怪我の功名とはよく言ったもので、力まかせに生地を練ると旨い麺ができるということを、俺はナカジマから教わった。
これで残りの小麦粉でも失敗せずにインスタントラーメンを作ることが出来るってもんだ。
ありがとう、ナカジマ!
昨日の溶かしただけスープでラーメンを作ってみると、ラウルさんとモコには大好評だった。
「お、これ、結構いいんじゃねぇか?」
「うまい! うまーーい!」
良かった……。
「おい、ジョシュア。 お前も食わねぇか?」
「……。 いらない。 俺、もう用がないなら先に帰るから」
でしょうね。
彼はそう言うと、さっさとダルそうに帰って行ってしまった。
「兄ちゃん、すまねぇな。 大変だったろ?」
「あぁ、いえいえ……」
「アイツもよ、色々あって大変なんだよ。 悪いことしたな」
「はぁ……。 何かあったんですか?」
「いや、まぁ、ちょっとな……」
ラウルさんが言いにくそうにしていたので、俺はそれ以上聞くのを止めた。
インスタントラーメン作りの中でただ一つ残念だったのは、液体スープにドライの魔法をかけても粉末スープがうまく作れなかったことだ。
どうしたもんかと考えていると、
「スープはよ、この麺に合うようなのをリリーに考えてもらうから大丈夫だぞ。 そこまで甘えてらんねぇしな。 とにかく、古い小麦粉を活用出来るようにしてくれただけで大助かりってもんだ」
そう言ってもらえて、俺はホッとした。
まさか味噌や醤油を渡すわけにもいかないしな……。
さて、今日の俺にはインスタントラーメン作りに匹敵するほど大事な用がある。
塩と胡椒の買い取り依頼だ。
「そういえばラウルさん、今日、買い取りをお願いしたいものがあるんですが…」
「あぁ、なんかあんのか?」
「あ、あとでメルちゃんの所に持っていこうかと思っていたんですけど……」
「モノは何だ?」
俺は、昨日の夜に用意しておいた塩と胡椒を、ドヤ顔でラウルさんの前に差し出した。
「……。 塩と胡椒だな」
あ、これ、ダメなやつだ。
営業に行ったときに、これは取れないなと部屋に入ったときの空気で分かるときがある。
まさしく今、そのときの空気がこの部屋に充満していた。
「あ、あの…、塩と胡椒って貴重だったりしないんですか……?」
「あぁ~~、う~~~ん、言い辛いんだけどよ、そこまで貴重じゃねぇな」
基本的に塩胡椒は味付けに必要不可欠なものなので、そもそもの製造量が多いのと、モンスターの大発生以降も不足しないようさらに増産し、流通も頻度は少なくなったとはいえ確実に入荷するものなので特に貴重なものではない、ということだった。
(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??? う、嘘だろ……。 普通これで一攫千金なのでは……? )
「まぁよ、質は良さそうだから、あとでメルに売ってやってくれや」
結局、メルちゃんのところに持って行ったところで、税金が引かれて銅貨七枚にしかならなかった。つまり、七百円ほどにしかならなかったのだ。
はぁ~あ……。
それから一週間、俺とモコは午前中はリリーさんの台所で残りの小麦粉でインスタント麺作り、午後からは草原でアイテム探しと、それなりに楽しい日々を過ごしていた。
モコはラウルさんやメルちゃんによく懐き、ギルドに行くのが楽しみになっているようだった。
そんなある日、モコと俺は草原へ向かおうと宿を出ると、偶然メルちゃんと出くわした。
「メルゥ~~~!」
「あ、モコちゃん! ハヤシさん、こんにちは!」
モコはメルちゃんに抱きついた。
「これから草原ですか?」
「うん、そうなんだよね」
「メルも一緒行く?」
メルちゃんは笑いながら、
「私は行けないよ~。 お仕事があるからね」
「イヤ! メルも行くの!」
モコが愚図りだした。
「こらモコ、だめだよ」
「ハヤシさん、よければ今日一日モコちゃん預かりましょうか?」
「え?」
「冒険者の方もあまりいらっしゃいませんし、私もモコちゃんと一緒に遊びたいし、父もモコちゃんがかわいいみたいで」
「やったーー!! モコ、メルと遊びたい!」
俺はこの一週間で大体どういうところにアイテム素材の植物が生息しているか分かってきたし、モコがいなくても今日一日くらいは大丈夫かな。鑑定スキルもあるし、ま、いっか。
それに、せっかくの申し出を無下に断るのもなんだしな。
「じゃあモコ、今日だけだぞ? メルちゃんとラウルさんの言うこと、よく聞くようにね」
「はーーい!!」
そして俺は、一人で限りなく村に近い草原でアイテム探しを始めた。
ものの十分ほどだろうか、一人でアイテム探しをしていると、右頬に鈍痛を感じた。
「え?」
気付くと俺の周りには、一匹のスライムがいた。
嘘だろ、俺、スライムにどつかれたんだけど。
え、これからどうしたらいいんだよ……。
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