいと思ってしまった自分に気づき、リサの頬はますます熱を帯びた。

 

 『食事』は割り切って何度もしているが、これほどまでに意識したのは久々だからか、シェンフゥがじっくりと時間をかけてくるからなのかはわからなかった。

 

 ――それとも、シェンフゥを失うかもしれないという不安のせい?

 

 精神汚染の影響を受けることはなくとも、任務の途中で行方不明となる可能性はゼロではない。

 

 迷いと不安に似た感情に複雑に顔を歪めていると、シェンフゥが小さく笑い、リサの瞼にそっと口付けた。

 

 

「……やはり、その身体にわからせてもらうしかないかのぅ……」

 

「んっ……」

 

 

 シェンフゥが軽い口付けをリサの両の瞼と鼻先、唇へと落としていく。

 リサが応じようと唇を動かしたが、シェンフゥはそのままつと上体を起こした。

 

 

「わしのこと以外、なにも考えられぬようにしてやらぬとな……」

 

 

 囁きと同時に、舌で耳をなぞられる。

 

 

「ひゃあああんっ!?」

 

 

 完全に不意を突かれたリサの身体を、痺れるような感覚が突き抜けていく。

 情けない悲鳴を上げた唇を慌てて引き結んだが、シェンフゥは追い打ちをかけるようにリサの弱いところを舐め続けた。

 

 

「好きじゃ……。心から――」

 

「んぁっ、……んっ、わかった……からぁ……。そんなトコ、あんっ、舐めないで……」

 

「やはりここは弱いのぅ」

 

 

 くつくつと笑い、シェンフゥがリサの耳から唇を離す。

 

 

「わかってるのに、なんで……」

 

 

 唇が離れても、唾液でしっとりと濡れた耳から、肌の表面が粟立つような感覚が広がっていく。

 

 

「どうじゃ? もっとして欲しくなってきたじゃろう?」

 

「うるさい……」

 

 

 撥ね付けるつもりだったにも拘わらず、覇気のない声が漏れた。

 意思とは裏腹に身体はシェンフゥを求め、うずき始めている。

 

 

「わしにはおぬしのいところは、全てお見通しじゃからな」

 

 

 ゆっくりと姿勢を変え、ほとんど馬乗りになったシェンフゥが、あられもない姿のリサを舐め回すように見つめている。

 

 

「それは、あんたが幽体の時に、人の身体で好き勝手してたから――」

 

「その通りじゃ。身体の方はよく覚えておるようじゃな?」

 

 

 くつくつと笑いながら、シェンフゥがリサの目許を舌先で舐める。

 

 

「んぅ!?」

 

「気持ち良いと涙が滲むのも、知っておるぞ」

 

 

 目の下側、涙袋と目尻をシェンフゥの舌先がちろちろと舐め、瞼に口付ける。

 

 

「な、なんでそんな……」

 

 

 喘ぐように口を動かしていると、シェンフゥの唇がリサの唇を摘まんだ。

 

 

「ん……ぁ……」

 

 

 唇に添えられた指が、リサの喘ぐような吐息を誘導する。

 

 

「……んっ、んぅ……」

 

 

 唇を深く重ね、舌を絡め合ううちに、息が止まるほどの深い口付けを交わされてゆく。

 シェンフゥの唾液が、リサの口内をたっぷりと満たし、それを飲み下すうちに、甘い蜜のような味が唇をしっとりと濡らし始めた。

 

 

「あっ、ん……、んぁ……」

 

 

 息継ぎの合間にも、片時も唇を離さずに、浅く深く口付けを繰り返す。

 甘い口付けに次第に夢中になっていくリサは、シェンフゥの後頭部に手を回し、貪られるままその口付けを受け容れていた。

 

 

「……良い声で啼くのぉ」

 

「な、啼いてなんか……ぁんっ」

 

 

 つとシェンフゥの指先が動き、太腿の内側をなぞりあげる。

 

 

「んんっ」

 

 

 反射的に背を仰け反らせたリサの唇を、柔らかくシェンフゥが塞いだ。

 熱くなった舌に絡められて求められているうちに、段々と頭の中がぼうっとし始める。

 

 

「……好きじゃ」

 

「……ふっ、ぅ……」

 

 

 こんなふうに優しい言葉をかけられ、全身を愛しむように撫でられるのは厭ではなかった。

 

 シェンフゥの言う愛がなにかわからないが、この上なく自分を必要とし、大切に愛しんでいるのは、今のこの行為からも伝わってくる

 

 

「やはり、おぬしはわしの理想の美少女じゃ……」

 

「こんな身体にしておいて、良く言うわよ……」

 

 

 互いの肌を合わせているという事実が、恥ずかしくてたまらず、顔を覆う。

 シェンフゥはそれを退けようともせず、リサの腕に優しく唇を這わせた。

 

 

「わしが生涯をかけて仕えると心に決めた美少女じゃ。そのままの姿であり続けてもらわねば困る」

 

「本当に、とんでもない呪いをかけてくれたものだわ」

 

「だが、望みどおり、お主は自由じゃ」

 

 

 シェンフゥがかかかっと快活に笑いながらリサと額を合わせる。

 

 

「……それとも、親が決めた婚約者とやらの方が良かったかのぅ?」

 

「……意地悪言わないで」

 

 

 目を覗き込まれて問いかけられ、リサは思わず口早に話題を否定した。

 

 

「意地悪とは?」

 

「あ……」

 

 

 思いがけず零れた本音の欠片に気づき、目を見開く。

 

 

「ご主人、もしや……」

 

「違う、違うわ! あんたとこうしてるのが良いだなんて、ぜーんぜん思ってないんだから!」

 

 

 誤魔化そうと焦ったせいか、言わなくても良いはずの言葉が口から飛び出す。

 はっとして口を押さえたが、シェンフゥのにんまりと笑う顔が全てを物語っていた。

 

 

「……ご主人、それを墓穴を掘るというのじゃぞ?」

 

「掘ってない!」

 

 

 強がってはみたが、恥ずかしさで顔が熱くてたまらない。

 表情を悟られまいと腕で顔を隠したが、それは裏目に出た。

 

 

「ほうほう。では、身体に聞くとするかの」

 

 

 腕で隠し切れていない顎先に口付け、シェンフゥが身体を下へとずらす。

 

 つつっと肌をなぞるように動いた舌が、リサの可愛らしい臍の凹みをまさぐり始める。

 

 

「んんっ! どこ舐めてるのよ」

 

「ん? 詳しく言って聞かせる方が好みじゃったか?」

 

 

 意地悪に向けられた質問と視線にリサは熱くなった顔を背ける。

 

 

「久し振りの『食事』じゃ、今夜はたっぷりと堪能させてもらうぞ」

 

「ああああっ」

 

 

 リサの全てが自分のものであると主張するかのように、シェンフゥの熱い口付けが全身に落とされていく。

 シェンフゥにじっくりと時間をかけて味わわれるうち、リサの頭の中はぼうっと霞み、なにも考えられなくなっていった。

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