(シャンプーとトリートメント、もう詰め替えたくないな…)
( シャンプーの買い取り価格ってトリートメントの半額だし、やってらんないよなぁ……)
(あ、デコポン食べたい。 あとで買おっと)
(そういえば、石鹸をシャンプーとして使ってる人達に液体シャンプー売るのは難しいって、テオドールさん言ってたよな……)
(トリートメントはすぐにツルツルになるから、高額っつってたし……)
(それにしても腹減ったな……。 夕食なんにしよっかな〜。 生姜焼きにするかなぁ)
(魚食いたいけど、あのオーブンデカすぎて、ここじゃ使えないよな。 フライパンで焼くのも、部屋に匂いが充満するからダメか)
(つーか、炊飯器があったのはラッキーだった。 電子レンジがあれば良かったのに。 レシピサイト見てもレンジで作れる! みたいの多すぎなんだよ……)
(あぁ〜、カラ〇ーチョ食べたい。 スティック型のやつ。 アイスクリームと無限ループするか)
(今日風呂入るの面倒臭いな〜)
(ん? なんだ? みんなして俺のこと見てるけど……)
「……ということで、ハヤシさんもよろしいでしょうか?」
ローレンスさんが、おどおどしてこちらを見ている。
あ、ヤバい。 俺を完全スルーした会話に飽きて、自分の世界に入ってた……。
「あ、ごめんなさい。 ちょっと考え事しておりまして……」
ジョシュアは目を細めてあきれ、モコはお詫びの品にもらったお菓子に夢中、ギュンターさんは全く俺に興味がない感じだ。
「す、すいません……。 もう一度よろしいでしょうか?」
「私から説明します」
ギュンターさんが口を挟む。
「まずはこの前の伝書局のガルという女性との一件ですが、ギルドへも情報共有という形で連絡がございました。 それは、聖アルフォンソ騎士団のジョシュア様がいらっしゃるという点です」
このギュンターという人は、黒髪のスラッとしたハンサムな男性ではあるんだけど、どうも本心から話していないというか、淡々とし過ぎているというか、ドライな感じがなんだかなぁ。
「ローレンスさんがこちらにお伺いすると伺ったので、今回ご一緒させていただきました。 是非、ジョシュア様には依頼を受けて欲しい旨、お伝えするためです」
「はぁ」
「依頼と言いますのは、ここから徒歩で一日ほどのところにミスリル鉱山があります。 現在は取り尽くしてしまい閉山している山なのですが、そこに最近、ワイバーンが棲み着いてしまいました。 是非、その討伐をお願いしたいのです」
えぇ……。 ワイバーンって聞いたことあるけど、なんだっけ……。
「ジョシュア様からは、ご了承いただけました。 早速、明日から言っていただけると了承いただけたので、ホッとしました」
ちょっと待って。 何それ。 そんなのダメだ。
「いやいやいや。 ちょっと勝手に話しを進めないでください」
「はぁ? ぼへらっとしてたアンタが悪いんでしょ?」
ジョシュアは、俺に呆れているようだ。
「あの、どうしてジョシュア君が受けなくてはいけないんですか? この街には冒険者が沢山いると伺ってますが」
「もちろん大勢の方がいらっしゃいますが、皆さんアイテムや食料確保に行っていただいているので、今討伐の依頼を受けていただける方が居なく、なかなか進まないのです」
ギュンターさんは淡々と続ける。
「それに、この街に今いる冒険者は高くてもCランク程度の方々ですから。 Bランクのジョシュア様が討伐して下さるなら、こちらも大変助かります」
無表情で俺を見つめるギュンターさんが、少し不気味に感じる。
「彼は強いのかもしれませんが、実際今の保護者は私です。 ここで今すぐお受けできません」
「彼本人が受けていただけるとおっしゃっていますが?」
「今、私含めジョシュア君もこの街にいつまでいるのか分からない状態すので、今せぐ答えは出せません。
申し訳ないのですが、本日はお引き取り下さい」
そう言いながら俺は立ち上がり、ドアを指さした。 っていうか、久々に自分のことを私って言ったな。 客先依頼だよ。
「ではジョシュア様、よろしくお願い致します」
とギュンターさんは捨て台詞を吐き、俺を一瞥もせず出て行く。
ローレンスさんはキョドキョドし、何度も頭を下げてギュンターさんの後を追って出ていった。
「なんで受けてあげないの?」
「あのね、ラウルさんからの手紙の封も開けてないのに、行かせる訳にはいかないの! 村に帰ってこいって書いてあるかもしれないでしょ?」
俺はジョシュアに手紙を読むよう促し、俺もラウルさんからの手紙の封を開けた。
ラウルさんから俺宛の手紙に書かれていることは、不器用ながらも繊細な文章で、ジョシュアが迷惑をかけたことへの陳謝と、感謝の言葉だった。
そして、もし迷惑じゃ無ければジョシュアを俺の側に少しの間でもいいので、居させてあげて欲しいと書かれていた。
ラウルさんの弟さんのことをテオドールさんから聞いていたから、なんだか胸が苦しくなる。
末筆には、お礼がしたいから必ずチコル村に帰ってくるように、と書かれていてグッと来た。
ジョシュアのほうを見ると、もう読み終わっていたようだった。
「なんて書いてあったの?」
「……。 めちゃくちゃ怒ってる」
「そりゃそうでしょ。 手紙読ませろとは言わないけど、言える範囲で聞かせてもらわないと」
ジョシュアは不満そうに、
「……。 アンタの言うこと聞けって」
ふふふっ。
「で、村には帰らなくていいって?」
「勝手にしろって書いてあった」
ラウルさんらしいな。
「そうなんだ。 じゃあ、しばらく俺たちと一緒ってことでいいんだね?」
「……。 うん」
「わ~い! ジョシュアいっしょ!!」
モコは喜んでジョシュアに抱きついた。
モコとジョシュアのじゃれ合いを見ながら、俺は言った。
「さっきの依頼だけど、受けないってことでいいよね?」
「はぁ? なんで?」
「だって、別に俺たち関係ないじゃん」
「あのさぁ〜……。 今までいなかったワイバーンが棲み付くって危ないわけ」
「なんで?」
「なんでだって? 今までいなかったモンスターが来るってことは、大発生の予兆なわけ。 しかもワイバーンなんて穏やかじゃない」
「ふ〜ん」
「ふ〜ん!? 街が襲われるかもしれないんだけど!?」
「あぁ、そうだね……」
「ったく……」
「ジョシュア君一人だったら、危ないんじゃないの?」
「はぁ!? アンタも行くんだよ!」
ジョシュアが真っ赤になって怒っている。 コイツ、案外正義感あるんだな。
って言うか、俺も行くの!?
「街のことも助けられるし、ダイエットにもなるんだからいいだろ!?」
めっちゃ怒ってる……。
「そうだね、ゴメン……」
渋々俺は同意することにした。
それから俺たちは、サイズが合わない服を新調しにテオドールさんの店に行くことにした。
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