それはまだ王都へ着くもっと前。 旅に出た初日のこと。 俺は夢を見た。
パソコンを持っていない俺は、夢の中でスマホで転職サイトを夢中で見ており、手当り次第に応募している。
ところが、だ。 いざメールで履歴書と職務経歴書をPDFにしようとしても、なぜだかアプリが上手く作動しなくてPDFに出来ない! と発狂する夢だ。
「たかふみぃ、ねぇ、おっき?」
「う……ん……?」
「こわいゆめみた?」
「あ、あぁ……。 確かに怖い夢かも……」
すげぇ嫌な夢見たな……。 なんでパソコンでは簡単に出来るのに、スマホだと分かりづらいのか。
「らいじょうぶ?」
「うん、モコが起こしてくれたから、もう大丈夫だよ」
そう言うと、モコは嬉しそうに笑った。
「ねぇ、モコ? 俺が寝ている間に誰か馬車に来た?」
「ううん、こないよ〜」
「そう」
俺は夕食前の時間に、昼寝していたようだ。 ちなみに、俺はイケメン二人組みとずっと一緒はキツイので、俺たち用の馬車を買っている。
「ねぇ、モコ、ちゅまんない!」
「あぁ〜……、じゃあ、何しようか?」
「う〜んっとねぇ〜、あ、これ、つづきちゅくって!!」
モコが俺の作りかけにしていた折り紙を差し出した。
あぁ、そうだ……。 ネットスーパーで買った折り紙の後ろに書いてあるカブトムシの作り方を見て作ってたんだった。
あまりに意味がわからんくて、途中で寝ちゃったんだったな。 そうか、そのイライラがあの悪夢として出てきたのか。 なぜ折り紙がPDFに……。
「モコ、カブトムシじゃなくて違うのにしようよ〜」
「えぇ〜〜〜??? じゃあねぇ〜……、あ、ハンバーグ! ハンバーグおって!!」
「ハ、ハンバーグ?」
「うん! モコ、ハンバーグたべたいなぁ……」
あ、コイツ、食べたいになってる。
「よし、じゃあ、今日はハンバーグだな」
「やったぁ〜!!」
それにしても、ひき肉にする機械がないと、オークやオーガの肉で作るのは面倒臭い。
ネットスーパーに売ってないかと試しに見てみたら、なんと普通に売っていた。
マジか……。 どうせ無いと思って探しもしなかったのに、売ってるなんて……。
「どうしたの?」
モコが心配そうに覗き込んでくる。
「ううん。 なんでもないよ。 モコ、手伝ってくれる?」
「いいよーーー!」
オークとオーガの肉を二人で大量にひき肉にし、モコはその肉がミンチになって出てくる様子が面白くて仕方がないようだ。
その間にネットスーパーで玉ねぎとニンジン、牛ミンチ、ナツメグを買う。
俺のハンバーグは、玉ねぎとニンジンをみじん切りにして入れる。 これが結構旨いんだ。
牛は持っていないので、大量に牛ミンチも買った。 割合なんかよくわかんないけど、多分半々くらい。
ペチペチと空気抜きも、モコがキャッキャと喜んでやってくれるけど、めっちゃ下に落ちてる。
これ、注意したら拗ねるから言っちゃダメなやつだな……。
大量のハンバーグを焼きまくり、モコと俺は満足するまで食べた。 ケチャップとソースを混ぜたもの、和風のもの、レトルトカレーをかけたもの、と味を変えるとモコもよろこぶ。
「おいしいね!!」
「そうだねぇ〜」
アイテムボックスに保存用のハンバーグも焼いたし、これでいつハンバーグが食べたくなっても大丈夫だ。
「ハッヤッシさ〜〜〜ん! おすそ分けっス〜」
俺とモコの食後のまったりタイム中に、レオンハルトがおすそ分けを持ってきてくれた。 俺たちは旅の間、食事は別々にすることにしたんだけど、結構、良い奴かも?
「ありがとうございます」
「しょれ、なぁに?」
「これは王都名物、牛鬼の塩焼きでぇーッす!」
ようは、ステーキだ。
「すいません」
「いいんスよ、全然! ハヤシさんは、大事なお客様ッスから」
これは俺の悪いところだが、流されやすいというか、ちょっと親切にされるとほだされるというか、何かしてあげたくなってしまう。
なので会社員時代は良いように利用されたし、随分この性格で損をしてきた。
そのこともあって下手に利用されるのも勘弁だったから、ハンバーグも分けてあげなかった。
まだどんな奴らかも分かんないし……。
しかしその罪悪感からか、俺はその日の夜、またPDFに変換出来ない夢の続きを見た。 しまいには保存形式が違うとなり、夢の中の俺は最初の夢からさらに発狂していた。
次の日からおすそ分けをすることにしたのは、言うまでもない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!