それからの数日間、俺とジョシュアの地獄の特訓が続いた。
モコは昼時になるとメルちゃんが連れて来てくれ、そうすると俺は訓練をやめ昼飯の準備を始める。
昼飯を食い終わると、また村に戻りインスタントラーメン作り、というルーティンが出来ていた。
昼飯の時間になるとジョシュアは当然のように食事が出てくるのを待つようになり、「おいしい」の一言も言わなかったが、その態度が全てを物語っていた。
フッ、可愛いとこあるじゃないか……。
そして俺は、ちょっとだけレベルが上がっていた。
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林 孝文(ハヤシ タカフミ)
年齢 :31
レベル:3
HP :312
MP :34
魔法 :火魔法
スキル:アイテムボックス、鑑定、言語習得
インターネット→ネットスーパー・レシピサイトのみ
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お、魔法が使えるようになっている!!
早速ジョシュアに魔法が解放されたことを報告すると、
「……。 で、何? 使い方を教えてほしいの?」
と無気力気味に言われた。
(それしかねぇだろうが……)
「あ、うん……。 どうしたらいいのかな……?」
「はぁ……。 魔法なんか、使おうと思えば使えるけど」
そういうとジョシュアは、その辺の草を集め出した。
「はい、燃やしてみて」
俺、研修はしっかり丁寧に教えてもらわなきゃダメなタイプなんですけど……。
「ねぇ、じゅ、呪文とか唱えなきゃダメなの? ファイヤーボールとか……?」
「……。 魔力の低い奴は言わなきゃできないんじゃない? 俺は言わなくても出来るけど」
あぁ、そうですか。っていうか、凄い恥ずかしい……。
「ファ……。 ファイヤー……ボール…」
ポンッ!とテニスボールくらいの火の玉が、ジョシュアが適当に作った草の的に当たり、ジュワッと消えた。
「おぉぉぉぉぉ! ねぇ、見た!? すっげぇ!!」
「……。 魔法スキルが解放されたら、誰だってできるんだけど。 っていうか、そんなんで騒ぐなんてダサすぎ」
んんんんん〜……。
それから俺は魔法が使えることが面白くて面白くて仕方なくなり、苦戦しながらもスライムは一撃で倒せるようになった。
翌朝、メルちゃんが申し訳なさそうに宿に来た。
「すいません。 兄なんですけど、昨日ハヤシさんにお伝えしていなかったみたいで……。 ちょっと今日は用事があるので、ご一緒出来ないんです……」
「あぁ、そうなんだ。大丈夫だよ、俺も魔法が使えるようになったし、心配しないでね」
「はい。 で、申し訳ないんですけど、モコちゃんもお預かりできなくて……」
「あぁ、大丈夫大丈夫! ごめんね、こっちこそ気使わせちゃって……。 っていうか、なんかあったの?」
メルちゃんの様子がいつもと違い、元気が無さそうだった。
「あの……。 今日は母の命日でお墓参りなので……。 ハヤシさんも、もしギルドにご用があれば、お昼から開けるのでそれ以降に来てください」
あぁ、そういえば、メルちゃんやジョシュアのお母さんの話しって全然聞かなかったな。 そうか、可哀想に……。
「……そっか。 わかったよ」
「はい……」
そう言うと、メルちゃんはトボトボと重い足取りでギルドへ帰って行った。
「たかふみぃ、今日は何する!?」
「う〜ん、じゃあ、ちょっとだけ草原に行ってアイテム探しでもしようか?」
「する〜!!」
モコはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
モコは相変わらずの嗅覚でアイテムを探し出し、大活躍だ。俺はスライムに剣は使わず、魔法で倒すことに相変わらずどハマり中だ。ファイヤーボール、ファイヤーニードル、ファイヤーアロー等々と魔法を打ちまくり、調子にも乗りまくっていた。
まぁ、普通に厨二全開になっていた。
そして夢中になっていた俺たちは、気付けばこの世界に来た時に目の前にあった森の近くまで来ていた。
「たかふみぃ〜、あっち、なんかいる〜」
「え?」
モコの指差す方向を見る。
「えぇ……。 何がいるの?」
「んっとね〜、なんかすっっっごいの!!」
と言うと、モコは森の入口り向かって走り出そうとしので、俺はモコの襟首を引っ張り抱きかかえた。
「モコ! ダメ!」
そこにいたのは、ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ怪物がいた。そう、あのキマイラが森の入り口にいた。それにしてもでかくないか?三メートル以上ゆうにあるだろ……。
ものの2、3秒だろうか? 俺は呆然と、ヨダレをたらしギラギラとこっちを凝視しているキマイラを見つめた。
「たかふみぃ?」
俺はモコの声にハッとし、
「モコ、よく聞くんだよ? 村に走って帰るんだ。 おじいさんの所に行って、キマイラが森に出たって、みんな逃げろって伝えておいで!」
「いやぁ、モコも一緒、いる!」
抱きついてくるモコの背中を軽く突き飛ばし、
「いいから早く行きなさい!」
と俺は怒鳴った。
俺がどうこう出来るわけがないのは分かってる。
でも、せめてモコが逃げるための時間を一秒でも二秒でも稼がなければ。
キマイラはすでに目の前にいた。今まさに俺に襲いかかろうと、
「グォォォォォォッッーー!!」
という、まるで地の底から聴こえてくるような雄叫びを上げた。
あぁ、俺、死ぬ。 モコは逃げ切れるだろうか? 逃げ切れたとしても、この先モコはどうやって生きていくんだろう? ゴメン、ゴメンな、モコ……。
恐怖でギュッと目をつぶりながら、最後のあがきで咄嗟に俺は剣を突き出しめちゃくちゃに振り回し、その時を待った。
「ギィィヤァァァァァッッーー!!」
キマイラの叫び声がした。
え? 俺の剣が刺さった? 数秒経ってから恐る恐る片目を開けると、キマイラが血しぶきを上げながらドサッと倒れるところだった。
ん? え? 俺がやったの?
すると、
「孝史、大丈夫!?」
とモコが言った。
「モコ、どうして逃げなかったんだ!?」
とモコの声のほうを振り向くと……、ん? いや、違う。 ちょっと待って。 モコの声じゃない。
なんだ? この低い声は……。 誰?
「え、モコは……?」
そこには銀髪の長髪がよく似合う、見たこともないような美しい青年がいた。
「孝史、大丈夫!?」
スラッと背が高く、そのどこか憂いのある切れ長の目をしている青年は、腰が抜けそうになっている俺の腰を支えた。
やだ、カッコイイ……。 ポッ。
いやいや、ポッじゃねぇよ。 誰だコイツ……。
「ねぇ、孝史、大丈夫!?」
「え、誰? なんで俺の名前知ってんの? っていうか、その辺で子供みなかった?」
「孝史、俺だよ。俺がモコだよ」
は?
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