俺がベッドで闇落ちしている間、モコは村にいる数少ない子どもたちとも仲良くなっていた。
今日遊んだ子とどんなことをしたかとか、ラウルさんやメルちゃんとどんな話しをしたかを楽しそうに教えてくれる。
意外にジョシュアにも遊んでもらっているようだったが、モコは気を使って俺にその話はしない。
こんな小さな子に気を使わせるなんて、俺は何て小さいオトコなんだ……、と『思ってはいる』が、俺はアイツを絶対に許さない。
「お~い、生きてっか?」
ラウルさんが見舞いに来てくれた。
「どうだ? 調子は」
「大分よくなってきました。すいません、モコの面倒見ていただいて……」
「いや、それはいいんだけどよ。 兄ちゃん、そろそろレベル上げないとキツイんじゃねぇか?」
「はい……」
「元々、あの辺はスライムとかレベルの低いモンスターしか出ねぇとこなんだよ。モンスターの大発生んときは別としてよ」
「あれでレベルが低いんですね……。 普通に痛かったですけど……」
ラウルさんは、呆れた顔をした。
「あのな、スライムなんか子どもでも戦えるんだぞ?」
「そうなんですか?」
「おめぇんとこのチビくらいのトシでも、やりかたによっちゃ勝てるんだよ……」
えぇ……、俺、ダメダメじゃん……。
「あの~、大規模討伐したから、モンスターはしばらく出ないって話でしたよね? まだ、出るには早くないですか?」
「……。 スライムなんか誤差だろ……」
認識の違いというのは、恐ろしいものだ。
「ってことでよ、どうだ、この辺でレベル上げねぇか?」
「まぁ、出来ればそうしたいですけど……」
「よし、そうこなくっちゃな! でよ、兄ちゃん危なっかしいからな、うちの倅をレベル上げの護衛に付けてやるよ」
えぇぇぇぇぇぇぇぇ?? 絶対にイヤだ!! ナカジマと営業に同行するのと同じくらいイヤだ!!
「そんなあからさまにイヤな顔すんなよ……。 あれでもアイツ、強ぇんだぞ」
本当にジョシュアは強いらしく、あの年齢でBランクだという。
国内でもあれだけの若さでBランクの強さを誇るのは、ジョシュアだけだろう、とラウルさんは言った。
「アイツのリハビリにもなるしよ、どうだ? またスライム出たって、困んだろ?」
えぇぇぇぇぇぇぇぇ~……。確かに、俺一人でどうこう出来るとは思えないけど……。
「それによ、アイツも兄ちゃんに懐いてるみたいだしな」
は?あんな態度悪かったのに?
「……。 その心は?」
ラウルさんの話によれば、ジョシュアは討伐に行き、骨折して帰ってきてからほとんど口をきくこともなくなったそうだ。
「きっと、俺たちには言えないような酷い目にあったんだろうな。 それにまぁ、他にも色々あってよ……」
そんな状態のジョシュアが、俺の話しやモコの話しは家の中でもするようになったからこれは懐いているぞ、ということらしい。
「アイツはよ、昔はよく喋る子だったんだけどな……」
え、俺の前では結構喋ってますけど。
え、っていうか何この感じ。
何やら訳アリ最強美少年の護衛を断ったら、俺が悪者になりそうなこの感じ。
なんかメンヘラくせぇし、面倒だから断りたいんだけど……。
「な、兄ちゃん、どうせなら仲良くしてやってくんねぇか? アイツが変わるキッカケになるかもしれねぇし、兄ちゃんにとっても悪い話じゃないだろ?」
生きてく上で、若さというのはとてつもない力を持っている。
どんなに生意気だろうが、態度が悪くかろうが、ある程度のことは「アイツはまだ若いから」の一言で大抵、許される。
かたや三十路以降はどうだろう。
若さが失われた人間が若者と同じことをすれば、頭が悪いと馬鹿にされるだけだ。
そして大人の一番面倒なところは、そういった若者の生意気さを真に受けて拒絶をすると、器が小さいと思われることだ。
そして俺は、そんな器の小さい人間の中の一人だ。
ここが地球であったなら、俺はこの申し出を断っただろう。
でも今はモコがいる。
モコを守るためにしょうがなく、俺は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「じゃあ、お願いします……」
「すげぇ顔だな」
と笑いながら、ラウルさんは嬉しそうに帰っていった。
そこから俺は道具屋で装備を整え、明日からのスライム狩りに備えた。
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