領土については、丁重にお断りすることにした。 やっぱり国に縛られるようなことは面倒だったし、俺はというより、モコにはいずれ負担になるだろうと思ったからだ。
「そんなぁ〜。 領土いらない人なんて、初めて聞きましたよ〜」
オーガスタスさんは、情けない声で嘆いた。
「領土なんて、どうしていいか本当に分からないですもん」
「じゃあ、代わりに何が欲しいんですか?」
「ん〜〜……」
俺は自分が死んだあとのモコの為に、今はとにかくカネが欲しかった。
「なんかいやらしいけど、報奨金的な……?」
「あっ……」
オーガスタスさんは、微妙な顔をしている。
「その……。 言いづらいんですけど、今、うちの国、財政が逼迫してまして……」
「え!? こんな凄いお城で、金銀ギラギラの装飾されてるのに……?」
「いやハヤシさん。 随分長い歴史もあるんですから、城なんてどこもそうですよ。 というより、やはり私たちが憑依されている間に色々と会計がおかしなことになってまして……」
そう言うと、オーガスタスさんは、はぁ〜〜〜っと大きなため息をついた。
「とにかくうちの国は大きいですからね。 領土なら差し上げられるんですが……」
「そ、そうなんだ……。 いや、じゃあ、別に褒美とかもういいよ」
オーガスタスさんはスっと立ち上がり、
「そんなわけには行きません!! 我々にもプライドってもんがありますからね。 この件は、私と王でじっくり話し合います!!」
と言いながら大股で部屋から出ていった。
チッ、カネ払えねぇのかよ、という俺のダークサイドの部分がニョキニョキと芽を出しはじめた。
カネだ、カネがいる。 思いのほか、家にカネかけ過ぎたのが忍ばれるぞ……。
それに些細なことかもしれないが、連日の毛ガニ爆買いでかなりの散財をしている。
依頼ばかりを受けるだけじゃなく、商売もしたほうがいいのかもしれない。 モコは随分長寿っぽいし、俺が居なくなっても不憫な思いはさせたくないからな。
ただお金を溜め込むだけじゃなくって、経済が回るようにしてこの世界に負担をかけないようにしなければ……。
「よし!!!」
「どーちたの?」
モコがビックリして俺を見つめた。
「モコ、俺、頑張るからな!!」
「なにを?」
「うん??? モコの為にいっぱい頑張るんだよ〜!!」
そう言ってモコをこちょばすと、キャッキャとはしゃいで喜んだ。
王とオーガスタスさんに、褒美は商人ギルドと冒険者ギルドとのダブル登録(冒険者ギルドと同時登録は通常出来ない) を特例で認めて欲しい、ということと、店を持つに当たり、俺が死んだ後も様々な権利は全てモコが相続出来るよう、根回しをお願いした。
微々たる金額しか入ってこないレシピの権利も、モコに相続させてもらえるそうだ。 長い目で見れば、レシピの販売・登録量を増やせばそれなりの収入になるだろうし。
ギルドのダブル登録に王は渋い表情を見せたものの、ウロボロスやこのナウリーノ国で起こるモンスターの討伐はできる限り協力する、という約束をしたことによって、無事俺の願いは聞き入れてもらえることになった。
「まずは何から始めるんだ?」
チコル村に帰りラウルさんへ報告すると、ラウルさんは素朴な疑問をぶつけた。
「うぅ〜ん、まずは出来ることから順を追っていきたいので、レシピを売っていこうと思います」
ラウルさんは腕を組みながら、宙を見つめる。
「そうだなぁ〜。 店は大変だし、その方がいいかもな」
「はい!! 今日から早速レシピをいっぱい書いて、リリーさんにも店で出してもらおうと思ってます!!」
いつになく気合いの入っている俺に、ラウルさんとモコは少々面食らっている。
「兄ちゃんもそんなヤル気のある顔するんだな」
そう言いながらも、ラウルさんはなぜか嬉しそうにしていた。
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