その日は早起きして簡単なパンの朝食を食べ(量は別として)、ミスリル鉱山に向けて出発した。
ミスリル鉱山はとても大きく、マリタからも見えていたんだけど、近づくことによってさらに大きく見えてくる。 岩山なんか俺は今まで生きてきて見たことがなかったから、荘厳というかなんというか……。
「ワイバーンがいる山はあしょこ?」
モコがジョシュアに聞く。
「そう」
俺は、ちょっとワクワクしていた。 あれからジョシュアにワイバーンってなにかと聞いたら、『ドラゴン』の小さいバージョンと聞いていたので、早く見てみたいんだ!
ワイバーンはドラゴンだから、てっきり山の付近を飛び回っているかと思いきや、全然いない。
山の麓に辿り着いた俺は、ジョシュアに聞いてみた。
「なんかの廻りを飛び回ってるもんかと思ったけど、全然いないんだね」
「……。 俺に言われても困る」
そりゃそうだけど、コイツは会話を楽しもうって気がなさすぎる。
「ジョシュア君はワイバーンがどの辺にいるのか、分かるの?」
「……。 そんなの分かるわけない」
え、そうなんだ……。 手探りで探さなきゃダメじゃん……。
するとモコがちょっとだけタタッと走り出し、ジーーーッと何かを察知しようとしている。
「モコ、わかったーーー!」
モコはあっちーー!と指差し、俺とジョシュアの手を引く。 俺たちは人間が作ったであろう、ミスリル鉱山に掘られた道を登っていった。
ほどなく進むと、モコが元気に叫ぶ。
「もうすぐしょこにいるーーー!!」
微かに『ギィーーー』というような鳴き声が聞こえてくる。
岩肌にぽっかりと開いた洞窟の前で、モコは「ココ! ココ!」とピョンピョン飛びはねる。
俺とジョシュアは顔を見合わせ、中へ入っていった。 どうも洞窟って陰鬱な感じがして怖い。
「ところで、どうやって倒すの?」
「普通に剣。 ……あとは属性みて決める」
「鑑定ってこと?」
「……そう」
ワイバーンはCランクなので、そこそこ強い。
いつものジョシュアなら俺になんとかさせようとするけど、今回は本人のダイエット目的だからかヤル気満々だ。
ちなみにジョシュアは、いささか自分が可愛い顔をしていることを認識している。
マリタの街に着いた当初、スレ違う同じ年頃の女の子同士がジョシュアを見て笑顔でこそこそ言ったり、顔を赤らめたり、振り返る子が多くいた。
それに対してジョシュアはクールに相手にもしないし、全くの無反応。
でも、劇太り以降、誰もジョシュアに目もくれなくなったのだ。
ジョシュアは思うところがあったようで、
「え、この俺が歩いてますよ?」
と戸惑っているような態度だった。 クールなジョシュアの子供の一面が見えた気がして、なんとも親戚の叔父さんのような気持ちになる。
真っ暗な坑道をライトの魔法で照らしながら進むと、数十匹のワイバーンがギィーギィー鳴きながらひしめき合っていた。
俺はワイバーンを見て「おぉ!」と感動はしたけど、ドラゴンではないというか、プテラノドンだよこれは。
ジョシュアが鑑定している素振りをする(人が出している鑑定画面は他の人間には見えない)。
そうかと思えばジョシュアは携えた剣を急に抜き出し、単身、切り込んでいった。
え? 速っ……。
それはまるでアニメの戦闘シーンを見ているように、鮮やかだ。
ワイバーンはジョシュアに襲いかかってくるものの、ジョシュアはヒラヒラよけては切り返す。
気付けば半分の程の十匹ちょっとを倒していた。
す、凄い、ジョシュア……。
モコもワクワクしながら、その光景にくぎづけになっていた。
でもここで、ジョシュアの身体が限界を迎える。
はぁはぁと息切れが凄い。
ジョシュアは息切れしながら、剣を鞘に納め、魔法攻撃に出た。
バリバリバリバリッッ!と坑道内に轟音が轟き、冷気を漂わせた魔法がワイバーンに次々と当たり、悲鳴をあげながらワイバーンは倒れていく。
この断末魔が、なかなかにキツイ。
あっという間にジョシュアは全てのワイバーンを倒したけど、息切れが苦しそう。
「ジョシュアしゅごーーーい!」
モコがイイコ、イイコとジョシュアを撫でる。
「ハァハァハァ……。 早く、ワイバーンしまって……。 ハァ……」
「え、いるの?」
「ハァハァハァ……。 ワイバーンは、食べれる……し……、そ、素材……」
「あぁ、分かった分かった」
俺はワイバーン本体を回収し、ちいさな瓶に入った痺れ薬であるドロップアイテムも二つしかなかったけど、手に入れることが出来た。
「これでワイバーンの討伐は終わり?」
俺がジョシュアに聞くと、
「ハァハァハァ……。 まだまだこんなもんじゃない……」
ジョシュアによるとワイバーンの繁殖力は非常に高いので、もっといるそうだ。
「あのねぇ~、奥にもーーーっといっぱいいるの!」
えぇ、いっぱい? モコが早く行こうと、俺とジョシュアの手を引いて誘う。
ワイバーンは数十匹の群れが一定の距離を保って棲んでいたので、見つける度にジョシュアがなぎ倒していった。
合間合間に現れるゴブリンやスライムと言った弱いモンスターは、俺が退治していく。
っていうか、思ってた以上にジョシュアは強い。 太ったことで動きづらそうとはいえ、想像以上に速いし、なんせ魔法も今のところ一撃必殺だ。
ある程度坑道を進み、また新たなワイバーンの群れを倒したところでジョシュアが言った。
「もう、俺、お腹空いた」
「モコもー!!」
「そうだね、お昼にしよっか」
「俺、ワイバーン食べたい」
「モコもーーー!!」
そう言うなり、ジョシュアはワイバーンを手早く解体し、肉を俺に押しつけた。
「はい」
「え、ワイバーンってどんな味なの?」
「……。 そんなのワイバーンはワイバーン」
えぇ? ワイバーンなんて、どうすりゃいいんだよ……。
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