異世界のんびり放浪譚

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第66話 チコル村、再び

公開日時: 2022年4月27日(水) 23:41
文字数:2,344

「嘘なんだよな?」

「いえ、本当です」

「間違いだろ?」

「いえ、本当です」

「勘違いなんだよな?」

「いいえ、本当です!」

 二十歳前後の小娘と、さっきからずっとこのやり取りをしている。

 ギルドへ依頼完了の報告をしたら、レベル三十そこそこだった奴が急にレベル八十超えて帰ってきて、Sランクのいるかどうかも分からなかった海竜を倒してきたなんて、誰も信じてくれなかった。

「海竜出せって言われても、あまりにデカすぎて頭すらもここじゃ出せませんよ……。 だから、町の外に出ましょうって言ってるじゃないですか……」

 と俺が言うと、冒頭のやり取りへ戻るという無限ループ中だ。

 しまいには、ギルドへ来ている冒険者たちまでこっちの会話に割って入ってきた。 輩のように俺はバカにされ、段々とイライラしてきた。

 港町ヒジャーバの人間は、男も女も口が悪く、いちいちカチンと来る。

「ギルドマスターはいらっしゃらないんですか? 先日いた男性は?」

「あぁ、アイツなら今日は家の都合で休みだ」

「じゃあ、話しが分かる方は?」

『お前みたいな弱っちそうな奴の嘘っぱちを分かるやつなんか、居るわけねぇじゃねぇか!』

 ドッと輩どもから笑いが起る。

「なら、もういい」

 怒りで顔を真っ赤にしながら帰ろうとする俺の背中に、さらに大きいバカにした笑い声が突き刺さった。


 モコとジョシュアは宿で留守番していたんだけど、俺が帰ると、二人は仲良く昼寝していた。

 ジョシュアはモコに抱きつかれ、苦しそうにうめきながら寝ている。

「ったく、それにしても頭にくるなぁ……」

 俺は一人悪態をつき、貧乏ゆすりが止まらない。

 そうだ! 一旦、一人でチコル村へ移動魔法で行けばいいんじゃないのか?

 で、ラウルさんになんとかしてもらおう! 依頼を達成したのに信じてもらえないなんて、納得がいかない!

 なんだかクレーマーみたいだが、俺のイライラは治まらない。

 よし、物は試しだ! やってみよう!


 魔力を込めて移動するイメージを膨らます……。 と、同時に「おいてかないで! モコもいっしょ!」と言いながら、モコは俺の手を握りしめた。

 次の瞬間、俺とモコはチコル村のギルドの中にいた。

「お、お前……」

「あ、ラウルさん! しばらくぶりです!」

「しばらく!」

 モコは元気よく、手を挙げた。 さっきまで寝てたくせに元気だなぁ……。

 ラウルさんは、まさに開いた口が塞がらないのか、でっかく口を開け、呆然と俺を見ている。

「なんか、移動魔法が使えるようになりまして……」

 ギルド内には、十人くらいの冒険者がいた。 今までの寂れたギルドだったのが信じられない。 そしてその彼らもまた、ラウルさんと全く同じ表情で全員口をあんぐりと開けながら俺たちを見つめている。

 なんだか気まずくなってきたな……。

 キョロキョロ辺りを見回すと、メルちゃんがいない。

「あれ、今日はメルちゃんどうしたんですか?」

「メ、メルは、昼時だけリリーんところ手伝ってんだよ……」

 目を見開きながら、ラウルさんが言った。

「あ、あの……。 俺……」

 俺がどうしていいか分からなくなっていると、

「あ、あぁ、ちょっと待ってろ」

と言って、ギルド内にいる冒険者たちにさっさと並べ!と怒鳴りつけながらパッパと依頼をさばき、クローズの看板を出した。

「お前、何があったんだ? つーかよ、誰だよ、その色男は」

 これ、モコの話しもしなきゃだよな……。 まぁ、ラウルさんは信用できるしな。

 順を追い、俺はラウルさんに全てを話した。


「おい、あのボウズがこんな良い男になるのかよ……」

 ラウルさんはモコがフェンリルだということよりも、そっちのほうが気になるようだった。

 というか、フェンリルだということが信じられないみたいだ。

「モコねぇ〜、おっきくなったんだよ!」

「お、おぅ……」

 ラウルさんはモコとどう接したらいいのか、分からないようだ。

「まずはよ、言いたいことも聞きたいことも山ほどあるがな、一旦、海竜見せてくれや」

「はい! でも、頭だけでもこの室内には出せないので、村の外に行きませんか?」

「分かった」

 さすがラウルさん……!! 話しが分かる男だ……!!

 ギルドの外へ出ると、今までより広場も賑わっていた。

 露店のおばあちゃんも俺がいたときには言っちゃ悪いが目が淀んでいて暗い表情だったけど、今はイキイキしている。

 ダンジョンが見つかって冒険者が増えるっていうことは、こんなに環境を良くするんだな……。

 感心して村をグルっと見回すと、リリーさんの宿に行列が出来ていた。

「ラウルさん、あれ……」

 俺がそう言うと、ラウルさんは嬉しそうに言った。

「リリーがよ、ラーメン屋始めたんだよ」

「え!?」

「兄ちゃんの作ってくれたインスタントラーメンでな」

「は!?」

「ダンジョン効果で冒険者たちが増えてな、宿でもメシ屋再開したんだよ。 まぁ、インスタントラーメン出したらこれが旨いってんでな、人気が出てよ。 いっそのこと食堂をラーメン屋にしちまえってんで、ヤッたらこコレが大当たりよ!」

「そうなんですか!」

「あぁ? おめぇにも売り上げギルドで貰えるはずだぞ?」

「それは……。 最近、まともに依頼受けてなかったんで、気付きませんでした……」

「まぁ、それはそれとしてよ。 昼飯や晩飯の忙しいときには、メルが手伝ってやってんだよ」

「へぇ〜」

「モコもたべたい!!」

 俺たちの話しを聞いていたモコが、食い意地を張り出す。

「お、おぅ……」

 相変わらずラウルさんは、モコへの携わり方に悩んでいるようだ。


 門番のおじいさんと雑談を交わし外へ出ると、おなじみの草原が広がっていた。

「じゃあ、出しますね」

 海竜は豪華客船か? というほどの大きさがあり、置いただけで地響きがする。

 ラウルさんは目が点になり、門番のおじいさんは

「お迎えがきた……。 ありゃあ、ワシのお迎えだ……」

と呟きながら、海竜を拝んでいた。

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