「海竜って、本当にいたんだ……」
ジョシュアは自分の目が信じられないようで、モコが作ったシャボン玉?にべったりと顔と手のひらを押し付け、凝視している。
海竜は半身しか海上に出ていなかったけど、俺はこんなデカいものを初めて見た。
とても興奮しているように見える海竜だけど、気品があるというのか、威厳があるというのか、なんというのか……。 神々しいと同時に、禍々しくも感じる。
「ねぇ、ジョシュア君、モコ見えない!?」
「あ? あぁ、見えない……」
二人で目を凝らしてモコを探していると、突然、海竜が水中に引き込まれて行く。 勢いで周りの海水が大きな飛沫となって俺たちのシャボン玉まで飛んできた。
「うわっ!!」
俺たちは思わず、のけ反ってしまう。
飛沫が落ち着きを取り戻すとともに、海竜が引き込まれたところが何十メートルも空洞になり、その穴は暗く、全く何も見えなかった。
「おい、マジかよ……」
ジョシュアは目がバッキバキで見つめている。
しかし、その次の瞬間には海水が逆流し、最初の飛沫とは比べ物にならないほどの海水が飛び上がってきた。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
飛沫は俺たちが入っているシャボン玉を呑み込んだものの、まったくビクともしない。
「モコの魔法、ヤベェ……」
「う、うん……。 この飛沫にビクともしないなんてね……。っていうか、モコ、大丈夫かな……」
じっと海を見つめること二、三分、また特大の飛沫が立ったと思ったら、モコが海竜に剣を刺したまま、俺たちのシャボン玉まで飛び上がってきた。
「孝史! もう海竜は瀕死の状態だから、そこから雷属性の魔法を打つんだ!!」
「えぇ!? なんで……。 モコが倒さないの!?」
「孝史のレベルを上げられるから! 今の状態ならすぐ殺せる! 回復される前に早く!!」
えっ、えっと……、えぇ!?
俺のサンダーアローはモコに比べれば、勿論弱いに決まってる。
いつもの魔法じゃダメだ。 せっかくモコが託してくれたんだ、どうせなら特大の魔法をお見舞いしてやるぞ!!
俺は使える魔力の全て、いや、身体中に流れている全ての力を使い切るイメージで、渾身のサンダーアローを一発打った。
その瞬間、モコとジョシュアが何か喚いている気がしたけど、集中していた俺の耳には届かなかった。
全ての力を集中した俺の一世一代のサンダーアローは海竜に深く突き刺ささり、海竜もそのまま暴れることなく最期にカッと目を見開き、息絶えた。 と同時に、俺も意識が無くなった。
「たかふみ、おっき!!」
どれくらい寝ていたのだろうか。 ふと目を覚ますと、モコが寝ている俺の顔を泣きじゃくりながら覗き込んでいるのがぼやけて見える。
それにしても、頭が割れるように痛い……。
「ここ、どこ……?」
「まだダンジョンの中だけど。 っていうか、アンタ、何やってるわけ? 魔力をマイナスになるまで打つとか、頭おかしいんじゃない?」
ジョシュアが本気で怒っている。 顔がいつもの悪態つく時とはまるで違い、危機迫っていた。
「へ? マイナス?」
どうやら俺は魔力をゼロにするどころか、身体中に流れている全ての力を使い切るイメージをしてしまったことで、生命力を魔力に変換して使っていたらしかった。
「魔力がマイナスになれば、下手すりゃ死ぬんだからな!?」
「え……、そうなの……」
「ッチ。 いや、村にいたときに教えたから!」
「ゴメン……」
そんなこと言ってたっけか?
「ぐすっ。 たかふみぃ、らいじょうぶ? いたいいたい?」
モコは俺が生きていることに安心したのか、号泣している。
「うん、大丈夫だよ……」
俺はズキズキと痛む頭を抑えながら起き上がると……。
ん???
「あれ?? モコ、大人のまま……」
「そーだよ、アンタのせいだからな!? アンタが仮死状態になったから、モコが復活の魔法を使ったんだぞ!? 復活の魔法なんて、想像上のものだとされてるくらいのものなんだぞ!?」
「復活……?」
「せっかくモコはそれぞれの身体に意識がちゃんと戻せるところだったのに!」
「それって、モコから光りが出たってこと?」
「そう。 海竜が死んだとき、モコの身体が前みたいに光りだしたんだ。 でも、同じタイミングでアンタが倒れたもんだから、モコが復活の魔法使ったんだよ。 そしたら光りが消えちゃってさ。 元に戻らなかった。 っていうことは、光りが出ている時にモコは動いたりとか、魔法使ったりとか、動いたらダメってことだろ」
「え……? あぁ、うん、そうか……。 ねぇ、大人のモコはなんか言ってた?」
「いや、復活の魔法を使った途端、また幼いモコの人格に戻ってた。 幼い人格のモコは、大人の人格のときの記憶が無いみたいだから、アンタが倒れてるのを見て何かあったんじゃないかって泣きわめいて暴れて、大変だったんだからな!!」
ジョシュアを見ると、なんだか服がヨレヨレになっている。
あぁ、モコよ、ジョシュアよ、ごめんなさい……。
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