異世界のんびり放浪譚

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第33話 シジミの味噌汁にネギは必要か?

公開日時: 2022年4月1日(金) 20:07
文字数:2,016

 マリタへの道のりは、とても穏やかとは言いがたいものがあった。

 ちょいちょいモンスターは出るわ、馬車の揺れは俺の腰に瀕死のダメージを与えるわ、夜の交代での見張りで寝不足やら……。

 ただ、食事に関しては肉野菜炒め以降、テオドールさん達は遠慮して声を掛けてくることはなかった。

 が、余ったらください!! と売り子君たちには言われたけど、余ることはなかった。 ごめんね。

 それに、匂いがあまり行かないよう風下で料理するようにしてたし、モコの爆食がバレるのも面倒だったし、一緒に食事にしないことが申し訳ないけどちょうど良かった。 ただ、俺は日々罪悪感に苛まれることになるんだけど。


 肉野菜炒めの時は、既にモコはかなりの量を食べていた後だったから大食いがバレなくて良かったよ。

 まぁ、ジョシュアにはバレてるからしょうがないけどね。 っていうか、ジョシュアの食事は俺持ちなんだよな……。

 ここを気にする俺は、やっぱり小物なんだろうか。


 そうこうしているうちに七日目、俺は遂に限界を迎えた。

 何が限界かって、豚肉ばかりの毎日に気が狂いそうだったんだ。 飽きた、飽きたんだ! 俺は魚が食べたいんだ!!

 ホッケの開き、銀ダラのみりん漬け、塩鮭やタラのムニエル、宗八ガレイ……。

「テオドールさん、この先で魚が手に入るようなところはありますか?」

「いやぁ、ありませんなぁ。 マリタまでのこの先は、ずっと街道ですしねぇ」

「そうですか……。 この前の川で釣りでもすれば良かったかな……」

「あぁ、川魚はクセがあって好みが別れますよ」

 どこの世界も同じなんだなと思ったら、笑える。


 その日の夕食、俺は我慢できずほっけの開きとシジミ、大根をネットスーパーで買った。

 モコとジョシュアは肉でいい、っていうか肉がいい、ということだったので簡単に豚丼のタレで料理をすますことにしよう。

 俺はまず米を炊き、シジミを水につけ砂抜きをしておき、その間にモコとジョシュアの肉を焼きまくる。

 そして水につけておいたシジミを使って、寸胴鍋で大量の味噌汁を作る。 味噌汁はモコもジョシュアも食べるからね。

 そしてこれは俺の強いこだわりなんだけど、シジミの味噌汁にはネギは入れない。 味が混ざってしまうし、単純にシジミだけを味わいたいんだ。

 俺が小学生の時、親戚の叔母さんの家でシジミの味噌汁にネギが入っていたことが衝撃だったな。 もしかしたら、そっちがスタンダードかもしれないけど。

 そして俺の中でシジミの味噌汁のいうのは、味噌汁ランキングのTOP3 に入る。 大好物といっていい。

 ホッケの開きはフライパンにクッキングペーパーを敷いて焼く。 これはもうちょっと検討していかなくちゃいけないな……。

 そして焼いてる間に大根おろしを作って、出来上がり!

 ここまで来てから、俺は閃いた。 ネットスーパーで、べったら漬けと白菜漬けも買うことを。

 完璧な夕食じゃないか?


 最近ジョシュアはダルそうにではあるけど、盛り付けなんかは無言で手伝うようになってきたので、少しだけ、ほんの少しだけ、助かるようになった。

 モコとジョシュアは豚丼と味噌汁、俺は白米、味噌汁、ホッケの開き、べったら漬けと白菜漬け。 俺の方が品数多いのはしょうがない。 モコもジョシュアも漬物なんか食べないだろうしね。

「今日、たかふみおんなじじゃないの?」

「そうだよ〜。 これは大人の味だからね〜」

「おとなのあじぃ?」

「そう、大人の味。 じゃあ、いただきます」

「いたらきたま〜す!!」

 モコもジョシュアもガツガツ食べている。

「うまい、うま〜い!」

 日本の食品メーカーに感謝だな。

 さぁ、俺も食べよう。 俺はシジミの味噌汁を飲む。

 う、うまい……。

 ホッケにはちょっと醤油をたらして食べると、さ、最高だ……!!

 うぅ……、マジで俺、間違いだったとはいえ、本当に日本人に生まれて良かった……!!

「ねぇ〜たかふみぃ、それなぁに?」

 モコがほっけと漬物に興味を持ち出してしまった……。

「これはほっけの開きって言って、こっちはべったら漬け、これは白菜漬けだよ。 モコには食べれないと思うよ? 大人の味だから、無理だと思う」

「モコ、たべてみたい!!」

 ゔっっ……。

「……。 一口だけだよ?」

「うん!」

 モコにほっけと漬物を一口ずつあげる。

「!? うまーーーい!!」

 マジか……。

「俺も食べたい」

 ジョシュア、ふざけんな……。

 俺は無言でジョシュアにも一口ずつ分ける。

「!?!?」

 ジョシュアも気に入ってしまった……。

「これ、もっと食べたい!!」

 えぇ〜〜〜? マジかぁ……。

「モコ、これはね、焼くのに時間がかかるし、大変だからこれ以上焼けないんだよ?」

「じゃあ、それちょうだい!」

 え……。


 結局モコとジョシュアにほっけをほとんど取られたし、漬物たちも追加で買わなきゃいけなくなったし、

シジミの味噌汁もモコとジョシュアに食い尽くされ、寸胴鍋が空になってしまった。

 俺は申し訳程度のほっけと、残りのシジミの味噌汁でねこまんまで夕食を済ますことになっちゃったよ。

 はぁ〜あ……。

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