異世界のんびり放浪譚

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第52話 モコとジョシュア

公開日時: 2022年4月13日(水) 22:18
文字数:2,129

「テオドールさん、シャンプーとトリートメントは何度も言いますが少量しか用意は出来ませんよ……?」

「はい! もちろん分かっています! 石けんがメインでというのは、重々承知しております。 ただ……」

 テオドールさんは言いづらそうに、上目遣いで続ける。

「領主様への品評会で優勝したら、その次のステップは各領主毎の地域の優勝者たちが、王族への品評会に出品して競い合う、全国大会の決勝戦がありましてね。 この国一の優勝という栄誉を得ることが出来るのです……」

「な、なんかおおごとですね……」

「はい……。 これは私の唯一の夢なんです……!!」

 えぇ……。 夢とか言われても……。

「いいんじゃない?」

 急にジョシュアが口を挟む。

「な、なんで?」

「もしテオドールさんが優勝したら、その領主の治めてる地域は警備の面とか何かと国から優遇されるから。 ちなみにうちの村もギリ同じ領主なんだけど?」

 ジョシュアは値踏みするように俺を見る。

 チコル村を出されちゃ、拒否なんて出来るわけがない。

「わ、分かりました……。 でも、何回も言いますが、あまり量は期待しないで下さいね」

「ありがとうございます!! このご恩は、一生忘れません!!」

 そう言ってテオドールさんは何度も頭を下げた。

「ちなみにお披露目パーティは三週間後です!」

「はい、わかりました……」

「で、ですね……」

 えぇ! まだなんかあるのか……?

「あの〜、ラウルさんから聞いたんですが、チコルで小麦粉を有効活用された方法を考案されたとか?」

「あぁ、ラーメンのことですね」

「はい! で、小麦粉問題といいますか、食料の保存問題というのは大なり小なりどこの街にもございましてね」

「え、えぇ……」

 嫌な予感だ。

「是非、マリタでもそういったものを考案いただけないかと……。 お披露目パーティのときに発表できたら!と思いまして……。 もちろん! 権利はハヤシさんのものとして登録いたしますから!」

『権利』というのは、ラウルさんからも説明されていた。 つまり、レシピに著作権のようなものがあるのだ。 一般家庭で作成するためには、ギルドに登録されているレシピを購入する必要がある。 といっても値段は銅貨五枚(五百円くらい)だし、以降は作り放題だし、レシピの又貸しなんかはもちろん追わない。

 かたや飲食店ではちょっと違う。 その料理に対する消費税の中にレシピ代金も上乗せされ、1%という、高いのか低いのかよく分からない金額が永続的に入ってくるのだ。

「いやぁ、まぁ、これは時間的にも難しいですよね?」

「そうですね……。 ちょっと難しいかと思います……」

 基本的に料理というのは、登録したギルドの市町村の名物料理になったりするので、どうせするならチコル村でやりたい。

「ま、まぁ、料理はなんとかしますから……」

「はい! で、パーティの出席者は120名ほどになります」

 ひ、ひゃくにじゅう……!?




 ホテルへ帰ると、ジョシュアが言った。

「あのさ、アンタ忙しくなるんだから、その間は俺とモコでダンジョン行ってこようと思ってるんだけど」

「モコも行きたーーーい!!」

「えぇ!? そんなのダメだよ! 何かあったらどうするの?」

「そんなの、簡単なダンジョンしかいかないし。 俺だってこんな所に引きこもってたら、身体が鈍るんだよ!!」

 あ、あぁ、ダイエットしたいのか……。 でもなぁ〜。

「ダメったらダメ!!」

「たかふみぃ、モコ、ジョシュアと行きたい!!」

「モコ、何かあったらどうすらの? 俺はダンジョン行ってる暇ないんだから、ね?」

「アンタ、俺より弱いんだから、居ても居なくても関係なくね?」

 コ、コイツ……。

「でも、モコは登録抹消……」

「登録抹消してたって、ただの同伴者なら関係ない」

 ジョシュアは俺の言葉を遮る。

「とにかくダメったらダメなの!!」


 ジョシュアは諦めきれず、次の日ギルドへ一人で行き、初心者向けの依頼書を何枚か貰ってきた。

「これ、ランクEかF向けのダンジョンなんだけど」

「もう〜、ダメだったら……」

「たかふみぃ、おねがい!! モコもあそびにいきたい!!」

 ウルウルと涙目でモコがしがみついて来る。

 う、うぅ……。

「絶対にこの中のどれかしかいかないし」

「ねぇ、たかふみぃ、おねがい!!」

 確かにEかFなら、大丈夫だろう、とは思う。

「これからお披露目パーティまでずっとモコを外に出さないつもり?」

「そ、それは……」

「こんなの、俺だけでも一、二時間で目つぶったままで行って戻ってこれるレベルなんだけど」

 はぁ〜……。

「分かったよ」

 モコとジョシュアは、パァァァァッと顔が明るくなる。

「でも、一日一個だけ。 必ず行くダンジョンは俺に事前に知らせること。 目撃者がいたら困るからモコには戦わせないこと。 それから、お昼までには絶対に帰ってくること。 これが守れるなら、まず一回行ってみてごらん?」

「分かった。 それでいいよ」

「ヤッターーー!!」


 早速翌日、モコとジョシュアは二人で初のダンジョン攻略をした。

 モコは楽しそうにどんな敵がいたか、ジョシュアがどんな風に倒したかを、実演を交えて微に入り細に入り教えてくれる。

 まぁ、これなら大丈夫かなと安心していたのに、これが後に天地がひっくり返るようなとんでもない大事件を巻き起こすことになるのを、俺たちはまだ誰も知らない。

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