ダークワイバーンは討伐したものの、普通のワイバーンは他にもめっちゃいた。
ジョシュア曰く、ダークワイバーンに襲われないように隠れていたんじゃないかと思う、ということだった。
「ねぇ、あっちーー!」
「こっちーー!」
ワイバーンの居場所はモコの指示に従い、ジョシュアが倒しまくる、と一日がかりでこっちも綺麗に討伐。
その日はミスリル鉱山で一泊し、俺たちは帰路についた。
ギルドへ着くと、モコの登録抹消はなんてことはなくスムーズに終わり、依頼のワイバーンも全部で275匹とドロップアイテムの全て買い取りに出す。
もちろんダークワイバーンは出さないけど。
「買い取り額は、税金を引いて金貨203枚です」
受付の子は、淡々と金貨が入った麻袋をジョシュアへ渡す。
案外安いな……。
「ギュンター様は本日いらっしゃいませんので、討伐完了の件は私からお伝えいたします」
「……。 別にそういうのいらないから」
「はい、分かりました」
なんだろう、やっぱり都会だからか受付の子もクールだな。
ホテルに戻ってからジョシュアはさっきの買い取りの麻袋を取り出し、俺に半分渡してきた。
「いや、俺何にもしてないしこんなの貰えないよ!」
「はぁ? 何言ってんの? アンタじゃないから。 モコがいなかったら俺たちとっくに死んでるんだから」
そう言ってジョシュアはモコを抱っこする。
「あ、あぁ……。 そうか、そうだよね……」
「……ったく、自分の分だと思うなんて……」
ジョシュアは呆れ顔だ。
「モコ、えらい?」
「……うん」
モコとジョシュアは二人の世界に入っている。
では遠慮なく、モコの分としてもらうことにしよう。
その翌日、テオドールさんの売り子君であるエドワード君がホテルに伝言を伝えに来た。
「すみません、至急、お店に来ていただけないでしょうか?」
早速店へ向かうと、テオドールさんが今にも泣き出しそうな顔ですがりついて来る。
「あぁ、ハヤシさん!! お願いします! 何とかしてください!」
俺の腕を両手でギュッとつかみ、必死の形相だ。
「ど、どうしたっていうんですか……?」
「と、とにかく応接室へ!!」
いつもは応接室のある五階までは息も絶え絶えだったテオドールさんが、今日はタッタカ軽やかに登っていく。
応接室に着くなり、テオドールさんは息切れもすることなくまくし立てた。
「今回の献上品のコンペで、ハヤシさんのシャンプーとトリートメント、石けんが選ばれたんですよ!!!」
コ、コンペ??
「なので主催も私なんですよ!! だから料理もハヤシさんにお願いしたいんです!! どうか、どうか、お願いします!!」
「あ、あの、まずコンペってどういうことですか?」
「あ、あぁ、すいません。 年に一度、商会で領主様に自分たちの商品を献上するんですが、ハヤシさんから降ろしていただいたものを今年は献上したんです!!」
「はぁ」
「そうしましたらね、まぁ、私も優勝間違いなしだとは思っていたら、案の定優勝しましてね! さきほどその通知が来たんです!!」
「えぇ……?」
テオドールさんは興奮で顔が真っ赤だ。
「で、で、ですよ! 私の商人人生、初めての優勝なんです!!」
「はぁ」
「まぁ、父親の代の時に一度優勝したことがあったんですがね。 その時も凄かったですよ〜。 あれは何年前だったかな……」
「テ、テオドールさん、あの……」
「あぁ、すいません。 父親のことは関係ありませんでしたね。 とにかく私の代で優勝は初めてなんです!!」
テオドールさんによると毎年ほぼ同じ商会が優勝をかっさらっているらしく、他の商会が優勝するなんて青天の霹靂らしい。
「で、料理というと……?」
「はい! 毎年優勝した商会が、領主様や参加した他の商会を招き、商品のお披露目パーティを主催する決まりなんです!!」
テオドールさんは、目を輝かせる。
「そこでですね、商品の追加のお願いももちろんなんですが、私、その時の料理も是非、ハヤシさんにお願いしたいと思っているんです!」
えぇ!? 面倒臭いんですけど……。
「私、随分長いこと生きてきましたがね、あんな美味しい料理、ハヤシさんが作ったもの以外で食べたことありません!!」
またテオドールさんは俺の手を握ってきた。
「後生です!! お願いします!! どんな御礼でもさせていただきますから!!」
こりゃ参ったな……。
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