ホラー短篇集

HasumiChouji H
HasumiChouji

何かがおかしい老々介護

公開日時: 2022年12月6日(火) 05:51
更新日時: 2022年12月6日(火) 16:25
文字数:1,980

そんな筈はない。そんなの奴の感想に過ぎない。

でも……まさか、殺されるのか……?

どうやら、俺は……老人ボケになっていて……今、一時的に正気に戻っているらしい……。

そして……それを追って来ているのは、俺の介護に疲れ果てた……。

「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

 あれ?

 スマホをどこかに忘れてしまったのか?

 今、どこに居るか判らないのに、この場所に見覚えが有る。

 スマホで位置を確認しようとしても……何だ、これは?

 ポケットの中に入っていたのは……スマホじゃなかった。

 だが……携帯電話の一種だと云う事だけは判る代物。

 何故、この……奇妙な外見だが、何故か見覚えが有るモノが……「進化したスマホ」だと判るんだ?

 地図アプリを表示。

 何故かは判らないが……何と呼ぶかも判らない「進化したスマホ」の使い方だけは判った。

 地名を見ると……どうなってる?

 俺の実家の近くだ……。

 待て……。

 俺の知ってる「実家の近く」は田舎の筈だ。

 こんな……マンションが立ち並んでるような場所じゃ……なか……。

「見付けたよ……。帰ろ……」

 えっ?

 疲れ切ったような……婆ァの声。

 振り向くと……そこには……。

 誰だ?

 見覚えが有るのに……見覚えがない。

 誰か……俺の良く知ってる奴に似て……。

 あああああッ‼

 ある事に思い至った瞬間、俺は、逃げ出した。

「ま……待たんね……。帰ろ……家に……帰ろ……」


 嘘だ。

 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。何かの間違いだ。

 あの婆ァは……俺のオフクロに良く似ていた。

 ただし……俺の記憶にあるオフクロよりも、二〇か三〇はけていた。

 飛び込んだ……記憶にないのに見覚えが有る駅のトイレの鏡に写った俺の顔は……髪は薄くなり、残った髪も白髪交じり。

 「進化したスマホ」が表示した今日の日付けは……期待してたモノよりも二〜三〇年先。

 変ってしまっている。

 記憶に有る風景から、すっかり変ってしまっている。

 けど、ここは……俺の実家の近くらしい。

 記憶に無いのに見覚えが有る駅の名前は……俺の実家の近くの地名。

 少し離れた場所に見える地蔵堂の有る丘は……たしかに、子供の頃の夏にカブト虫を良く捕りに行っていた。

 何が、どうなってるのか、手掛かりを探る。

 何故か使い方を知っているニュースアプリに表示されるニュースは……これまた何故か、全国区のニュースが異様に少なく、地元のニュースばかりだった。

『老々介護の問題、いまだに解決の糸口見えず』

『介護に疲れたを殺す。同様の事件は今月に入って県内で二十件目』

『何故、五〇代の発症が増加しているのか?』

 ようやく……俺が置かれている変な事態の手掛かりになりそうなニュースを見付けた……。

 どうやら……俺は……五〇か六〇ぐらいの……齢は齢だが早過ぎる齢で……老人ボケになり……そして、今、一時的に正気に戻ってしまったらしい。

 いや……正気なのか?

 家で大人しく、ボケてない親の世話を受けてる時こそが……正気で……今のこの理性が戻り、頭が働くようになった状態こそが「狂ってる」のでは無いか?

 何の冗談だ?

 俺は……社会のお荷物になって……しかも……ボケて家で大人しくしてる状態の方が、まだ「社会のお荷物」としてマシなんて……。

 たしかにそうだよ……。

 俺が理性も知性も失なってる方が……社会にはとってマシだった。

『五〇代で老人ボケになる「冷笑系」世代』

 冗談じゃねえ。

 爺ィ・婆ァとは言え、五〜六〇ぐらいの、まだ体力が残ってる奴が、次々と老人ボケになったら……どんな事になるか……。

『○○大学の××教授は、この世代で流行った「冷笑文化」は、言わば「頭を使わずに頭が良さそうに見せ掛ける」手段なので、冷笑文化に毒された世代には、若い頃から頭を使わない癖が付いてしまい、その為に、他の世代よりも若い年齢で老人性痴呆症になる傾向が有る、とコメントしており……』

 駅前の広場のベンチに座って見ていたニュース動画では……とんでもない事を言い始めやがった。

 おい……冗談じゃねえぞ。

 俺は……流行りに乗っただけだ。

 しかも、その流行りに乗る事で楽に生きられた。

 それが悪いってのか?

 ふざけんじゃ……。

「あははは……」

 その気味が悪い笑いは……俺の声じゃなかった。

 俺の横には……。

 そいつの顔に浮かんでる表情を言い表す言葉を俺は知ってる筈だった……。

 でも、すぐに、その言葉が出て来ない。

 冗談じゃない。

 本当に俺はボケたのか……。

 ああああ……マジだ……。

 俺が……普段、どんな生活をしてるか思い出せない。

 空っぽだ……まるで……俺は空っぽ……。

 そうだ……空っぽ……空っぽと似た意味の言葉……。

 やった、思い出せた。

 「虚ろ」だ。

 俺の横には……いつの間にか、虚ろな表情の五〜六〇代らしい男が座っていた。

「ばかばかしい……」

 ああああ……。

 嘘だ……。

 誰かを嘲笑ってる時の表情って……こんなにマヌケに見えるモノだったのか?

 俺は……餓鬼の頃から……こいつみたいな表情を浮かべ続けたのか?

。そう思わねえか?」

 続いて、その、どこの誰か判らない……今の俺と同じ位の齢の爺ィが口にしたのは……俺の小学校の頃の渾名だった。

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