「モコちゃん、寝ちゃいました……」
そう言いながら、メルちゃんは抱っこしているモコを俺に渡した。
「あぁ、ごめんね」
「いえいえ。 でもやっぱり、小さいモコちゃんは可愛いですね〜」
俺は「うん」と呟きながら、モコのぷくぷくほっぺを指で突っついた。
「それにしても、本当にこんなことがあるなんてな……」
ラウルさんは神妙な顔でモコを眺めている。
「おめぇらは、なんつーかよ……。 すげぇな」
「ハハ……」
「で? いつマリタ行くんだ?」
「とりあえず、明日また行ってきます」
海竜のダンジョンで海竜を倒したあと、モコは幼いモコに戻った。 嬉しいような、寂しいような、なんとも複雑な心境です。
群れだと思った海竜は、あまりにデカい海竜の地肌が水面からボコボコ出ているその姿に俺が錯覚しただけで、実際は二匹だった。
一匹はヒジャーバ、もう一匹はチコル村に卸し、経済的に良いカンフル剤になったと思う。 俺はまたしても尋常ではなく稼ぎまくり、特に欲しいものもない俺は嬉しさを感じることも麻痺していた。
失業手当時代の俺に教えてあげたい。 あの頃は、10円20円ですら安いものを、と求めていたんだからな……。
そして予想通りというか、王族主催のコンペは優勝という結果をもたらし、テオドールさんは嬉しさのあまりちょっと漏らしたらしい。 嬉ションって……。
王家のコンペで優勝した者は、王家主催のパーティにお呼ばれされる。 なので今回、俺の料理は不要だけど、何か一品頼みたい、とテオドールさんに言われていた。 純粋に自慢したいらしい。
そこで俺はキラービーを倒したときに幾らか手元に残してあった、蜂蜜を使ったホットケーキ、いや、パンケーキって今は言うんだっけ? それにすることにした。
翌日マリタへ行くと、上機嫌なテオドールさんが迎え入れてくれた。
「んん!? これはなんですか!? こんな美味しいなんて……」
テオドールさんに見本で作ったパンケーキを振る舞うと、目を見張って驚いている。
あっという間に食べ尽くし、満足そうにぽっこり出ているお腹をさすった。
「ハヤシさん王都の件なんですが、やっぱり無理でしょうか?」
俺に王都へ付いてきて欲しいテオドールさんは、必死に口説き落とそうとしてくる。
「今は無理ですね……。 なかなか忙しいので」
上級ランクの依頼を請け負ったり、ラーメン屋を手伝ったり、ギルドを手伝ったりと、マジで俺は忙しい。
王都なんか行ってる暇はない。
「でも、レシピと材料を置いて行きますから。 あと石鹸も」
「そうですか。 これ以上のお願いはハヤシさんの負担になってしまいますね……」
店の外まで送り出してくれたテオドールさんだったが、俺は店の前に平積み展示されている書籍に目が釘付けになった。
「あれ!? これってモコ……」
「あっ!!」
テオドールさんはマズイ!という顔をした。
そこにはモコ(大人ver.)が後ろ姿の男性を抱きしめ、しっとりと色気のある表情をしている絵が描かれた表紙の本が山積みされている。
「あのですねぇ〜……。 非常に言いづらいんですが、うちの姪っ子のジェニファーがですね、ハヤシさんと一緒にいらっしゃった男性のことを非常に気に入ってしまったようでして……」
「はぁ」
「で、なにやら男性同士の恋愛ものの本をたった一週間で書き上げまして、うちに置いて欲しい、と……」
「えぇ!?」
「ハヤシさんも読まれますか? これがなかなか良いんですよ……」
よ、読んだのかよ。
「いやいやいや、俺は結構です……」
「そうですか……。 いやはや……」
かくしてモコが表紙の異世界初BL本は、その年ナウリーノ国の年間ベストセラーになった。
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