夕食会は、それはそれは悲惨なものだった。 なんだかよく分かんない豆をトマトと煮たものと、オークを塩コショウで焼いたもの(ステーキ)、ベチャベチャしたスポンジのようなケーキ……。
お呼ばれしたのにこんな事言うのもなんだが、はっきり言って不味かった。
「どうですか? 皆さん、お口に合いましたか?」
シャロンさんの一言に、俺は
「凄く美味しかったです」
と、社会人として当然の返しをせざるを得ない。
にも関わらず、ラウルさんもメルちゃんも、俺とリリーさんのせいで舌が肥えたせいか、
「お、おう……。 う、美味いよな!? なぁ、メル!?」
という正直な態度を取りやがった。
「………………。 美味しいですね」
メルちゃんは無表情で無機質な返しをし、俺はジョシュアとの血の繋がりを痛感しているところだ。 この兄妹が見せるこれって、母親似なのか?
シャロンさんは俯いてしまい、ラウルさんはアワアワしていた。 ラウルさんが咎めるようにメルちゃんを見ると、氷の女王のような一瞥をラウルさんに喰らわせ、ラウルさんは視線をススーッと逸らした。
うん、これはきっと母親似なんだろうな。
モコはというと……。
「モコ……。 ポンポンいっぱい……」
と不味いとは言わずとも、食べることを拒否した。 い、いつの間にこんな気の利いた嘘を付けるようになったんだ、モコ!?
それからも会話は特に弾まず、二人が付き合っている確証も得ることができなかった俺は、居心地の悪さに辟易し早々に家路に着いた。
家に着いたモコは、
「おなかしゅいたーーーーー!!」
と玄関で大の字になって暴れ、早く何か食べさせろ!! と癇癪を起こしたので、インスタントラーメンをご所望されているモコのために、大量の味噌と塩味の二大巨頭を献上した。
大満足したモコはポンポコに張ったお腹をさすりながら風呂に入り、気づけば水面に仰向けになって寝ている。 な、なんて人生を謳歌しているんだ、コイツ……。
明くる日、俺とモコは王都へ移動魔法で向かった。 というか、王都へは結構頻繁に来ている。 王やオーガスタスさんがまた憑依されていないかチェックをするためにね。
「いやぁ、モコ殿とハヤシさんのおかげで、本当に助かってますよ〜」
「はは、お役に立てて何よりですよ」
「今日も昼食、ご一緒できますよね?」
オーガスタスさんは人懐っこい笑顔で、YESの返答を待っている。 昼食はいつも俺が作ってるんだけど、それが楽しみらしい。
「今日は用事があるので、これで失礼します」
「えぇ〜!? どうしてですかぁ? 王もレオンハルトたちも、ハヤシさんの料理を毎回楽しみにしてるのにぃーーー!! なになになに!? 何の用事があるんですか?」
しつこいなぁ……。
「ちょっと今日は、アースドラゴンの討伐に行かなきゃいけないんですよ」
オーガスタスさんは目をクリクリさる。
「それは大変だ! 引き止めちゃ不味かったですね。 では、昼食はまたの機会に!!」
ただ俺の料理を食いたいだけのオーガスタスさんは、悔しそうに見送ってくれた。
っていうか、アースドラゴンの討伐なんてウソだ。 いや、まぁ、行くんだけどさ、今じゃない。
実は昨日、ラウルさんの家からの帰りを、リリーさんに見られてしまったのだ。
「あら、こんな遅くまで兄さんちに居たの?」
「はい。 シャロンさんが料理を振舞ってくださって……」
「!? なんで兄さんちでシャロンさんが料理なんか作るのよ!?」
根掘り葉掘り聞きたがったリリーさんだったが、空腹の限界に達していたモコの「はやくかえる!!」という駄々に負け、彼女は知りたいことを聞けなかったのだ。
「いい? 明日、うちの店に来てちょうだい!! 詳しく話し聞きたいから!」
というリリーさんの圧に負け、俺たちはこれからリリーさんの店へ行かなければならない。
店へ着くと、村人組はラウルさんの噂で持ち切りだった。
「よう、ハヤシさん! 昨日ラウルんとこでシャロンさんの手料理食ったんだって!?」
どこで情報を仕入れたのか、みんな話しを聞きたがった。
「ハイハイハイ! アンタたち余計なお世話だよ! ハヤシさんは私に用があって来たんだから、邪魔しないでちょうだい!」
リリーさんはそう言うと俺の首根っこをつかみ、厨房まで引きずって連れていった。
「で? どうなの? あの二人、付き合ってるの?」
リリーさんは俺の鼻先すれすれまで顔を近づけ、目を大きく見開き聞いてくる。
「リ、リリーさん、ち、近い、近いです……。 っていうか、自分で聞けばいいじゃないですか……?」
リリーさんは呆れた顔をし、
「あのねぇ、ハヤシさん。 兄と妹で色恋の話しなんて、気持ち悪くて出来ないわよ」
「そ、そういうモンですか?」
「そういうもんよ。 で? 付き合ってるの!?」
「そんなの、俺も分からないですし、俺だってなんか聞きづらいですよ……」
はぁ〜っとため息をつき、リリーさんは俺から少し離れた。
「で? 料理は何が出たの〜? 美味しかった?」
リリーさんはもうすでに興味が薄れたようで、野菜の棚をゴソゴソしながら聞いてきた。
「あのねぇ、ぜんぶおいしくなかったの……」
モコがしょんぼりして言うと、リリーさんは片方の眉を上げフッと笑ったのを、俺は見逃さなかった。
こ、小姑、こえぇ……。
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