「だから嫌だって言ったんだ!」
「お兄ちゃん! うるさい!」
「うるさいってなんだよ! 妹のクセに!」
「……。 そういうところだよ、お兄ちゃん」
「そういうところって、どういうところだよ!?」
「嫌われる理由っていうところ」
メルちゃんは、スンッとした表情で吐き捨てる。
「……」
ぐぅの音も出ないジョシュアは、そのままメルちゃんにリリーさんのラーメン屋の手伝いとして強制連行されていった。
メルちゃんはモコのことは意外とすんなり受け止めていた。 それは驚きだったけど、若いっていうのは柔軟に物ごとを受け止められるっていうことなのかもしれないな。
「兄ちゃんのおかげで助かったよ。 リリーの店、本当に大変でなぁ。 一日だけでもバカ息子がいてくれるのは大助かりだぜ」
リリーさんの店は冒険者が増えて常に部屋は満室、ラーメン屋も大盛況で、まさに猫の手も借りたい状況のようだったので、ラウルさんはジョシュアを手伝いに遣わせることに大賛成だ。
『日曜日にまた来い』とラウルさんに言われた俺は、嫌がるジョシュアをなんとか説得し、今日、村に連れてきた。
別に置いてきても良かったのかもしれないけど、いつどうなるか分からない討伐隊へ戻るジョシュアを、どうしてもラウルさんと会わせてあげたいと思ったんだ。
まぁ、余計なお世話だろうけど。 それに、会ったところでお互い気恥しいのか、特に会話もなかったし、さっさとラーメン屋に引きずられて行っちゃったし。 俺の意図とは違ったけど、親子だから言葉を交わさなくても分かることがあるだろうから、ま、いっか。
「あのな、兄ちゃん。 海竜なんだけどな、これはかなり長丁場になるんだよ。 俺も日曜以外はギルドが忙しくてこっちまで手が回らねぇ。 それでもいいのか?」
「はい。 別に俺はどんなに時間がかかっても構いませんので、ご迷惑じゃなければこちらでお願いしたいです。 本当、お手隙のときにやってもらえばいいので……」
マリタのギルドもイマイチだったし、ヒジャーバのギルドはそもそも論だし、ラウルさんのギルドに対応してもらえれば万々歳だ。
「そうか。 分かった。 まぁ、うちで海竜の解体なんてやらせて貰えるのは、こっちもありがてぇからな」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだろうが! こんな貴重なもん取り扱ったらよ、ウチにも本部から幾ら入ってくると思ってんだよ」
「あぁ、そうなんですね。 ではお言葉に甘えて、よろしくお願いします」
「おぉ」
「で、ですね、ついでと言っては何なんですが、モコが持ってるスケルトンロードとか、AとかSとかのスケルトンとか、ダークワイバーンとかもありまして、それも後々でいいのでお願いできないでしょうか?」
ラウルさんの眉間にシワが寄った。
「ランクがAとかSのスケルトンなんか、いねぇぞ? よくてDってとこだろ。 ん? お前、今、ダークワイバーンっつったか?」
「はい」
俺とモコはそれぞれ一体ずつ、Sランクのスケルトンとダークワイバーンを見本としてアイテムボックスから出した。
「……。 どうなってんだよ、お前ら……」
「モコはちゅよいから!」
「お、おう……」
相変わらずラウルさんは、モコとどう話していいか分からないらしい。
「ねぇ、モコ、すごい?」
「お、おう……。 すごいな、ボウズ……」
「あたまなでて!!」
「えっ!?」
グイグイとモコはラウルさんに迫っていき、しょうがなさそうに頭をなでる。
「もっとちゃんと!」
ラウルさんはモコに叱られてながら、いい子いい子してあげていた。
「じゃあ、どうすっかな……。 とりあえずダークワイバーン、うちの庭に出せ」
「はい」
ギルドの裏庭へ歩きながら、ラウルさんが言う。
「肉はどうする? いくらかは売って欲しいんだけどよ」
「あぁ……。 じゃあ、どうしようかな……。 半分はこっちにください」
「分かった」
ダークワイバーンとスケルトンの山盛り、スケルトンロード七体を取り出すと、ラウルさんは片目を吊り上げながら困っている。
「まぁ、なんとかするわ……。 でもな、ダークワイバーンは一旦この三分の一にしてくれ。 保存出来る冷凍庫が足りねぇからよ」
「分かりました……」
海竜はまた片腕だけ草原で切り取り、ラウルさんはギルドへ帰って行った。
「じゃあ、また来週な」
「はい」
ラウルさんは「まず、冷凍庫注文しなきゃなんねぇな……」とブツブツ独り言を言いながら、ギルドへ帰って行った。
リリーさんの店へジョシュアを迎えに行くと、そこそこ店内は混んでいて、とてもじゃないが俺たちがラーメンを頼める雰囲気ではなかった。
「ジョシュア!」
モコが話しかけると、ジョシュアは忙しそうに言った。
「ごめん、モコ。 今、注文待ちも結構あって遊んであげられないんだ……」
「え〜〜〜、ざんねん! メルは!?」
「メルは厨房でラーメン作ってる」
「しょっかぁ……」
俺の方に向き直り、ジョシュアは恥ずかしそうに言った。
「あ、あのさ……。 今日はこっちに居ようと思う……」
ジョシュアは店を手伝ってあげたいんだろう。 なんだかんだ言って、家族だもんな。
「あぁ、分かったよ」
「明日、迎えに来て」
「うん」
「で……。 今、おばさんの宿も満室で、うちも空き部屋なくて……。 その、泊めてあげられないんだ……」
「フッ。 大丈夫だよ、気を使わなくって。 俺たちはヒジャーバに戻るから」
かわいいことを言うので、俺は思わず笑ってしまった。 まぁ、速攻で睨みつけられたけど。
ヒジャーバの宿へ戻ると、モコはラーメンモードになっている。
「モコ、ラーメンたべたいなぁ……」
そう言って、チラッチラッとこっちの様子を伺ってくる。
「ハハ、分かったよ。 じゃあ今日はラーメンな」
「やったー!!!」
そして俺は大量のラーメンを作り、オークとオーガで手作りチャーシューも大量に作った。 これがモコには大ヒットだったようだ。
俺はリリーさんのラーメン屋へおすそ分けする分も取分けておいたし、明日の準備は万端だ。
その日は久しぶりにモコと二人っきりだったので、ジョシュアがいない分、モコの遊んで遊んで攻撃を全て俺一人で受け止めなければならなかった。 これが、本当に大変だった。
ジョシュアがいないことで、いかに普段からジョシュアがモコと遊んでくれていたのかを痛感しながら眠りについた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!