見下している相手を敵だと思った時こそ敵を誤認している?
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
『貴方が同人誌通販サイトにUPされた電子版同人誌にて「表現規制」を目論む危険思想の肯定につながりかねない記述が見付かりました』
エロ同人作家の自治団体である「表現規制反対同盟」からの警告メールが届いた。
『5日以内に修正または公開停止を行なわなければ、貴方は「表現の自由」の敵と見做され、当同盟と協力関係に有る全ての画像投稿サイトおよび同人誌通販サイトにおいてアカウントが停止されますので、御注意下さい』
対象となっている同人誌には、古いモノ……1年半以上前のモノや……下手したら「表現規制反対同盟」結成以前のモノも有った。
仕方ない……。
「敵」は次々と新しい「表現規制」に繋がるイチャモンを考え出し続けている。
それに対して、こちらも次々と対抗策を変え続けねばならない……。
昨日までOKだった内容でも、今日は「奴ら」に利用されないとは限らないのだ。
「どう云う事でしょうか? 貴方は表現規制を肯定されるのですか?」
表現規制反対運動の旗手である与党議員は、ある作家団体の女性会長に向かって、そう問い詰めた。
「い……いや、一体、何を言ってるんですか?」
その女は……青冷めた顔に脂汗を浮かべていた。
後ろめたい事が有るからこそ、こんな状態になっているに違いない。
「証拠はこれです」
そう言って議員は、あるラジオ番組の録音の一部を再生した。
『早速、そちらの作家クラブに所属されている作家さん向けにポリティカル・コレクトネスについての講習を実施されるそうですが……』
『主に海外に翻訳されている可能性が有る作家さんから希望者をつのって行なう予定です』
動かぬ証拠だ。
「あ……あの……これのどこが表現規制なんでしょうか?」
だが、この女は、とぼけ続けようとした。……成功しているとは言い難いが……。
「どう考えても表現規制を目論まれているようにしか思えませんが? 貴方は、そちらの作家クラブさんに所属されている作家さん達を洗脳するつもりですか?」
「待って下さい。海外に翻訳される可能性のある小説やマンガを作る際には、海外で何がセンシティブな話題になるかを知っておかなかれば……」
「何を言われてるんですか? 我が国の娯楽コンテンツが海外で人気が有るのは、海外では出来ないポリコレ無視の表現をやっているからですよね? 貴方は我が国の娯楽コンテンツの長所を潰す気ですか?」
次の日、その女が論破された様子を、その場に居たマンガ家の1人がマンガにしてSNSにUPした。
だが、議員から、その場に居た約五〇人のメンバーに対して、DMが届いた。
『あのマンガでは、悪質な印象操作が行なわれています』
『1人に対して、数十人が吊るし上げを行なったように受け取られかねないコマが多々有りましたが、皆さん、御存知の通り事実に反します』
『更に、あの会長を若くて美人のように描いていますが、表現規制派の女が、そんな外見だなどと云う事に、誰がリアリティを感じるでしょうか?』
『私としては、あのマンガに対して不快感を表明せざるを得ません。しかし、皆さんがどう思われるかは、皆さん次第です。皆さんが後になって後悔する事のない判断をされる事を切に望む次第です』
月が変らない内に、あの女は、その作家クラブの会長を辞任する事になった。
だが、その作家クラブの中でも、あの女に洗脳されたらしい作家達は「表現規制反対派を名乗る与党議員とその支持者数十名に議員会館に呼び出された挙句、1対数十で吊るし上げを食らった」とのデマを撒き散らし続けていた。
それに、マスゴミが書いたデマ記事に、あの女の写真と称して、替え玉の写真を掲載するような真似までやりやがった。
あの女は同情を買う為に、若くて美人の替え玉を使ったのだろうが、あの女の外見は……昭和のマンガに出て来る「わからず屋のPTA」そのものの外見だった筈だ。
だって、SNS上にUPされてる、あの場に居たメンバーが描いたマンガでは、どれでもそう描かれてるじゃないか。
そして、与党議員の呼び掛けで、あらゆる表現規制運動に反対するマンガ家・同人作家の団体が結成され……しかし、表現規制を目論むヤツらは次から次へと新しい表現規制の手を考え出し続け……そうだ……中二病的な言い方をするなら、まるで、永遠に続く善と悪の戦いみたいだ。
俺は「表現規制反対同盟」からの警告に従って、自分の同人誌を修正し続けていた。
マイノリティを出す事はポリコレ準拠なので、表現規制肯定につながる……。俺は「表現規制反対同盟」公認の漫画作成アプリのプラグインを使って、褐色肌のキャラの肌の色を肌色に一括変換する。
ベクデル・テストとやらをパスする粗筋は、これまたポリコレ準拠なので、表現規制肯定につながる……。江戸時代の百姓が「こいつ、耳が不自由なんでねえか?」と云うセリフを口にするぐらい不自然な会話になるが、女同士の「恋愛ともエロとも関係ない会話」をエロ関係の別の会話に置き換えた。仕方ない。
女同士の友情や恋愛や連帯はフェミニズム肯定に利用されかねず、これも表現規制肯定につながる……。
百合ものであれば、当事者の1人を必ず「クレイジー・サイコ・レズ」にして……百合もの以外では必ず「女の敵は女」と云う粗筋にせねばならない……。無理だ……一から作り直すしか無い。
仕方ない。
表現の自由の為だ。
俺は、自分の同人誌の幾つかを公開停止にした。
今の時代、紙のエロ同人誌の所持は違法になり、電子版の同人誌もダウンロードするのではなく、サーバに置いてあるモノを専用のリーダーで読む形式となっている。
作者か同人誌通販サイトの運営が公開停止措置を取れば……例え金を払って購入したモノでも二度と見る事は不可能になる。
不便な世の中になったが仕方ない。全ては……表現の自由の為だ。
俺は、理性的で現実的な大人の男だ。
感情的なフェミやポリコレ肯定派と違って、ちゃんとわきまえてる。「正義の反対は悪ではなく別の正義」である以上、「表現規制運動に対抗出来るのは、自由や人権なんかじゃなくて、別の表現規制」だって事を……。
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