翌日、受付のお姉さんに伝書局の場所を地図に書いてもらい、俺たちは三人で向かった。
古めかしけど威厳のある建物の一階に、伝書局は入っている。 広いフロアで、局員の人たちは忙しそうだ。 お客さんも結構いるので、繁盛しているらしい。 フロア奥のほうに伝書鷲の檻があるけど、鷹は一匹しかいないみたいだな。
「どちらまで?」
一人だけ手が空いていた女性に声をかけると、行き先を聞かれた。
「チコル村まで二通お願いします」
「では、一通につき金貨二枚ね」
「えっ?」
「金貨二枚だけど?」
受付の中年女性は、面倒そうに言った。
感じ悪いな〜。
「何日くらいで着くんですか?」
「往復? 片道?」
ラウルさんからの返事が必要だから、それって往復ってことでいいんだよな?
つーか、言い方にトゲがある。
「じゃあ、往復」
と、怒ってますよアピールをしながら俺は言った。 モコはその様子をポカンとしながら見ている。
「往復ならさらに金貨二枚追加だから」
そういうと、片手を出してカネを催促してきた。
なんなんだ、この女性は……!!
俺はカネをわざと彼女の手の平ではなく、彼女からは取りずらいところに置いた。
女性は『あぁん?』という顔で不服そうにカネを回収し、何やら事務手続きをしている。
「いつチコルに着きますか?」
「見ればわかると思うけど、今は鷹がいないんでね。 順番待ちの状態だから、いつになるかなんて分かんないわね」
「え? 奥に一匹いますよね?」
俺がそう言うと、女性はフンッと鼻で笑った。
「一匹しかいないのに、街のお偉いさんでもないような人の郵便を出すわけがないでしょ?」
なんだ? 俺は喧嘩を売られているのか?
日本の感じの悪い公務員より、タチが悪いじゃないか……。
「他の鷹が戻ってきたって、先に申し込んでる人が何十人もいるんだからね。それが終わるまで大人しく待ってな」
その女性はそう言いながら、シッシッと手で追い払おうとしている。
マジか……。 これ、キレていいのか?
すると、それまで俺の後ろでジーッとしていたジョシュアが俺を軽く突き飛ばし、彼女の前の場所に立った。 ヨロヨロとその場をどくと、ジョシュアは喚き散らし始める。
「おばさんさぁ〜、何なの? さっきから聞いてりゃその態度〜。 怖いんですけど〜」
「こっちは客なんだけど? そのカネで食ってるクセに、舐めてるわけ?」
「自分が不幸だからかなんだか知らないけど、人に当たらないでくれる〜?」
いいぞジョシュア!! 本領発揮だっ!!
女性の顔はみるみる赤くなり、茹でたこのようになってきた。
「な、なんなの、この子……! 大人になんて口きくの!」
「おばさんこそ、誰に口聞いてると思ってるの? 俺は聖アルフォンソ騎士団の人間なんだけど?」
「せ、聖……。 あんたみたいなガキが入れるわけないでしょう!?」
そこへ責任者と思われる、気の弱そうな中年男性が現れた。
「あ、あの……。 どうされましたか?」
おばさんがまた喚き出そうとしたので、俺は手で遮る。
「あの〜、こちらの女性の接客態度が酷くてですね…… 」
「し、失礼なっ……! あんたたちこそ聖アルフォンソ騎士団なんて、嘘ついて!!!」
「せ、聖アルフォンソ……」
中年男性が驚いていると、ジョシュアがギルカードをその男性に見せた。
「た、大変失礼いたしましたっ!! ほら、あなたも謝りなさい!!」
「そ、そんなのニセモノでしょ!?」
「いい加減にしなさい! お客様方、本日は大変失礼いたしました! お詫びは改めてお伺いさせていただきます!」
そういうと、男性は深々と頭を下げた。
「あの〜、それは別として、郵便はいつ送って頂けますか? いつになるか分からないと言われたんですが……」
俺がそう聞くと、男性は吹き出る汗を拭いながら言う。
「もちろん本日送らせていただきます!」
なんだか気分が悪いけど、今日送れることになったのは良かった……。
「後日、謝罪にお伺いいたしますので、お名前やご住所などお教え下さいますか?」
俺はクレーマーみたいかなと気が引けたけど、ホテルと俺の名を伝え、郵便局を後にした。
「あのおばさん、しゅ〜ごく怒ってたねぇ〜」
「うん、そうだね〜。 ところでジョシュア君、聖アルなんとかってなに?」
「聖アルフォンソ。 俺のいる討伐隊の名前」
「なんか凄くあの男の人驚いてたけど、有名なところなの?」
「Aランクの勇者が何人かいるから、有名」
「へぇ〜、そんなところに所属してるなんて、ジョシュア君すごいんだね」
ジョシュアは不貞腐れた顔をしながら、
「……。 凄いのは俺じゃない。Aランクの勇者が強いだけ」
と、小さく呟いた。
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