それから俺とモコは、空前のカニ雑炊ブームの最中にいた。
鶏雑炊なんかも作ったけど、どうしてもカニ雑炊に戻ってしまう。 毛ガニも入れてるし、美味さの次元を超越している。
そしてモコはチビッ子のくせにカニ味噌の味を覚えしまい、口を開けばカニ味噌食べたい、と口走る。
「陛下もハマっちゃったみたいで、他の味はいらないそうです」
オーガスタスからの依頼もあり、王の分もカニ雑炊を作り、俺たちはマジで三日三晩同じものを食べ続けた。
オーガスタスは王様が食欲を取り戻したことで、嬉々として職務に励んでいる。
そんなある日、職務に復帰できるまでになった王との謁見の場が持たれることになった。
王様は顔色も良く、目も生気を取り戻し、なんというかハツラツとしている。
「モコ殿、ハヤシ殿には、誠に感謝しております。 このような事態に巻き込んでしまい、申し訳なかった」
そういうと、王は頭を深々と下げた。 金銀ギラギラの王宮内だったので、さぞプライドも高く、欲の権化みたいな人をイメージしていたのに、良い意味で違うぞ。
「あなたがたのような者が、この国に滞在していたとは、我々は誠に運が強いな」
ん? どういう意味だ?
「陛下、それはそうですよ! なんてったって、フェンリルも一緒なんですから!!」
オーガスタスは得意気に言った。
「え!?」
俺が驚いていると、オーガスタスはキョトンとした顔をしている。
「へ? だって、モコ殿はフェンリルですよね?」
あ、あれ? 取り憑かれていたときのことは覚えていないんじゃ……!?
「え、記憶、え……?」
「記憶はまだらなんですけどね。 カスミがかっているというか……。 あ、ご心配なさらず! このことを感じ取っているのは、陛下と私だけですから! あ! あと、レオンハルトとトバイアスもですね」
「な、ななな、な……」
俺は言葉にならない。
「いやぁ、私もまさかとは思ってたんですが、先程レオンハルト達から話しを聞いて、王も私も確信したんですよ〜」
えっ、ど、えっ……?
「ハヤシ殿よ、我々に憑依していた者は、恐らくウロボロスの配下の者であろう」
「ウロボロス……?」
「うむ。 我の祖先とウロボロスには因縁があっての。 この国を乗っ取ろうと画策しているのであろうな」
「はぁ」
「して、なぜモコ殿がフェンリルかと分かったかと言うとな、ウロボロスの蛇共の憑依を解く聖魔法など、使えるものは数もしれている。 それは、伝説の聖獣のみじゃ。 無論フェンリルのみが使える訳では無いが、レオンハルトらと旅をしている際に、フェンリルの姿の寝姿を見たそうでな」
マジか……。
「安心して欲しい。 我々は、そなたらを無下にするようなことはせぬ。 ただ、国が襲撃された際には協力してもらえるとありがたい」
これ、大丈夫か? 利用されるだけでは?
「あ、あの……。 お言葉ながら、俺とモコは兵士になったりするのは……」
王は俺の言葉を遮った。
「無論、好きに生きるが良い。 聖獣をたかだか一国の王が縛り付けるなど、そのような無礼を働く気は無い。 だが、何かあれば協力を仰ぎたいのだ」
「はぁ……」
頭が回らないぞ……。 でも、兵士になったりしなくていいなら……。
「おぉ、大事なことを忘れておった! 褒美の件じゃ。 お二人に領地を授けようと思っておったのじゃ」
「領土なんて、そんな……。 頂いてもどうしていいか分かりません」
王は優しげな顔で、身を乗り出して言った。
「モコ殿はまだ幼い。 これからのことを考えてはどうか? ハヤシ殿は人間だ。 フェンリルとは、どうしても生きている時間の流れが異なる。 ハヤシ殿が死んでも、モコ殿は幼いままであろう。 その後の生活もある。 領土があれば……」
その時、黙って話しを聞いていたモコが口を開いた。
「モコ、しょんなのいらない!! モコ、ずっとたかふみといるの!!」
そう言って、しくしくと泣き出してしまった。
「おぉ、モコ殿……! フェンリルを泣かせてしまうとは……」
王とオーガスタスはオロオロとしている。 モコは「いらない、いらない……」と呟きながら、泣き止む気配もない。
「そ、そうであれば、何も無理に領土を渡す必要もない。 何か他に欲しいものは……」
王は気を使ってくれたが、モコがギャン泣きしはじめたので、一旦俺たちは部屋に戻ることにした。
俺はモコをベッドに寝かせ、ポンポンと背中を優しく叩くと、泣き疲れたモコはそのまま寝てしまった。
よく考えたらそうだよな。 俺の寿命なんて、モコからしたら一瞬なんだよな……。
俺は急に現実がのしかかり、モコのためにもっとお金を遺してあげなきゃ、今の額では全然足りないよな、と考えながら、気付けばモコと一緒に眠ってしまった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!