「――人、……ご主人……」
ゆさゆさと肩を揺すられている。
泥のように身体が重かったが、辛うじて目を開けることは出来た。
「そろそろ起きてはどうかの?」
「!?」
白い天井を遮り、シェンフゥの顔が目の前に突然割り込む。
本能的に飛び起きたリサは、服をはだけたあられもない自らの姿に気づき、シェンフゥを睨んだ。
「……ちょっ、あんたまさか――……きゃっ」
意識は覚醒しているはずなのに、身体はまだいうことをきかない。
ベッドから下りて逃れようとしたところで、思いがけずシェンフゥに支えられることになってしまった。
「大丈夫かの、ご主人」
素早く胸と腰を取って支えたシェンフゥが、まだしっとりと濡れたリサの髪に鼻先を押し当てている。
「この匂い、たまらんのぅ。まさしく湯上がりの美少女の匂いじゃ……」
「人を眠らせて、あんなことするなんて、最低よ!」
シェンフゥの頬に手を当て、距離を取らせながら声を荒らげる。
が、シェンフゥはきょとんとし目を瞬き、不思議そうにリサの顔を覗き込んだ。
「……いや、まだじゃよ? 久しぶり過ぎて加減を間違えただけじゃ。大体、わしがそんな外道に見えるかの?」
「え……。見えるけど……違うの……?」
目を瞬きながら率直に答えたリサの言葉を聞き、シェンフゥが額に手を当てて大仰に蹌踉めくような仕草をした。
「おおぅ、まるで信頼がないのぅ。自分の身体の変化ぐらいわかるじゃろうに」
「…………」
言われて、恐る恐る自分の姿を検める。
服こそはだけてはいるものの、具体的になにかをされた痕跡はない。
「それに、ご主人は後で『食事』をさせてくれる約束だったからのぅ」
安堵の息を吐きかけたリサに、シェンフゥが目を爛々と煌めかせながら顔を寄せてくる。
「そ、それは……」
ヘイゼルニグラートで交わした約束を持ち出され、リサはゆっくりと目を逸らした。
「よもや嘘ではあるまいな?」
視線を逸らすリサを逃さないよう、シェンフゥが頬に手を当てて振り向かせる。
言い逃れ出来ないと観念し、リサは苦し紛れに訊ねた。
「嘘じゃないけど、でも、どうして今……」
「任務が魔族絡みとわかった今、ヤツらにいつ襲われるともわからぬ。それにご主人、確かわしの狐火の火力が足りぬと言っておったではないか」
「う……」
リサが無碍に断ることが出来ないようにとしてか、シェンフゥが至極真っ当な理由を並べ立て始める。
「『食事』をすれば、わしの妖力も増強される。これも任務のうちと思えば、いいじゃろう?」
「……それは、一理あるわね」
あるいはリサが受け容れやすいように、という配慮なのだろうか。
言葉巧みにシェンフゥに誘われたリサは、思わず頷いてしまった。
「そういうわけじゃ。では、始めるとするかの」
背後に回って寝転んだシェンフゥが、後ろから手を回してリサの身体をまさぐり始める。
露わになった下着を包むように、ゆったりと手のひらで胸を包まれると、リサの肩がぴくりと跳ねた。
「あっ、待って……」
まだ身体の自由が利かないリサは、唇を引き結んで喘ぐように背後のシェンフゥに視線を送る。
「どうしたかの、ご主人?」
シェンフゥが顔を覗き込むようにして狐耳を近づけると、その耳にリサは消え入りそうな声を零した。
「キス……してくれてからなら、いい……」
「もちろんじゃ――」
微笑んで応じたシェンフゥが、言い終わらないうちに唇を重ねる。
「あ……」
重ねられた唇に、リサがそっと舌先を伸ばす。
が、その舌先がシェンフゥの唇に触れる前にシェンフゥが上体を起こして離れていった。
「さっ、待ちに待ったお楽しみのはじまりじゃ♪」
もう少しあの甘い口付けが引き起こす感覚を得たかったが、シェンフゥの意識はもう違うところに向いている。
「もうがっつかないで……」
溜息のように微かな不満を漏らしたリサは、恨めしくシェンフゥの顔を横目で見遣った。
「アヴェルラに邪魔されてからというもの、中途半端なところでお預けじゃったからのぅ」
細い肩にそっと手のひらを添えてシェンフゥが、リサを上向かせる。
「んっ」
再び重ねられた唇の隙間から、シェンフゥの舌が伸ばされる。
リサはそれを舌を突き出して応じ、唇でシェンフゥの上唇を挟みながら絡めた。
「……ぁ、んぅ……」
シェンフゥがリサの舌を舌先でくすぐるようになぞり、深く口付ける。
求めていた口付けにリサは小さく喘ぎながら応じ、あの甘い蜜のような味の唾液を喉を鳴らして飲み下した。
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