「ハヤシさん、ちょっとこちらへ……」
俺はテオドールさんに手を引かれ、誰もいないパーティ会場の端に連れていかれた。
「あの……」
テオドールさんは神妙な顔で、俺を見つめている。 そして、なぜだか瞼が痙攣していた。
「ど、どうしたんですか……。 瞼すっごい痙攣してますよ……」
「だ、大丈夫です……。 あ、あの……。 あ、そうだ! モコちゃんはどうされていますか!? お元気ですか!?」
「えっ!? あぁ、はい……。 元気すぎるほど元気です……」
(あ、怪しい……)
と、テオドールさんの顔に書いてある。
「どうかしましたか? モコなら風邪を引いて、ホテルで寝込んでるんです」
「あぁ! そうでしたか……。 いえね、あの……。 最近、ハヤシさんたちが、その……。 ハ、ハヤシさんは男色の方なんでしょうか……?」
「だんしょくってなんですか?」
「そ、それは、恋愛対象が男、ということです……」
「はぁ!? 違いますよ!?」
「あぁ、そうですか! よかった……」
テオドールさんは、心底ホッとした顔をしている。
「いえ! 違うんです。 男色の方もたまにいらっしゃいますし、それはそれで男色だろうと別にいいと思います。 でも、スラッとしたハンサムな方と、ジョシュア君と三人で手を繋いでいたので……」
み、見られていた……!!
「大人の男性は良いんですよ? た、ただ、ジョシュア君はまだ子どもなので、ちょっと私も心配しておりまして……」
あ、そう思ってたのか……。
「誤解させてしまってすいません。 彼は私の友人で、あの、彼はちょっと距離感が近いというのか、なんとうか、ちょっと変わっているというか……。 とにかく、ジョシュアに何かするなんてありえませんから!」
「あぁ、それは良かった! まぁ、私の誤解ということであればいいんです。 はぁ、これでようやく安心して眠れます……」
そんなに悩んでいたのか……。
「それにしてもハヤシさん、また随分痩せましたね〜」
「あぁ、そうなんですよ……。 ちょっと色々ありませて、食事も喉を通らなくて……」
とにかくモコの遊んで攻撃が大変だった。 なんせあの図体の男だから、鬼ごっこなんかやった日にはマジで吐き気が出るほどやらされるから、食事なんてしたくなくなった。
俺もジョシュアも、体力(気力も)の限界だったのだ。
まぁ、そのおかげで二人とも元の体型に戻ったんだけどね。
「ところで、料理はいかがですかな?」
「はい。 どこに出しましょうか?」
「では、こちらへ」
調理場へ通された俺は、オーガとオークの角煮、マタンゴのガーリック炒めを出した。
モコのことで料理どころではなくなってしまって、あとは惣菜コーナーで買った。
唐揚げ、ハンバーグ、春巻き、ぎょうざ、ポテトサラダにトマトサラダ、デザートにはシュークリーム。
これ、パーティメニューか? という疑問はさておいて、味は保証できる。
「ハヤシさん、なんですか!? この料理は……!!」
食べものの匂いにやられたのか、テオドールさんは目がギラギラしている。
「あと、これが風呂道具一式です」
酒樽に入ったシャンプーやトリートメント、石鹸を取り出す。
「テオドールさん、これでシャンプーとトリートメントは本当にこれで最後ですからね」
「………………」
俺は石鹸を山盛り出しながら話しかけるが、答えがない。
振り返ると、案の定、テオドールさんは試食という名の爆食いをしていた。
「ちょ、ちょっと……!! 食べ過ぎですよ!!」
「あ、あぁ、つい……! でもハヤシさん! どれもこれも本当に美味しいです!!」
「あぁ、良かった」
「では、パーティのときに貴族や領主様に料理の説明もお願いしますね?」
「え? いやいやいや、俺は出席しませんよ?」
「え?」
「え?」
「ハヤシさん、お願いします! 是非、出席してください! 私、出席してもらうって言ってましたよね?」
うん? そうだっけ?
「いえ、申し訳ないんですが、モコも体調悪いですし、私はこれで失礼します」
「そんなぁ〜〜〜」
モコとジョシュアが二人きりだし、俺だけパーティなんかで浮かれてる場合じゃない。 ジョシュア一人でモコの相手をずっとさせるわけにはいかないからな。
「では、こちらがお礼です」
ぎっしりと金貨が入った麻袋を渡された。
「なんか、多くないですか?」
「いえいえ、ハヤシさんにはお世話になりましたし、優勝なんて栄誉に預かれたのは、なんといってもハヤシさんのお陰ですからね。 せめてこれくらいは」
「そんな……。 では、遠慮なく受け取らせていただきますね」
俺はテオドールさんに後ろ髪を引かれながら、パーティ会場をあとにした。
ホテルに戻った俺は、愕然とした。
ジョシュアがモコに全身、みどりの絵の具で色を塗りたくられていたのだ。
「な、なにそれ……」
モコは床で昼寝ている。 姿形だけ見れば、女性誌の表紙のようだ。
「また随分、派手にやられたね……」
「……。 俺、これどうしたらいいの……」
俺もジョシュアも、大人モコの遊び相手で疲れ切っている。
体力が半端ないのだ。
「そろそろ、またダンジョン行ってみようか……」
「うん……」
そうは言ったものの、しばらく経ってもスケルトンも現れなければ、ジョシュアの肌もみどり色に染まったままだった。
まぁ、薄くはなってきたけど。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!