ギルドと広場を挟んだ迎えのにある宿屋に入ると、そこは食堂部分が一階の大半を閉めていた。夕食時なのに誰もいないけど…。
誰もいない宿のカウンターでベルを鳴らすと、
「はいはい、いらっしゃいませ~」
美人な恰幅のいい中年女性が出てきた。
「あら!随分とかわいい男の子ねぇ~!」と、モコに笑顔を向けるが、モコは恥ずかしがってプイッと横を向いてしまった。
「すみません、人見知りで…。部屋は空いてますか?」
「アハハ、ガラ空きよ!何泊?」
明るい人だな…。
「あの…、一泊おいくらでしょうか?」
「一泊二人で、銀貨五枚だよ」
なるほど。そうなるときっと、銀貨一枚千円くらいの貨幣価値だな。俺の全財産は金貨四枚と銀貨二枚、つまり大体四万二千円くらいか。一日五千円の宿代、食費やその他と考えたら、全然余裕が無いぞ…。
「とりあえず三泊お願いします」
「はいよ。ただ、申し訳ないんだけど今は食料不足で満足な食事が出せないんだよ。食堂も閉めてるしね。パンとスープくらいしかないけど、どうする?」
「あ、今日のところは大丈夫です、携帯食があるので」
俺はネットスーパーを使ってみたかったので、申し出を断った。
案内された部屋は、質素だが清潔感のあるツイン部屋だった。
モコをベッドに下ろし、俺もベッドに雪崩れ込んだ。あぁ、疲れた…。腰が抜けそうだ。
「たかふみ~、モコ、本当のモコになっていい?」
「あぁ、もう戻っていいよ」
するとモコ曰く本来のフェンリルの姿になった。が、俺には昔のままの日本スピッツにしか見えない。
「モコ…。フェンリルってその姿なの?」
『モコはね、フェンリルだけどまだ子供なの。でもね、大人になったら、す~ごく大きくなるんだよ』
(まぁ、素直にそういうもんだと受け止めるしかないか)
モコの声は耳から聞こえず、脳内に直接聞こえた。モコによると、フェンリルというかスピッツのときも人間のときも、俺とはいつでも互いに念話が使えるそうだ。
『たかふみ、モコお腹すいた…』
だよね。俺はベッドに横になりながら、ネットスーパーの画面を出した。
「ドッグフードはどこかなぁ~」
『ダメダメダメ…。ダメなの~。たかふみとおんなじのがいいのぉ~…』
「えぇ???人間のものなんて食べていいの?」
『いいの…。フェンリルはね、病気も毒もないないなの。神様が言ってたの…』
まぁでも、実際犬じゃないしな、そういうものなんだろう。
俺は銅貨五枚の唐揚げ弁当を選び、銅貨を入れ二つ買った。おぉ~~~、すげぇ~~~!ちょっと感動。
一つをモコに渡すと、スピッツの姿のまま尻尾を振り回しながらガツガツと食べ始めた。
モコ用の水入れも買い、それに一緒に買ったペットボトルの水を入れた。
ふぅ…、よし、俺も弁当食うか。
『たかふみ、おかわりぃ~』
「え?もう食べたの?」
小さいとはいえ、フェンリルの食事の適正量がわからない…。
「大丈夫?ポンポン痛くならない?」
『変身するとすっごくお腹が減るの~。いっぱい食べないとすぐ疲れてお耳と尻尾が出ちゃうから気を付けなきゃだめって神様に言われたの~』
はい、分かりました。そう言われたらしょうがない…。
この流れを何度も何度も繰り返し、結局、弁当七個、菓子パン十個、地球にいたときに大好物だった干しいも三袋を食べた。そこまで食べて、『まだ食べたい…』と一言言い残し、寝落ちした。
カネだ…。カネがいる…。
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