翌朝ギルドへ行くと、ラウルさんが開口一番に言った。
「よぉ、よく来たな成金!」
そう言うと、ラウルさんが麻袋をカウンターにドン!ドン!と山積みにして置いた。
「これが買い取り金だ。 全部で金貨3,758枚ある」
え!? マジか!? すげぇ!! 俺、こんなにカネ持ちになるの初めてだ……!!
「すげぇ……」
「あぁ、すげぇよな! 枚数確認するか?」
「いえいえ、信頼しているので大丈夫です……」
俺はどうにも顔がニヤけてしまう。
「キマイラキングだからな、なんたってよ。 角やタテガミなんかも良い値がつくし、キングに関しちゃ目ん玉が変態貴族に重宝されるんだよ」
「め、目ん玉……」
「あぁ、珍味で滋養強壮に良いらしいぞ。 アッチの方にな。 それに蛇の皮は高級バッグとして奥様連中に人気だ」
「へぇ……。 そうなんですね……」
S級モンスターというのは爪の欠片、血の一滴も捨てるところはないようで、この高額買い取り価格になるらしい。
「ところでよ、ドロップアイテムはなかったのか? 無い訳ないんだがな」
「あ! 色々あってすっかり忘れてました……」
俺は昨日キマイラキングと一緒に拾ったまま、すっかり忘れていた魔石付きの腕輪を出した。
ついでに鑑定してみよっと……。
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鑑定:キマイラの雫
Sランク
肌に直接装着することで、モンスターからの経験値を多く取得出来る効果を持つ。
※装着時ステータス極大アップ
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「レアドロップだな……」
「はぁ……」
「これは売らねぇんだろ?」
「え? 売りますよ」
ラウルさんは大きくため息を付いた。
「あのなぁ兄ちゃん、まずおめぇはレベル低いだろ? それにチビとこんだけレベルの差が出てるんだからよ、それ持ってさっさとレベル上げて来い!」
あぁ、そうか……。
「兄ちゃんは、いっつも逃げ腰だなぁ」
とラウルさんが苦笑した。すいません、上期下期の個人面談でもいつも言われてました、そのセリフ。
「でも、またキマイラキングみたいのが出たらどうしたらいいんですか?」
また逃げ腰な事を聞いてしまう。
「まぁ、キマイラキング程のモンスターがどうしてあそこにいたのかは俺にもよく分からん。 でもな、ここでグジグジしてたってしょうがないだろ?」
キマイラキングの出現については、念の為調査依頼をするそうだ。
「ま、こんな田舎のことだからいつ調べてくれるかなんて分かったもんじゃねぇがな」
「はぁ……」
「でよ、話は変わるんだが、コレが兄ちゃんに料理してもらいたいキマイラキングの肉だ」
ラウルさんが俺に差し出した肉は、恐らくキマイラの胴体部分で、2キロ程度の肉だった。
「え、村の方みなさんで食べるんですよね? 少なくないですか?」
村には数十名が残っているはずだ。
「あのなぁ、キマイラキングの肉だぞ? こんな貧乏人しかいねぇ村で食えるような代物じゃねぇんだよ。 これが俺たちに買える精一杯だ。 たったこれっぽっちでも、俺たちにしたら贅沢な量なんだよ」
「そうなんですか……」
先祖祭りの為に、村のみんなでお金を出し合って買った貴重な肉なのか……。俺なんかが手を出していいんだろうか……。
「じゃあ、よろしく頼むな、楽しみにしてるからよ」
「……はい。 ところで、あとの料理は何が出るんですか?」
「あぁ、まぁ、今年は兄ちゃんのインスタントラーメンをリリーが作るって言ってたな。あとはドライフルーツとかチーズとかの持ち寄りだな」
え? お盆にインスタントラーメン? それってあんまりなんじゃ……。
俺が神妙な顔をしているのに気づいたラウルさんは、
「なんだ? もっと良いもん食いたかったか?」
と言った。
「あぁ、いや……。 別にそういうわけじゃ……」
俺は村のみんなの負担にならない程度に、何か作ってあげたいな、と思った。
「今日もレベル上げ行くんだろ? 念の為、森には近づくなよ」
「はい、もちろんです」
被せるように俺は答えた。
さて、これからはラウルさんの忠告通り、村の近くでレベル上げをしよう。
それにモコも一緒連れて行くから安全第一だ。メルちゃんにいつまでも甘える訳にもいかないし、祭りの準備で忙しそうだったしな。
モコと手を繋いで草原へ行くと、すでにジョシュアが腕を組んで俺たちを待ち構えていた。
「あ、ジョシュア! おはよう〜!」
とモコが元気よく挨拶をする。
「……。 はよ……」
モコに出鼻をくじかれたからか、ジョシュアは居心地悪そうに不貞腐れている。
「ジョシュア君、おはよう。 今日もよろしくね」
「……。 ねぇ、昨日なんかあったの?」
「あのね〜、きのっ……」
話し出そうとするモコの前に俺は咄嗟に立ち、
「いや? 別に何もないよ」
とシラをきった。
ラウルさんからキマイラキングの件がバレると騒ぎになるから誰にも言うなよ、と口止めされていたのだ。
「……。 ふ〜ん? まぁ、別にどうでもいいけど」
気だるそうにジョシュアが言いながら、どんどん早足でいつもとは反対の方へ進んで行く。
「えっ……。 あの、もうちょっと村に近い所のほうが良くない?」
俺はモコを抱えて小走りでジョシュアに着いて行く。
「……。 なんで?」
「あ、いや……」
それからジョシュアは何を言っても答えてくれずにどんどん進んで行った。
川のほとりまで歩くと、そこには小さな洞窟があった。
「……。 はい、中に入って」
「え……? 大丈夫なの? これ」
「……。 大丈夫だから。 いいから早く」
俺は訝しがりながらも中へ入った。人ひとりがやっと通れるくらいの狭さだった。
後ろからモコとジョシュアが手を繋いで付いてくる。
「ねぇ、まだ進むの?」
「……」
「ねぇ、もう一時間位歩いてない?」
「……」
「ねぇ、戻ったらダメ?」
「……。 当たり前」
はぁ……、本当に大丈夫なんだろうな。またしばらく進むと、出口が見えてきた。出口の光に向かって進んでいくと急に視界が開け、そこは森の中だった。
「え? 森?」
「そう。 森」
「え? 大丈夫なの?」
「ここにはオーガの集落があるんだ。 でも、お兄さんキマイラキング倒したほどの実力者なんだから大丈夫でしょ?」
ジョシュアは初めて俺に笑顔を見せた。
あぁぁぁぁ!! バレてる!! それにジョシュア!! お前、色々勘違いしてる……!! 倒したのは俺じゃない!! 大人のモコなんだ!!
森の中を見渡すと、数メートル先に大量のオーガがいた。どうやら本当にここはオーガの集落のようで、オーガたちも俺らに気づいてびっくりしている。
「さ、お手並み拝見!!」
ジョシュアは、更にニッコリと飛びきりの笑顔を見せた。
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